メカニカルシールはポンプや撹拌機など回転機器で使用される機械要素の一つです。
最低限の特徴だけでも理解しておくと今後の業務に役立ちます。
メカニカルシールの特徴
- 軸貫通部からの漏れを防ぐ軸封
- 漏れを最小限に抑える役割であり、漏れを完全に防ぐものではない
- グランドパッキンと比べて初期費用が高い一方でランニングコストは安い
- そもそもシールを用いないポンプも存在する
メカニカルシールとは
まずはメカニカルシールの基本情報を押さえておきます。
略して”メカ”や”メカシ”と呼ぶ方もいらっしゃいます。
軸封装置
メカニカルシールは軸封装置と呼ばれ、軸貫通部の隙間を埋める役割があります。
例えば回転機器の軸貫通部からの液体漏れや空気の吸い込み、異物混入を防ぎます。
ただし漏れを最小限に抑える役割であり、漏れを完全に防ぐものではありません。
下図はポンプを例にした漏れ箇所のイメージです。

ポンプの羽を回転させるためにモーターの動力が必要になります。
一方で動力を伝える軸はケーシングを貫通しなければいけなく貫通部の僅かな隙間から漏れが発生してしまいます。
軸とケーシングを極限まで精密に作れば隙間を無くせるかもしれませんが、それでは非常に高コストです。
そのため隙間部分を塞ぐ部品(つまりメカニカルシール)のみを精密に作って塞ぐ方式がとられるようになりました。
グランドパッキンとの違い
グランドパッキンは繊維を編み込んだひも状のパッキンです。
軸周りにグランドパッキンを詰めてボルトで押さえこむことでシールします。
グランドパッキンは軸の摩耗と共に増し締めが必要になります。
対してメカニカルシールは摩耗分に対してスプリングで追従することができるため安定したシール性能を維持できます。
項目 | メカニカルシール | グランドパッキン |
---|---|---|
初期費用 | 高価 | 安価 |
維持費用 | 安価 | 高価 |
構造 | 複雑で精密な構造 | 簡易な構造 |
スラリー液 | 対応 | 非対応 |
漏れ量 | 少ない | 多い |
交換頻度 | 数年に1回 | 1年に数回 |
軸の摩擦抵抗 | 小さい | 大きい |
摩擦による動力損失 | 小さい | 大きい |
交換時機器分解 | 必要 | 不要 |
回転環と固定環
メカニカルシールは回転環と固定環で構成されており摺動面(回転環と固定環の接触面)は非常に平滑になっています。
そのうち回転環はシャフトに固定されて固定環と接触しながら回転します。
ただし回転環と固定環の間にはミクロン単位の微小隙間を設けてあり、固定環の供回りはありません。
隙間があるかないかぐらいの精密構造になっていることで低摩擦・高シール性が確保されています。
ちなみに設けられた隙間には液体が入り込み摺動面の潤滑剤としても機能します。
回転環と固定環の隙間では摩擦熱が発生し液体の蒸発が起きるようになっています。
そのため蒸気の漏れが多少あることは意識しておかなければなりません。
ドライメカニカルシール
液体にメカニカルシールを使用する場合、その液体自体が摺動面の潤滑剤として機能します。
そのため気体用のメカニカルシールは摺動面の潤滑剤がなくドライメカニカルシールと呼ばれます。
一般的には回転環に溝が施されており固定環との間に圧力差が発生する(ポンピング作用)ように設計されています。
つまり大気側の圧力が大きくなることで外部への漏れを防ぐことができます。
ただし液体と違い流体を摺動面の潤滑剤として利用できないことから高速回転での使用はお勧めできません。
シールレスポンプ
実はポンプにはメカニカルシールやグランドパッキンのようなシール(軸封装置)を用いない種類が存在します。
そもそも軸貫通部の隙間を埋めるためにシールが用いられます。
つまり液が充満しているケーシングにモーター回転軸が貫通していないポンプが存在するということです。
代表的な2種類のポンプを紹介します。
マグネットポンプ
シールレスポンプとしてまず最初に思い浮かぶポンプです。
モーターの動力をケーシング内へ伝えるために磁力を用いています。
モーターに直結した外側マグネットが回転し、それに合わせてケーシング内の内側マグネットも回転させることでケーシング内外の軸を切り離すことに成功しました。

キャンドモーターポンプ
キャンドは瓶詰めなどを意味する”canned”が由来です。
つまりモーターがポンプケーシング内に収められたポンプです。
そのため軸をケーシングに貫通させる必要が無く、シールも必要がなくなりました。
接液部の軸にはモーターの回転子、回転子と仕切られた部屋にはモーターの固定子が設けられています。
固定子に三相交流電源を接続することで磁界が回転、中の回転子も一緒に回転するようになります(モーターの原理)。
