撹拌槽スケールアップの基本
前提として撹拌槽のスケールアップにおける基本事項を紹介します。
幾何形状を合わせる
基本的に相似な形状でスケールアップします。
完全な相似は無い
大小スケールで同一の流動状態を得るにはレイノルズ数Reとフルード数Frを一定にしなければなりません。
これを力学的相似と呼びますが、物理的に不可能です。
そのため最優先事項を定めたうえで一定にする指標を選択し、可能な範囲でズレが無いようスケールアップを検討します。
撹拌レイノルズ数
$$ Re=\frac{d\left(nd\right)\rho}{\mu}=\frac{nd^{2}\rho}{\mu}$$Re:撹拌レイノルズ数[-]、n:回転数[1/s]、d:翼径[m]
ρ:密度[kg/m3]、μ:粘度[Pa・s]
フルード数
$$ Fr=\frac{\left(nd\right)^{2}}{dg}=\frac{n^{2}d}{g}$$Fr:フルード数[-]、n:回転数[1/s]、d:翼径[m]、g:重力加速度[m/s2]
一定にする指標
槽内の流体の体積V[m3]を循環流量qc[m3/s]で割ることで循環時間Tc[s]を計算し評価することもあります。
単位体積あたりの撹拌所要動力Pv
単位体積あたりに与える撹拌所要動力を一定にする考え方は頻繁に用いられます。
幾何学的相似かつ乱流条件(バッフル有)において、小スケール時の回転数を基にスケールアップ後の回転数を試算できます。
Pv一定における回転数(幾何学的相似かつ乱流域)
$$ \frac{n_{2}}{n_{1}}=\left(\frac{d_{1}}{d_{2}}\right)^{2/3}$$
添字1:小スケール、添字2:大スケール
n:回転数[1/s]、d:翼径[m]
撹拌所要動力Pvは0.2~0.4kW/m3の範囲で回転数を設定することが多いです。
伝熱特性や物質移動特性(気液撹拌)ではPvとの相関式が提案されています。
また固液撹拌ではZwieteringの相関式、液液撹拌ではSauter平均液滴径がPv一定で相関できます。
翼先端速度u
懸濁重合反応や晶析など、流刑制御を行う場合は翼先端速度uを一定にする場合があります。
これは粒子径の制御や塊発生の抑制をするためです。
単位体積当たりの撹拌所要動力Pvを一定にしてスケールアップすると、翼先端速度uが大きくなることで循環回数(混合速度)が低下します。
循環回数はラボ試作1L(0.001m3)に対し、1m3で1/3、10m3で1/10程度になります(Np=4, Nqd=0.16のとき)。
翼先端速度
$$ u=\pi nd$$u:翼先端速度[m/s]、d:翼径[m]、n:回転数[1/s]
伝熱面積
撹拌槽では主にジャケットを用いた加熱冷却を行います。
形状を同じにしたままスケールアップした場合、単位体積当たりの伝熱面積は極端に減少します。
例えば1Lから1000L(1m3)にスケールアップすると1/50程度になってしまいます。
そのため槽内に伝熱コイルを設けたり、外部に熱交換器を設けたりして伝熱面積を稼ぐことを前提に検討されます。
参考資料
・最新ミキシング技術の基礎と応用
撹拌に関する詳細な計算方法が解説されています。
撹拌機の機械的強度の計算など、撹拌装置を設計するためのノウハウが詰め込まれておりオススメです。
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最新ミキシング技術の基礎と応用(化学工学の進歩42)
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・プロセスケミストのための化学工学
化学プロセスの各要素に対する設計方法や注意点が解説されています。
実用的なプロセス設計を勉強したいときにオススメの書籍です。
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プロセスケミストのための化学工学(基礎編)
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・化学工学ー解説と演習ー
化学工学を勉強したい!と思ったら真っ先にオススメしたい書籍です。
他の汎用化学工学書籍には無い「撹拌動力計算」や「撹拌伝熱計算」も記載されています。
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化学工学―解説と演習ー
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