特に化学プラントは可燃性ガスや粉塵が存在するため、爆発性雰囲気が形成される可能性の高い現場です。
火花や高温による引火の危険性があるエリアでも安全に操業できるよう防爆機器の使用が求められます。
防爆が求められるのはロボットも例外ではありません。
また人と共に作業可能な協働ロボットが普及して、今や可搬重量20kg越えが当たり前の時代となっているものの防爆という制約により導入できない企業が多数存在します。
今回は数少ない防爆の協働ロボットについて情報をまとめました。
防爆の協働ロボット
残念ながら協働かつ防爆のロボットは1社しか販売されていません。
防爆はファナックだけ!
調べた限り防爆である協働ロボットはファナックの「CRX-10iA/L Paint」のみです。
塗装現場での使用が想定されており、国際規格に準拠した防爆構造を備えています。
可搬質量10kg、リーチ1,418mmと汎用性も十分あるサイズです。
量産開始時期は2024年8月で世界初の国際規格防爆協働ロボットとして注目を集めています。
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ロボット新商品:世界初の国際規格防爆協働ロボット CRX-10iA/L Paint - 新商品紹介 - ファナック株式会社
fanuc.co.jp
空圧式Festo Cobotは非防爆の可能性が高い
本質的な防爆のために、よく空圧機器が使用されます。
販売されていないもののFesto社より空圧式協働ロボットが発表されています。
ただしロボットには制御・安全用のセンサーやエアー調整用のバルブが内蔵されています。
公式に防爆とは謳っておらず、構造的を見る限り防爆でない可能性が高いです。
防爆の協働ロボットを選定する時の注意点
防爆であればどれでも使用できるわけではありません。
非常に重要な注意点を2つ紹介します。
国内防爆検定品の使用が必須
防爆機器を日本国内で使用する場合、国際規格に適合していても国内の防爆検定を取得していなければなりません。
国内防爆の規格は2種類あります。
- 電気機械器具防爆構造規格(昭和44年労働省告示第16号):従来から使用されている国内規格、d2G4などの表記方法(通称:構造規格)
- 国際整合防爆指針:IEC(国際電気基準会議)の規格に基づく国際規格、Ex d IIB T4などの表記方法(通称:整合指針)
防爆のゾーンを意識しておく
爆発性雰囲気が存在する可能性に基づいて危険区域が分類されます。
以下のような区分で分けられており、区域によって採用できる防爆構造の種類が異なります。
危険区域 | 環境 | 例 | 使用可能な防爆構造 |
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ゾーン0 | 爆発性雰囲気が連続して、長期間または頻繁に存在する場所 | タンク内部、配管内部 | 本質安全防爆、樹脂充填防爆、特殊防爆 |
ゾーン1 | 通常の運転状態で、爆発性雰囲気が生成される可能性がある場所 | タンクの開口部付近、充填作業場所 | 耐圧防爆、内圧防爆、安全増防爆、油入防爆、本質安全防爆、樹脂充填防爆、特殊防爆 |
ゾーン2 | 通常の運転状態では爆発性雰囲気が生成される可能性が低く、生成されても短時間しか持続しない場所 | 配管やパッキンの付近、換気装置の故障時 | 耐圧防爆、内圧防爆、安全増防爆、油入防爆、本質安全防爆、樹脂充填防爆、非点火防爆、特殊防爆 |
つまり協働ロボットが防爆品であるものの、場所によっては使用できない可能性があります。
安全性の確保
前提として、協働ロボットが保証しているのはロボット本体の安全性です。
トータルの安全性はロボットシステムインテグレータと相談しながらユーザーの責任で判断しなければなりません。
極端な例では、ロボットに刃物を持たせると、いくら衝撃で止まると言っても安全ではありません。
人間とロボットの協働エリアの安全対策を十分組み込んだ状態で導入しなければなりません。
プラント自動巡回点検防爆ロボット EX ROVR
最後に、産業用ロボット以外の防爆ロボットを1つ紹介します。
三菱重工は、プラント設備の自動巡回点検に使用できる防爆ロボット「EX ROVR」を発表しました。
防爆規格IECExおよびATEXに準拠しています。
高い走行機能とセンシング技術を持っており、危険な場所や定期的な巡回が必要な点検箇所での活用が期待されます。
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三菱重工 | プラント自動巡回点検防爆ロボット EX ROVR “ASCENT” : 製品
www.mhi.com
まとめ
現状、防爆である協働ロボットはファナックの「CRX-10iA/L Paint」のみです。
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ロボット新商品:世界初の国際規格防爆協働ロボット CRX-10iA/L Paint - 新商品紹介 - ファナック株式会社
fanuc.co.jp
協働ロボットの高可搬重量化についてもファナックが先導した実績があり、今回CRX-10iA/L Paintが販売されることに伴い各社でも開発が進められる可能性があります。
ただし防爆と一言にいっても使用エリアによっては防爆基準に適合しないことがあります。
ロボットの仕様が合わない場合、それまでは塗装用で使われるような柵を設ける産業用ロボットを活用しなければなりません。
高温・防爆のロボットシステムに強いロボットSIerも存在しますので、そういった企業に相談するのも一つの手です。
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危険物・重量物・高温・防爆ロボットシステム|ロボットSIer|コスモ技研オフィシャルサイト
www.cosmo-gi.com
参考資料
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海外の防爆機器は日本でも使える?日本の防爆規格や法整備 - 防爆工事.com | 防爆対策の総合情報サイト防爆工事.com | 防爆対策の総合情報サイト
boubaku.seikun.co.jp
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ATEXと日本防爆の相違点|ケイエスシージャパン - KSC JAPAN株式会社
exksc.co.jp
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防爆エリア(危険場所)の基礎知識と分類方法を解説|株式会社カナデン 製品サイト
products.kanaden.co.jp
オススメ書籍
・トコトンやさしいロボットの本
ロボットを構成する要素や技術、また活用場所について解説されています。
まずロボットを理解するためにオススメしたい書籍です。
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今日からモノ知りシリーズ トコトンやさしいロボットの本 第2版
www.amazon.co.jp
・産業用ロボット The ビギニング
産業用ロボットに焦点を当てて、種類や構成要素について詳細な解説がされています。
重要となる法令と規則についても勉強になります。
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産業用ロボット The ビギニング
www.amazon.co.jp
・産業用ロボット全史
産業用ロボットを扱うにあたり、予備知識として発展の歴史が学べます。
技術的に何が求められ、技術的に発展し、現在に至るのか非常に参考になります。
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産業用ロボット全史 自動化の発展から見る要素技術と生産システムの変遷
www.amazon.co.jp