蒸気圧とは
蒸気圧とは気液平衡状態にある時の蒸気の圧力を表します。
飽和蒸気圧とも呼ばれ、蒸気圧が高いほど蒸発しやすいことを意味します。
蒸気圧のイメージ
水が入った容器を考えます。
蓋をせず上部を開放していた場合、水は時間経過とともに蒸発して減っていきます。
対して蓋をした状態では、蒸発しながらも水は減っていかないため蒸気と水が混在した空間となります。
最終的には蒸発と凝縮の速度が同じである気液平衡状態となります。
気液平衡状態での蒸気の圧力が蒸気圧です。
温度と蒸気圧の関係
温度が高いほど蒸気圧は指数関数的に高くなります。
この温度と蒸気圧の関係を表した線を蒸気圧曲線と呼びます。
蒸気圧が大気圧(1atmや101.3kPa)である時の温度が常圧の沸点です。
大気の圧力を蒸気圧が上回ることで沸騰するようになります。
参考として、後述するアントワン式を用いてプロットした蒸気圧曲線を以下に示します(アントワン定数参考)。
水とエタノール、メタノールで蒸気圧曲線は違うように、物質によって蒸気圧曲線は異なります。
混合溶液の蒸気圧
これまでは単一成分に関する蒸気圧について述べました。
2成分以上の混合溶液の場合はラウールの法則に従います。
各成分の蒸気圧に系内でのモル分率をかけた値が各成分の蒸気圧です。
各成分の蒸気圧を合計すると、その系内の全圧が求まります(ドルトンの法則)。
ラウールの法則とドルトンの法則
$$P=\frac{n_A}{n_A+n_B}P_A+ \frac{n_B}{n_A+n_B}P_B $$
P:全圧[Pa]、PA ,nA:物質Aの蒸気圧[Pa]と物質量[mol]
PB ,nB:物質Bの蒸気圧[Pa]と物質量[mol]
上式の物質Bが不揮発性物質であった場合、例えば食塩水を考えます。
不揮発性物質である食塩を添加するほど水のモル分率は減少するため、水の蒸気圧は低下します。
これを蒸気圧降下と呼びます。
また蒸気圧が下がることにより沸点が上昇しますので沸点上昇とも呼ばれます。
プラントへの応用
ここではプラントでの蒸気圧の利用方法を解説します。
蒸留
蒸留は物質の沸点の違いを利用して分離するため蒸気圧と密接に関わります。
蒸留の計算を行うには蒸気圧を確定・予測しておく必要があります。
また系内の圧力を下げ沸点を下げて蒸留する減圧蒸留は有名です。
キャビテーション
キャビテーションは液体が流れる場所で圧力差が生じた際に、短時間で気泡の発生と消失を繰り返す現象です。
気泡が弾けて消失する際には大きなエネルギーが発生します。
そのため配管や機器へのダメージを避けるためにもキャビテーションを防ぐ必要があります。
キャビテーションは特に船のスクリューやポンプなど周囲との速度差が大きいエリアで起こります。
例えばポンプの場合、ポンプ内の圧力が蒸気圧以下まで下がると液体の蒸発が始まり気泡が発生します。
液体の蒸気圧を把握し、ポンプ内部の圧力を想定して配管等も含めた設計をしなければなりません。
蒸気圧の求め方
ここでは蒸気圧の求め方を解説します。
ちなみに基本的な物質は既にデータがあることが多く、まずは調査することをお勧めします。
アントワン式
蒸気圧の経験式としてアントワン式があります。
アントワン式
$$\log_{10}P = A-\frac{B}{t+C}$$
P:圧力[mmHg]、t:温度[℃]、A:アントワン定数[-]、B, C:アントワン定数[℃]
アントワン定数は物質固有の値です。
アントワン定数が分かれば温度に対する圧力(蒸気圧)が求められ、蒸気圧曲線が作図できます。
アントワン定数は大江先生のHPにも一部掲載されています。
また化学工学便覧には大量のアントワン定数が掲載されていますので参考にしてください。
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改訂七版 化学工学便覧
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アントワン定数と温度から蒸気圧を換算できるツールも作っております。
プロセスシミュレータ
既知の物性データはプロセスシミュレータのデータバンクに保存されている場合があります。
実際にシミュレーションをする際は物性値ではなく物質名を選択するのみです。
実験
既知のデータがない場合は実験により求めます。
測定方法には様々な種類があり、必要となる試料の量や求める精度により異なります。
代表的な測定方法に関しては東レリサーチセンターのHPに記載されています。
また外部に委託する方法もあります。
例えばアドバンス理工では蒸気圧の受託分析サービスを行っています。
オススメ書籍
・トコトンやさしい蒸留の本
蒸留を勉強するときに最初に読んでおきたい書籍です。
国内の蒸留研究で有名な大江先生が書かれています。
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トコトンやさしい蒸留の本
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・絵とき「蒸留技術」基礎のきそ
「トコトンやさしい蒸留の本」で蒸留の考え方に慣れてきたらこちらの本でステップアップします。
様々な条件における蒸留計算が体系的に解説されています。
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絵とき「蒸留技術」基礎のきそ
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・化学工学ー解説と演習ー
化学工学を勉強したい!と思ったら真っ先にオススメしたい書籍です。
蒸留に関しては装置構成についても触れられています。
また、他の汎用化学工学書籍には無い「撹拌動力計算」や「撹拌伝熱計算」も記載されています。
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化学工学―解説と演習ー
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