主な溶剤の沸点は、1気圧でジクロロメタンの40℃から DMSO の189℃まで開きがあります。メタノールは64.7℃、エタノールは78.3℃、トルエンは110.6℃です。下の表に16種の沸点・20℃の蒸気圧・引火点・密度と、消防法の区分をまとめました。
主な溶剤の沸点・蒸気圧・引火点(沸点の低い順)
| 溶剤 | 沸点 ℃ | 蒸気圧 kPa(20℃) | 引火点 ℃(密閉式) | 密度 g/cm³(20℃) | 消防法の区分(第4類) |
|---|---|---|---|---|---|
| ジクロロメタン(塩化メチレン) | 40 | 47.4 | - | 1.326 | - |
| アセトン | 56.1 | 24.6 | −20〜−18 | 0.791 | 第一石油類(水溶性液体) |
| メタノール | 64.7 | 13.0 | 9〜12 | 0.792 | アルコール類 |
| テトラヒドロフラン(THF) | 66 | 17.3 | −20〜−14.5 | 0.889 | 第一石油類(水溶性液体) |
| n-ヘキサン | 68.7 | 16.2 | −22 | 0.659 | 第一石油類(非水溶性液体) |
| 酢酸エチル | 77.1 | 10.1 | −4 | 0.900 | 第一石油類(非水溶性液体) |
| エタノール | 78.3 | 5.9 | 12〜13 | 0.789 | アルコール類 |
| メチルエチルケトン(MEK) | 80 | 10.0 | −9 | 0.805 | 第一石油類(非水溶性液体) |
| 2-プロパノール(IPA) | 82.3 | 4.4 | 12 | 0.785 | アルコール類 |
| n-ヘプタン | 98.4 | 4.7 | −7 | 0.684 | 第一石油類(非水溶性液体) |
| 水 | 100.0 | 2.34 | - | 0.998 | - |
| トルエン | 110.6 | 2.9 | 4 | 0.866 | 第一石油類(非水溶性液体) |
| 酢酸 | 118 | 1.5 | 39 | 1.049 | 第二石油類(水溶性液体) |
| キシレン(o-・m-・p-) | 138〜144 | 0.65〜0.88 | 25〜32 | 0.861〜0.880 | 第二石油類(非水溶性液体) |
| N,N-ジメチルホルムアミド(DMF) | 153 | 0.38 | 58 | 0.945(25℃) | 第二石油類(水溶性液体) |
| ジメチルスルホキシド(DMSO) | 189 | 0.056 | 87 | 1.100 | 第三石油類(水溶性液体) |
- 沸点:101.3 kPa(1気圧)での値。NIST WebBook の平均値を℃に直し、化学工学便覧の物性定数表と照合した。小数のない値は、NIST の値の幅が±0.5 K 以上のもの。DMSO は ICSC とモデルSDS の189℃とした(NIST の平均は190℃)
- 蒸気圧:化学工学便覧の物性定数表のアントワン定数で計算した。水は同じ便覧の水の蒸気圧表、DMF はモデルSDS(GESTIS の値)、DMSO は NIST WebBook の係数による。キシレンの20℃は便覧の定数の温度範囲より低いので、NIST の係数(範囲内)で出した
- 引火点:密閉式の値。厚生労働省のモデルSDS と ICSC(国際化学物質安全性カード)で、整数に丸めても値が違うものは幅で示した
- 密度:モデルSDS と PubChem に収録の HSDB(Merck Index など)の値を、小数3桁に丸めた。アセトンは PubChem に収録の米国エネルギー省のデータベース、水は NIST WebBook の値。DMF は25℃の値
- 消防法の区分:モデルSDS の適用法令の欄による。区分の名は消防法 別表第一、水溶性液体と非水溶性液体は危険物の規制に関する政令 別表第三の語。ジクロロメタンは引火点も区分も記載がなく、燃焼範囲(13〜25 vol%)の記載はある
- キシレン:o-・m-・p- の3つの異性体の値の範囲
減圧したときの沸点
真空ポンプやエジェクターで圧力を下げると、溶剤は低い温度で沸騰します(真空状態の特徴と使いどころ)。表の圧力は絶対圧です。大気圧を101.3 kPa とすると、20 kPa はゲージ圧で約−81 kPa です。10 kPa なら約−91 kPa に当たります(絶対圧力とゲージ圧力)。
減圧したときの沸点(℃。圧力は絶対圧)
| 溶剤 | 101.3 kPa | 50 kPa | 20 kPa | 10 kPa | 5 kPa |
|---|---|---|---|---|---|
| ジクロロメタン | 40 | 21 | 1 | −13 | −25 |
| アセトン | 56 | 37 | 15 | 1 | −11 |
| メタノール | 65 | 48 | 28 | 15 | 4 |
| THF | 66 | 46 | 23 | 9 | (−4) |
| n-ヘキサン | 69 | 48 | 25 | 10 | −3 |
| 酢酸エチル | 77 | 57 | 34 | 20 | 7 |
| エタノール | 78 | 61 | 42 | 29 | 17 |
| MEK | 80 | 59 | 35 | 20 | 6 |
| 2-プロパノール | 82 | 66 | 46 | 34 | 22 |
| n-ヘプタン | 98 | 76 | 51 | 35 | 21 |
| 水 | 100 | 81 | 60 | 46 | 33 |
| トルエン | 111 | 88 | 62 | 45 | 30 |
| 酢酸 | 118 | 96 | 72 | 56 | 42 |
| キシレン | 138〜144 | 114〜120 | 87〜92 | 69〜74 | 53〜58 |
| DMF | 153 | 126 | 98 | 80 | 64 |
| DMSO | 189 | 165 | 136 | 117 | 100 |
値は化学工学便覧のアントワン定数で計算しました。NIST WebBook の係数が使える範囲では、差は1℃以内でした。DMF は Cui らの実測(34〜96℃)と沸点に当てはめた式で出しました。DMSO は NIST の係数(52〜169℃の測定)によります。THF の5 kPa は係数の温度範囲を少し外れるため、かっこ付きです。
減圧で溶剤を飛ばすときは、凝縮させる側の温度も見ておきます。例として10 kPa でアセトンを蒸発させると、沸点は1℃です。冷却水が30℃では蒸気が液に戻らず、真空ポンプの方へ流れていきます。
蒸気圧で揮発のしやすさと引火の危険を比べる
液と平衡になった空気には、蒸気圧を全圧で割った割合まで溶剤の蒸気が含まれます。大気に通じた容器の中なら、20℃のアセトンで約24 vol%です。トルエンでも約2.9 vol%あります。DMSO なら0.055 vol%(550 ppm)です。蒸気圧と沸点の関係は、蒸気圧の基本とプラントでの活用方法で解説しています。
引火点は、液面付近の蒸気の濃度が燃焼範囲の下限に届く液温です。トルエンの燃焼範囲の下限は1.1 vol%です(ICSC)。大気圧のもとでは、蒸気圧1.1 kPa 分の濃度に当たります。トルエンの蒸気圧がそこに届くのは約3℃で、表の引火点4℃に近い値です。キシレンは20℃でも0.6〜0.9 vol%で、下限(m-キシレンで1.0 vol%)に届きません。引火点も25〜32℃と、室温より高くなっています。
沸点の順と室温の蒸気圧の順は、一致しないことがあります。メタノールの沸点は、n-ヘキサンより4℃低い64.7℃です。それでも20℃の蒸気圧は、ヘキサンの16.2 kPa がメタノールの13.0 kPa を上回ります。沸点での蒸発熱は、メタノールが35.3 kJ/mol です(化学工学便覧)。ヘキサンの28.9 kJ/mol より2割ほど大きい値です。クラウジウス・クラペイロンの式のとおり、蒸発熱が大きいほど温度による蒸気圧の変化も大きくなります。2本の蒸気圧曲線の交点は約47 kPa です。20 kPa では、ヘキサンが25℃でメタノールが28℃と順が入れ替わります。エタノールと MEK も同じ関係です。1気圧の沸点は78.3℃と80℃で近いのに、20℃の蒸気圧は MEK が1.7倍あります。
アントワン式で別の温度の蒸気圧を出す
表にない温度の蒸気圧は、アントワン式で計算できます。化学工学便覧の物性定数表は、次の形で定数を載せています。
アントワン式(化学工学便覧の形)
式は横にスクロールできます
p:蒸気圧[Pa]、T:温度[K]、A:定数[-]、B・C:定数[K]
例として、トルエンの40℃の蒸気圧を出します。便覧の定数は A=20.9065・B=3096.52・C=−53.67 です。T=313.15 K を入れると ln p=8.973 となり、p=7.89 kPa です。沸点は、式を T について解いた T=B/(A−ln p)−C で出せます。20 kPa での沸点は335.1 K(61.9℃)でした。
定数は、求めたときの温度範囲の中で使います。NIST WebBook に載る DMF の係数は、30〜90℃の測定から求めたものです。この係数で1気圧の沸点を出すと150℃となり、実際の153℃より3℃低く出ます。
定数の形も資料ごとに違います。化学工学便覧は自然対数と Pa・K、NIST は常用対数と bar・K の形です。ケムファクのアントワン式の記事の式は、常用対数と mmHg・℃ の形です。アントワン式の計算ツール(別サイト)なら、対数の底と単位を選んで計算できます。
定数が見つからない物質は、沸点ともう1点の蒸気圧からクラウジウス・クラペイロンの式(別サイト)で概算します。
混合物の沸点と水との共沸
混ぜた溶剤の沸点は、成分の沸点の間に入るとは限りません。成分のどの沸点よりも低いか高い温度で、液と蒸気の組成が同じになる点を共沸点と呼びます。共沸点の組成を越えて、ふつうの蒸留で濃くすることはできません。
水との共沸(101.3 kPa。共沸点の低い順)
| 組み合わせ | 共沸点 ℃ | 共沸の組成(溶剤の質量%) | 凝縮液 |
|---|---|---|---|
| 酢酸エチル+水 | 70.4 | 約92 | 2層(水層にも酢酸エチルが約9%溶ける) |
| MEK+水 | 73.4 | 88 | 1層 |
| エタノール+水 | 78.2 | 95.6 | 1層 |
| 2-プロパノール+水 | 80.4 | 87.7 | 1層 |
| トルエン+水 | 84〜85 | 約80 | 2層 |
- 酢酸エチル・MEK:エディンバラ大学の共沸データの表の値。MEK と水は、組成によっては2液相になる系(化学工学便覧 表10·10)
- エタノール:『解説 化学工学』のモル分率0.894を質量%に直した値。エディンバラ大学の表とも同じ
- 2-プロパノール:Merck Index(PubChem 収録)の値。エディンバラ大学の表では87.8%
- トルエン:下の式で計算した値(84℃・80%)と、エディンバラ大学の表の値(85.0℃・79.8%)
酢酸エチルやトルエンの共沸蒸気を冷やすと、凝縮液は2層に分かれます。水の層を抜き出せるので、分けるには有利な性質です。ただし酢酸エチルの水層には約9%の酢酸エチルが溶けていて、水層と一緒に抜けます。トルエンのように水とほとんど溶け合わない液は、2つの蒸気圧の和が全圧に届く温度で沸騰します。
互いに溶けない2液が沸騰する条件
式は横にスクロールできます
P:全圧[kPa]、p_w:水の蒸気圧[kPa]、p_A:溶剤の蒸気圧[kPa]
トルエンと水について便覧の定数で解くと、101.3 kPa での沸騰は84℃です。このとき水の蒸気圧は56.3 kPa、トルエンは45.0 kPa になります。蒸気の組成は分圧の比で決まり、トルエンは質量で約80%です。水の沸点より16℃ほど低い温度で、2つが一緒に留出する計算です。
共沸点は圧力でも動きます。エタノールと水の共沸は、およそ6.7 kPa 以下でなくなります(解説 化学工学)。THF も水と共沸し、1気圧での共沸点は約64℃です(米国特許第4,919,765号)。THF の沸点66℃より低く、ふつうの蒸留では共沸物が先に出てきます。
メタノールとアセトンは、水と共沸しません。ただしアセトンは濃くなるほど、水と分けにくくなります。沸点の近い組み合わせも、蒸留では分けにくくなります。p-キシレンと m-キシレンの相対揮発度(蒸気圧の比)は、1.02しかありません(絵とき「蒸留技術」基礎のきそ)。共沸を越えて分ける方法は、蒸留の種類と使い分けで扱っています。
値を使うときの注意
- 蒸気圧は温度と単位をそろえて比べます。 SDS には20℃の値と25℃の値が混ざっています。表の溶剤では、25℃の値は20℃の1.2〜1.4倍です。単位は1 mmHg=0.1333 kPa、1 hPa=0.1 kPa、1 bar=100 kPa で換算します。
- 同じ溶剤でも、資料によって値がずれます。THF の20℃の蒸気圧は、表の計算値が17.3 kPa、モデルSDS(NFPA の値)では19.3 kPa です。沸点で1〜2℃、引火点で数℃の違いはよく見られます。
- 引火点は測り方で変わります。 同じ物質でも、密閉式と開放式で値が違います。DMF では密閉式58℃、開放式67℃という値があります(HSDB)。消防法の区分は、タグ密閉式で測った引火点で決めます。80℃以下で引火点が出ないときはクリーブランド開放式を使います。0〜80℃で引火点が出て、その温度の動粘度が10 mm²/s 以上ならセタ密閉式です(危険物の規制に関する政令 第1条の6)。
- 区分の境目は、1気圧において引火点が21℃未満なら第一石油類、21℃以上70℃未満なら第二石油類、70℃以上200℃未満なら第三石油類です(消防法 別表第一)。アルコール類は、炭素数1〜3の飽和一価アルコールという物質の種類で決まる区分です(組成によって除かれるものがある)。
- 水溶性液体は、1気圧・20℃で同じ量の純水と静かに混ぜ、流れが止まった後も均一な見た目を保つ液を指します(危険物の規制に関する政令 別表第三)。法令の要求は、所轄の消防と最新の条文で確かめてください。
- 製品の値は、その製品の SDS で確かめます。キシレン(CAS 1330-20-7)は、エチルベンゼンを含む異性体の混合物として扱われます。沸点も1点ではなく、範囲で考えます。
参考資料
- 化学工学会編:改訂六版 化学工学便覧,丸善(1999),表1·3(物性定数表),1·5·1(p.52〜53,表1·11),10·6·1(p.548〜549,表10·10)
- 竹内雍,松岡正邦,越智健二,茅原一之:解説 化学工学(改訂版),培風館(2001),p.27,p.127〜129
- 化学工学会監修,多田豊編:化学工学(改訂第3版)-解説と演習-,朝倉書店(2008),p.120,p.129
- 大江修造:絵とき「蒸留技術」基礎のきそ,日刊工業新聞社(2008),p.14〜17,p.32〜33
- L&L総合研究所編著:この1冊で決める!! 甲種危険物取扱者合格教本 改訂第2版,新星出版社(2015),p.227
- 消防法(昭和23年法律第186号)別表第一 備考
- 危険物の規制に関する政令(昭和34年政令第306号)第1条の6,別表第三 備考
- 厚生労働省 職場のあんぜんサイト:GHS対応モデルラベル・モデルSDS情報(各物質。2026年10月参照)
- ILO・WHO:International Chemical Safety Cards(PubChem に収録の値。2026年10月参照)
- NIST Chemistry WebBook,NIST Standard Reference Database Number 69:Phase change data(Tboil,Antoine Equation Parameters)(2026年10月参照)
- X. Cui,G. Chen,X. Han:Experimental Vapor Pressure Data and a Vapor Pressure Equation for N,N-Dimethylformamide,J. Chem. Eng. Data,51,1860〜1861(2006)
- PubChem:Hazardous Substances Data Bank ほかの各物質の Boiling Point・Density・Flash Point・Vapor Pressure(2026年10月参照)
- The University of Edinburgh, Chemical Engineering:Azeotrope Databank(Homogeneous Azeotropes,Heterogeneous Azeotropes)(2026年10月参照)
- P. R. Wilkes ほか:Process for the Purification of Tetrahydrofuran,米国特許第4,919,765号(1990)
