キーワードは「単位操作」
化学工学はプラントに必要な要素を「単位操作」に分けて体系化させた学問と考えることができます。
プラント設計はこれら単位操作に関連した機器を適切に配置し、配管で繋げることが基本です。
物理的な学問
化学工学では化学反応だけを考える訳ではありません。
例えば単位操作の中には蒸留や濾過といった精製工程、流体の流れや伝熱といった移動現象などもあります。
むしろ反応以外の要素が大半を占めており、非常に物理的な学問です。
化学プロセスの基本
化学プロセスにおいては反応工程を基準として前工程と後工程を考えます。
前工程では「原料の調製」を、後工程では「分離・精製」を主に行います。
実施する反応を考慮して前後工程に適切な単位操作を割り当てます。

単位操作(流動と伝熱)
前項で単位操作に分けると説明しましたが、具体的な要素を紹介します。
まずは流体や熱の流れについてです。
流体の流れ
プラントでは基本的に液体や気体といった流体を扱うため、移送には配管を使います。
また基本的に移送にはポンプが使われます。
配管内の流体は整然と流れているか?管壁との摩擦はどの程度か?ポンプでどれくらいの圧力をかけて移送する必要があるか?といった内容を検討するために計算します。
撹拌混合
液体を混ぜたり反応させたりするときにタンクの中でかき混ぜる(撹拌する)ことが頻繁にあります。
そのため配管だけでなくタンク内の撹拌混合においても流体の流れを考慮します。
ただし容器内を循環する形式のため、配管とは違った計算式が用いられます。
具体的には、目的とする混ざり終わり時間や液量などから撹拌軸に取り付ける攪拌翼の形状、流れを調節するバッフル有無など攪拌特有の構造を検討します。
ただしレイノルズ数や粘度のような基本的な流体の特徴を考慮することには変わりません。
伝熱
化学反応の速度を速める、副生成物を減らすなどの目的で、よく加熱冷却して温度を調節します。
また加熱した流体の残熱は無駄にせず別の流体の加熱に用いることで省エネにもつなげます。
上記のような時に伝熱の理論を用います。
ただし蒸気や冷却水を混ぜられる製造条件は殆ど無く、熱交換器を用います。
熱交換器は2種類の流体が混ざり合うことなく効率的に高温流体から低温流体へ熱を伝えます。
例えば流体をどの程度まで加熱冷却させるか?を考慮するために流量や温度、熱交換器の構造などを計算します。
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単位操作(物質移動)
次は物質移動についてです。
前項の流動も物質移動では?と思うかもしれませんが、ここでは流体中の成分の移動についてを物質移動と表現しています。
つまり必要な成分を取り出す操作を指します。
種類も多いため、代表的な単位操作を抜粋して紹介します。
蒸留
蒸留は沸点の違いから物質を分ける操作です。
特に石油系プラントにおいては蒸留技術が重要となります。
工業的には蒸留塔と呼ばれる大きなもので数十メートルにも上る高さの塔が用いられます。
この蒸留塔1本で、実験室で行うような蒸留を何十回も行った精製効果が得られます。
具体的には、蒸留前の流体の組成や沸点、欲しい成分などから、必要となる蒸留塔のサイズや内部構造、蒸留方式などを計算します。
基本的に加熱する工程ですので、ここでも伝熱(熱交換器)の要素は関わってきます。

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濾過
濾過は濾材を用いて流体中に分散する固体粒子を捕集し分離する操作です。
濾材には砂や紙、布、膜など様々な材質のものが使用されます。
例えば反応後の副生成物が沈殿したときや白土を加えて脱色したときなどに行われます。
プロセス全体の処理速度から濾過速度や濾過面積を計算したり、粒子径から濾材の目の細かさを計算したりします。
固液分離は濾過以外にも凝集や沈降分離、浮上分離、遠心分離など様々な単位操作があります。
抽出
抽出は固体や液体中のある成分を、混ざり合わない別の液体に溶かしだす操作です。
区別するために液体の場合は液液抽出、固体の場合は浸出とも呼ばれます。
抽出は2層が接触することで物質移動するため攪拌操作を伴い、その後静置して2層に綺麗に分離する2段階の操作です(ミキサ・セトラー型)。
更に抽出後は抽出剤の蒸留が必要となり、抽出の検討の際には攪拌混合や蒸留についても考慮しなければなりません。
抽出したい成分や量を参考に、抽出剤の量や攪拌時間、抽出回数などを計算します。
他にもこんな操作がある
全てを説明するには量が多いため、単位操作名のみ紹介します。
- 流体が関係:ガス吸収、晶析、吸着、イオン交換、調湿、乾燥
- 粉粒体が関係:粉砕、分級、集塵
- バイオプロセス:酵素反応、微生物反応
その他に扱う内容
他にも化学工学では単位操作に関連する様々な内容を学びます。
物質収支とエネルギー収支
質量保存の法則やエネルギー保存の法則に則り、投入したエネルギーが何に使われ、物質がどこに移動しているかを把握します。
その際に収支計算を行い、物質及び熱収支計算書類としてまとめられます。
スケールアップ
新たな反応や製造方法を導入する際には実験室レベルの小さなスケールから試作します。
その結果を工業スケールで再現できるようにするのは、熱の伝わり方や攪拌しやすさなどが大きく違うため容易ではありません。
少しずつ規模を大きくし、実験データから製造条件や装置仕様を推定します。
最終的に様々な課題を把握・解決したうえで経済性を加味して商業展開することができます。
プロセスシステム
目的の製品を作るために各単位操作の組み合わせ方や処理方法を検討します。
代表的な検討項目として、間欠的に処理するバッチ式と絶えず処理する連続式の選択が挙げられます。
配管設計もプロセスシステム検討において重要な要素です。
オススメ書籍
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