ポンプに重要なメカニカルシールの基礎知識

2021年7月14日 広告

メカニカルシールは、ポンプや撹拌機などの回転機器で使用される重要な機械要素の一つです。主に次の特徴があります。

  • 軸貫通部からの漏れを防ぐ軸封装置として機能
  • 漏れを最小限に抑える役割を果たすが、完全な漏れ防止ではない
  • グランドパッキンと比較して初期費用は高いが、長期的にはランニングコストが安価
  • 一部のポンプではシールを使用しない設計も存在

メカニカルシールとは

メカニカルシールの基本的な情報について解説します。

メカニカルシールとは、ポンプや撹拌機などの回転機器で使用される重要な機械要素の一つです。その主な役割は、回転軸とケーシングの間の隙間を密閉し、液体の漏れや空気の侵入を防ぐことです。

業界では、メカニカルシールを略して"メカ"や"メカシ"と呼ぶこともあります。これらの略称は、現場での日常的なコミュニケーションで使用されることがあります。

軸封装置

メカニカルシールは軸封装置と呼ばれ、軸貫通部の隙間を埋める役割があります。

例えば回転機器の軸貫通部からの液体漏れや空気の吸い込み、異物混入を防ぎます。ただし漏れを最小限に抑える役割であり、漏れを完全に防ぐものではありません。

軸とポンプケーシングからの漏れイメージ

ポンプの羽を回転させるためにモーターの動力が必要になります。

一方で動力を伝える軸はケーシングを貫通しなければいけなく貫通部の僅かな隙間から漏れが発生してしまいます。

軸とケーシングを極限まで精密に作れば隙間を無くせるかもしれませんが、それでは非常に高コストです。そのため隙間部分を塞ぐ部品(つまりメカニカルシール)のみを精密に作って塞ぐ方式がとられるようになりました。

メカニカルシールは、回転軸と固定部の間に設置され、流体の漏れを防ぐ重要な役割を果たします。特に、高圧や高温の環境下で使用されるポンプやコンプレッサーなどの回転機器において、その性能が重要視されます。

グランドパッキンとの違い

グランドパッキンは繊維を編み込んだひも状のパッキンです。軸周りにグランドパッキンを詰めてボルトで押さえこむことでシールします。

グランドパッキンは軸の摩耗と共に増し締めが必要になります。また、摩擦が大きく、軸の摩耗も進行しやすいという欠点があります。

対してメカニカルシールは、摩耗分に対してスプリングで追従することができるため、安定したシール性能を維持できます。メカニカルシールは、グランドパッキンと比較して初期費用は高くなりますが、長期的には保守費用が少なく済むため、ランニングコストの面で優れています。

さらに、メカニカルシールは高速回転や高圧条件下でも優れたシール性能を発揮し、漏れを最小限に抑えることができます。これらの特徴により、多くの産業分野でメカニカルシールがグランドパッキンに代わって採用されるようになりました。

項目メカニカルシールグランドパッキン
初期費用高価安価
維持費用安価高価
構造複雑で精密な構造簡易な構造
スラリー液対応非対応
漏れ量少ない多い
交換頻度数年に1回1年に数回
軸の摩擦抵抗小さい大きい
摩擦による動力損失小さい大きい
交換時機器分解必要不要
メカニカルシールとグランドパッキンの違い

回転環と固定環

メカニカルシールは、回転環と固定環という2つの主要な構成要素から成り立っています。これらの部品は、シールの機能を果たす上で重要な役割を担っています。

回転環はシャフトに固定され、固定環と接触しながら回転します。その名の通り固定されたまま動きません。両者の接触面、つまり摺動面は非常に平滑に加工されており、高度な精密加工技術が用いられています。

興味深いのは、回転環と固定環の間にはミクロン単位の微小な隙間が設けられていることです。この隙間は、固定環の供回りを防ぐと同時に、メカニカルシールの性能を最適化する上で重要な役割を果たしています。

この微小隙間により、低摩擦と高いシール性能が両立されています。さらに、この隙間には液体が入り込み、摺動面の潤滑剤としても機能します。これにより、摩擦による摩耗を最小限に抑えつつ、効果的なシールを実現しています。

しかし、回転環と固定環の隙間では摩擦熱が発生し、液体の蒸発が起こります。そのため、蒸気の形での多少の漏れは避けられません。これは、メカニカルシールの特性として認識しておく必要があります。

メカニカルシールの設計においては、この微妙なバランスを保つことが重要です。シール性能を維持しつつ、摩擦や摩耗を最小限に抑えることに技術力が求められています。

ドライメカニカルシール

液体用のメカニカルシールとは異なり、気体用のメカニカルシールは摺動面の潤滑剤がないため、ドライメカニカルシールと呼ばれます。このタイプのメカニカルシールは、特殊な設計が施されています。

一般的に、回転環には溝が刻まれており、この溝と固定環との間に圧力差を生じさせる(ポンピング作用)ように設計されています。この設計により、大気側の圧力が大きくなり、外部への漏れを防ぐことが可能となります。

ドライメカニカルシールの特徴として、以下の点が挙げられます。

  1. 摺動面の潤滑剤がない
  2. 回転環に特殊な溝加工
  3. ポンピング作用による圧力差の利用
  4. 外部への漏れ防止機能

しかしながら、液体と違って流体を摺動面の潤滑剤として利用できないという特性上、高速回転での使用には適していません。そのため、ドライメカニカルシールの使用には、回転速度や運転条件に関して慎重な検討が必要となります。

メカニカルシールの選定において、液体用か気体用かを正確に判断することが重要です。適切なタイプのメカニカルシールを選ぶことで、効果的なシール性能を確保し、機器の安全性と効率性を高めることができます。

シールレスポンプ

ポンプの世界には、メカニカルシールやグランドパッキンのような軸封装置を必要としない種類が存在します。

これらは「シールレスポンプ」と呼ばれ、独自の設計によって軸貫通部の隙間を埋める必要性を排除しています。

代表的なシールレスポンプには、マグネットポンプとキャンドモーターポンプがあります。

マグネットポンプ

シールレスポンプの代表格として、まず挙げられるのがマグネットポンプです。

モーターの動力をケーシング内へ伝えるために磁力を用いています。

モーターに直結した外側マグネットが回転し、それに合わせてケーシング内の内側マグネットも回転させることでケーシング内外の軸を切り離すことに成功しました。

マグネットポンプ構造イメージ

ただし、マグネットポンプにも制限はあります。

磁力による動力伝達の特性上、大容量や高圧力の用途には不向きな面があります。また、磁性体の粒子を含む液体の移送には適していません。

キャンドモーターポンプ

キャンドは瓶詰めなどを意味する”canned”が由来です。つまりモーターがポンプケーシング内に収められたポンプです。そのため軸をケーシングに貫通させる必要が無く、シールも必要がなくなりました。

接液部の軸にはモーターの回転子、回転子と仕切られた部屋にはモーターの固定子が設けられています。

固定子に三相交流電源を接続することで磁界が回転、中の回転子も一緒に回転するようになります(モーターの原理)。

キャンドモーターポンプ構造イメージ

オススメ書籍

・トコトンやさしいポンプの本

まずポンプを勉強するときにオススメしたい書籍です。
構成要素や性能といった基礎知識、据え付けと試運転のような現場寄りの内容も記載されています。

トコトンやさしいポンプの本 (今日からモノ知りシリーズ)
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・絵とき「ポンプ」基礎のきそ

ポンプの中でも汎用的に使われる渦巻ポンプについての詳細な解説がされています。
仕様の決め方、運転方法、点検方法のような実務に近い要素について勉強になります。

絵とき「ポンプ」基礎のきそ-選定・運転・保守点検-
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・わかる!ポンプの選び方・使い方

ポンプの本の中でも補助的に活用できる書籍です。
基本事項だけでなく配管設計方法、制御方法、省エネの考え方などが記載されています。

わかる!ポンプの選び方・使い方
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