プラントの多くはDCSによる自動制御が行われています。
しかし自動制御しきれない工程も多く、手動操作を織り交ぜることで最適運転に近づけていることが実状です。
この操作は熟練技術が必要なため今後の人材問題の一つになりかねません。
また運転の最適化には時間を要するため無駄な時間やエネルギーが発生しています。
その対策としてAIをプラント制御に活用することが注目されています。
今回は実プラント制御へAIを活用した事例を整理しました。
国内のAI活用事例
国内のAI活用事例について概要を記載しています。
運転データなどの画像はリンクからご確認ください。
ミラープラントとの組み合わせ
発表日:2020年11月16日
- 【AI技術提供】日本電気株式会社(NEC)
- 【AI技術提供】国立研究開発法人 産業技術総合研究所(産総研)
- 【プラントシミュレータ提供】株式会社オメガシミュレーション
- 【導入先】三井化学株式会社
現在のプラントの状況を再現したミラープラントとAIが組み合わさっています。
強化学習のAIを用いており、ミラープラントで様々な操作を試してみて最適な操作の推奨値を示してくれます。
当然これまで行ったことが無い操作もAIは試しています。
またマニュアルや運転規約などの情報を事前に学習しており、操作すべき対象を事前に絞り込めているため素早い判断が可能になっています。
特に運転条件変更から安定状態に到達するまでの最適化に使用されています。
オペレータの手動操作と比較して40%効率的な運転が可能になるとのことです。
本件では訓練用実プラントが用いられています。
参考資料:AIにより化学プラントの運転変更操作を40%効率化
熟練オペレータの操作を模倣
発表日:2021年10月7日
- 【AI開発ツール提供】NTTコミュニケーションズ株式会社
- 【専門的知見の提供】横河ソリューションサービス株式会社
- 【導入先】JNC石油化学株式会社
オペレータが行う操作をAI学習し、今後の運転において操作の推奨値をガイダンス表示してくれます。
発表記事中では「AIプラント運転支援ソリューション」と記載されています。
特徴としてAIが模倣学習という熟練オペレータの操作自体を学習するAIを使用していることです。
NTTコミュニケーションズが開発したAIである「Node-AI」を活用し、そこに横河ソリューションサービスのプラント運転ノウハウが組み合わさっています。
オペレータの熟練度に依存しない安定した運転が可能になります。
また2022年4月8日にはAIプラント運転支援ソリューションとして製品化されています。
無償で最初のAIモデル構築し、実用可能であれば年間契約で保守も含めたサービスを受けられます。
参考資料:AIにより手動オペレーションが不可欠な運転を支援する「AIプラント運転支援ソリューション」を化学プラントに導入し実証実験に成功
抽出装置を2日間の自動運転
発表日:2022年1月13日
- 【AI開発】株式会社Preferred Networks
- 【導入先】ENEOS 株式会社
ブタジエン抽出装置を2日間に渡り自動運転することに成功しました。
特筆すべきはオペレータが何も操作していないことです。
センサーデータ推移から数時間後の推移を予測、事前に操作を行うことで上下限値を超えないように対応しています。
今回の抽出工程は装置が大きいことから、あるバルブ操作が他に影響を与えるのが数時間後というものもあるそうです。
この"遅れ時間"があるために予測する挙動が複雑化しています。
解決策として過去の運転経験や社内の化学工学的知識をAIの学習に組み込みました。
それにより過去のデータだけではなく学問的視点からも判断可能なAIへと進化しました。
余談ですがAIを開発されたPFNは、優秀な技術者集団であると紹介記事が作成されるほどの企業です。
蒸留塔を35日間の自動運転
発表日:2022年3月22日
- 【AI開発】横河電機株式会社
- 【AI基本技術の開発関与】奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)
- 【導入先】JSR株式会社
蒸留塔を35日間に渡り自動運転することに成功しました。
こちらも先のブタジエン抽出装置と同様にオペレータの介入なしで運転しています。
蒸留留分の品質を維持しつつ蒸留塔内の液面レベルの維持、排熱の効率的活用ができるようにAIが開発されました。
ここで難しいのは降雨や降雪のような外気温の変化、つまり外乱に対応することです。
更に横河電機のDCSであるCENTUM VPを運転管理に活用しています。
DCSとAIの両技術を同一企業が保有するため、今後DCS組み込み商品として期待できます。
参考資料:【横河電機/JSR】世界初 AIによる自律制御で化学プラントを35日間連続制御
安全性を担保するために
AI導入には安全性の担保が必須です。
シミュレーション上で事前検証することも可能ですが厳密な再現は不可能です。
各企業が発表した内容にはAIで実機検証するために気を付けた点が記載されていますので整理しました。
判断根拠の可視化
AIの中でも特に話題のディープラーニングは判断根拠が分からないことが問題視されています。
そのため説明可能なAI(XAI)の開発が盛んに行われています。
特に安全にかかわるプラントの運転制御においては判断根拠を定量的に示すAIが用いられます。
この根拠が運転員の考え方と一致しているのか確認します。
シミュレーション
AIの学習にはプラントシミュレータが使用されています。
特に強化学習を行うAIと相性が良く、普段行わないような操作も試してAIに学習させることで熟練度が高められています。
また学習したAIの検証は過去データを使用してシミュレーションを行います。
その際は安定運転できるかだけではなく異常状態に陥ったときの挙動も確認します。
また過去データだけではなくリアルタイムのデータも検証に活用することで実運転との精度比較も行っています。
インターロックの活用
AIが異常行動をした場合にインターロックが機能するようにしておきます。
インターロックとは条件が整っていなければ目的操作ができないようにする仕組みで、誤操作を防ぐためのものです。
基本的には既に組み込まれているものを活用すれば良いはずです。
ただし異常時はAIの動作を一時切り離すようなシステムを新たに組み込む必要があると考えられます。
まとめ
今回はプラントとAIについて特に制御の側面から解説しました。
ここ数年で急速に技術が進歩している領域です。
引き続き注目し、新たな情報が入手出来次第この記事を更新していく予定です。
その他にもDCS制御に関する新たな規格O-PASなど、プロセス業界は変革期に入っています。