スケールアップの基本手順
装置の規模を大きくした場合、装置内の流動や伝熱の状態は大きく異なります。
そのため急に大スケールの設備を導入することはなく、段階的に装置規模を大きくしながら条件を詰めていきます。
また、その過程で製造における主要因子を特定します。
これをスケールアップと呼びます。
ラボスケール
ラボスケールではガラス器具などを使い基礎研究するステップです。
このステップを要素試験とも呼びます。
実験室のレベルで以下のようなデータを収集します。
- 使用原料や触媒
- 温度や圧力、流量などの操作条件
- 品質や収率
- 副生成物
上記の実験データに基づき、更に同スケールで一連のプロセスシステムを組んでみます。
プロセスシステムも含めたビーカーレベルの実験で明らかになる結果から、商業展開の可能性を評価します。
ベンチスケール
ラボスケールでの結果を踏まえ、ベンチスケールでプロセス開発し製造フローを確立します。
このステップを確認試験とも呼び、ここから工業化の検討が始まります。
名前の通り、公園のベンチ程度の規模にスケールアップするイメージです。
ベンチスケールでは以下のようなデータを収集します。
- 品質や収率
- 温度や圧力などの操作条件
- 流動や伝熱の状況
- 強度や腐食など装置への影響
- 設備化した際の経済性
パイロットスケール
ベンチスケールから商業プラントへ直接スケールアップするには規模が違いすぎる場合があります。
その際はパイロットスケールと呼ばれる、スケールが1/10程度の商業プラントと同じ設備を作りデータ収集します。
このステップを実証試験とも呼びます。
設備構成やフロー、制御システムなどは商業プラントと変わりません。
むしろデータ収集が目的ですので、商業プラントよりもセンサーや配管が増えて複雑な構成になりがちです。
ある程度まとまった製品サンプルができますので、市場調査や市場開拓にも活用されます。
商業プラント
パイロットスケールまで確認できれば商業プラントの設計・建設です。
ただしここまで検証したにも関わらず試運転では苦労して条件確立することが殆どです。
スケジュールに余裕があるときは、まず1ラインのみ導入する場合もあります。
(補足)スケールアップの種類
一般にスケールアップはサイズを大きくして生産量を増やす意味を指します。
しかし生産数量を増やすには以下のような方法もあります。
- 装置の数を増やす:既存サイズのタンクを1基ではなく2基用意する
- 製造方式を変更する:例えばバッチ製造から連続製造
重要な相似の考え方
スケールアップを考慮するためには相似を利用します。
相似とは「同じ形のまま拡大・縮小した図形である」ことを意味します。
幾何学的相似
幾何学的相似とは対応する寸法比が等しいことを意味します。
例えば流路の形が挙げられます。
直進・下降・曲がりなど配管長さの比が等しい場合は幾何学的相似であると言えます。
力学的相似
流体を扱う中で重要な数値としてレイノルズ数が挙げられます。
レイノルズ数は流体の慣性力と粘性力の比を表しており、分子が慣性力、分母が粘性力です。
レイノルズ数$$\frac{D u \rho}{\mu} $$D:配管内径[m]、u:流速[m/s]、ρ:密度[kg/m3]、μ:粘度[Pa・s]
幾何学的相似である装置においてレイノルズ数が等しい場合、慣性力と粘性力の比が等しいことを意味します。
このような状態を力学的相似であると表します。
スケールアップにおいてレイノルズ数を参考にした設計は頻繁に行われます。
ただし、外部加熱や化学反応、物質移動など外的要因が多数あるため、レイノルズ数のみでは簡単に再現できないのが現実です。
だからこそベンチスケールやパイロットスケールでデータ収集します。
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