【新人向け】DCSの基礎知識

2021年10月17日 広告

DCSを学ぶ方に最初に読んで頂きたい記事を作成しました。

今回は日本国内でも導入事例が多い横河電機製DCSのCENTUM三菱電機製PLCのMELSECをイメージして解説しています。

DCSとは?

まずはDCSの基本事項から解説します。

正式名称

DCSはDistributed Control Systemの略称で、分散制御システムを意味します。

ある区分ごとに制御機器を分け、不具合が発生してもシステム全体に波及しない仕様となっています。

例えば機能の分散、場所の分散、危険性の分散などが挙げられます。

活用箇所

流体を主に扱うプロセス・オートメーション(PA)分野が対象です。

主に規模が大きな石油精製や石油化学、化学、発電、製薬、食品、鉄鋼、製紙など多業界で使用されています。

対して自動車や半導体など組み立て系の自動化はファクトリー・オートメーション(FA)と呼ばれます。

FAの分野では主にPLCによる制御が行われています。

取り扱いメーカー

グローバルシェアのトップはスイスのABBで20%程度のシェアを誇っています。

その他にもアメリカのハネウェルやエマソン、ドイツのシーメンスなどが挙げられます。

ABBやシーメンスは電力・発電領域、ハネウェルやエマソンは石油化学領域に比較的強い特徴があります。

日本のメーカーとしては横河電機が特にシェアを広げており、アズビルや日立製作所などもDCSを販売しています。

特に横河電機は石油精製や石油化学、化学の領域に強みがあります。

構成要素

DCSシステムは大きく制御、監視、保守の3要素に分かれます。

PLCをご存じであればそれと同じようなものだと考えても差し支えはありません。

制御

センサー等からデータを入力し、機器等へ指示を出力します。

センサーなどDCSへ取り込むデータは入力データ、反対にDCSから制御指示を出すデータは出力データと呼びます

制御内容は何かをON/OFFする制御だけではありません。

メインはセンサーデータを基に温度を何℃にするか・バルブを何%開けるのかといった量を制御することです。

このような量の制御はループ制御と呼ばれ、PID制御が有名です。

規模が大きくなると数千点にも及ぶ入出力データを全て一気に制御しなければなりません。

入出力データの例

  • 入力データ
    • 温度計の温度
    • レベル計の液面高さ
    • 押しボタンスイッチのON信号
  • 出力データ
    • 自動弁の開閉動作
    • コントロールバルブの開度
    • モーター回転数

監視、操作

DCSでは多いときは数千点にも及ぶ入出力データ監視しなくてはなりません。

多くはWindows PCに各社専用の監視ソフトを用意しています。

サーバーからタッチパネルなどへデータを送り、製造現場でも監視や操作させることも可能です。

  • 製造状態の確認
  • トレンドデータの保存と確認
  • 制御パラメータの変更
  • 異常監視
  • 工程進捗や異常発生のアラーム

システムの保守、構築

DCSのプログラム変更や設定変更を行います。

操作・監視用途で使用していることから、別途システム改修用のPCを用意しておくことが一般的です。

多くはグラフィカルな操作性で、初めて見ても意味が理解しやすい構成になっています。

特徴

DCSの用途は主にプロセス・オートメーション(PA)です。

高温高圧、危険物など危険性の高い流体を扱うが故に高い信頼性が求められました。

キーワードは「止まらない」と「波及しない」です。

故障に備えた待機システム(二重化)

キーワード1つ目の「止まらない」です。

システム分野では冗長化(じょうちょうか)と言われます。

特にトラブルに備えて同じシステムを準備しておく二重化という方法が採用されています。

二重化の対象は電源ユニット、CPUユニット、入出力ユニット、制御ケーブル、監視画面(=PC複数台)と多岐に渡ります。

例えば運転中にCPUユニットが故障したとします。

するとすぐに待機システムに切り替わり何事もなかったかのように運転を続けます。

装置は停止することなく待機システムが稼働している間に故障部品を交換できます。

二重化したシステム同士は頻繁にデータやり取りをしておりスムーズな待機システムへの移行ができるようになっています。

グループごとに分散した制御ユニット

キーワード2つ目の「波及しない」です。

DCS普及まではDDC(直接計算機制御)という1台の計算機で大規模制御をされていました。

一方で計算機の故障がシステム全体に波及するというデメリットがありました。

この問題を解決するため、DCSは制御システムが複数あり、制御したいグループごとに分散されています

つまり、あるグループの制御システムに異常が発生しても別のグループへは異常が波及しないようになっています。

分散の種類としては機能の分散、場所の分散、危険性の分散などが挙げられます。

独自の通信規格(プロトコル)

世の中のネットワークはEthernetを用いることが一般的になっています。

そもそもEthernetは大量のデータ送信を目的としており伝送時間に関しては重要視されていません。

そこでEthernet技術を産業領域に適応できるようリアルタイム性能やデータ信頼性を向上させた産業用Ethernetの分野が確立しました

RTE(Real Time Ethernet)とも呼ばれます。

特にDCSメーカーである横河電機はVnet/IP、東芝はTC-netなどのように安定稼働性を特段重要視した独自の通信規格を用いています。

他にもFA分野を主軸として一般に普及しているCC-Link IEやEtherNet/IPといった産業用Ethernetがあります。

後に解説するPLC計装ではこれらを用いて通信するのが一般的です。

セキュリティ

先ほど説明した独自プロトコルもセキュリティ向上の一端を担っています。

またオペレータ認証機能、操作監視範囲の制限、操作制限などを細かく設定でき誤操作によるトラブルを極力減らす仕様になっています。

プラント向けに形式化された多彩な機能

DCSではプラントで頻繁に用いる多種多様な機能がファンクションブロックという形でモジュール化されています。

PID制御、シーケンス制御、操作、演算、モニタリングなど実行したい内容は網羅されています。

これらファンクションブロックを組み合わせることで容易に高度な制御が実現できます。

オンラインメンテナンス

DCSは止めないことが基本です。

そのため稼働中に大抵のシステムメンテナンスができるような仕様になっています。

二重化していれば稼働中に機器を取り外し交換することも出来ます。

制御から監視まで一連のシステム

DCSは制御も監視も1社で最適化されたシステムであるため、機器同士の繋がりをあまり意識することなく利用できます。

DCSと似たシステムはPLCとSCADAでも構築でき、PLC計装と呼ばれます。

例えば三菱電機のPLC「MELSEC」と東京ガスのSCADA「JoyWatcherSuite」を組み合わせてDCSに近い機能が実現できます。

ただし別会社のシステムを組み合わせるため、機器間の互換性や処理可能量などを意識した構築を心がけなければなりません。

デメリット

メリットの多いDCSですが、当然それに伴う大きなデメリットがあります。

根本的な問題はベンダー依存になってしまうことです。

初期費用、維持費用の高さ

DCSはメーカー専用品が多く初期費用・維持費用どちらも高額です。

特にシステム設計やプログラム改造など専門性が求められる要素の人件費は高い傾向です。

また機器を入手するには直接メーカーや代理店から購入することが一般的です。

近年ではベンダー依存を無くすためにオープン規格O-PASが検討されています。

O-PASの詳細解説はこちら

専門性が必要なプログラム改造

各メーカーそれぞれの独自色が強いため、プログラム改造を行いたい場合は新たに操作を覚えなければなりません。

メーカーから監視操作・改造に関するハンズオンの講習も用意されています。

ちなみに、自社で改造せず全て外注している会社さんも多いみたいです。

FAのような高速制御は苦手

DCSは1秒程度の周期で入力信号を読み込んで出力します。

これは超高速を求めないバルブやポンプの動作などを主目的としているためです。

一方FA分野で主に用いられるPLCは1ミリ~数10ミリ秒程度と高速の周期で制御されています。

そのためPLC制御する機器を用いる場合、DCSから稼働指示を出し、機器はPLCで動作する運用方法となります。

DCSの代替品PLC計装

実は先に示したデメリットを解消するためにDCSからPLCに置き換えるという動きもあります。

それがPLC計装です。

DCSが流行った数10年前ではPLCのCPUの性能も悪く、大量のループ制御を行うプラントには向きませんでした。

現在ではCPUの処理性能が向上したおかげでDCSのような使い方ができるようになりました。

今や電源やCPU、ケーブルまでも二重化できるシステムになっています。

産業用通信規格や統合監視機能も充実しており、今やDCSよりオープンなPLCを選ぶ企業も増えています。

対応メーカー

国内で有名なのが三菱電機のMELSEC計装です。

その他にもオムロン横河電機などPLCを取り扱う各社が提供しています。

いくつか実例を紹介しておきます。

ネットワーク

PLC計装のネットワークはCC-Link IEやEtherNet/IPといった一般的な産業用Ethernetが用いられます。

上位システムとの連携や高機能化するには都合が良い仕様になっています。

ただしこれらはあくまでもFA分野を中心に検討されたものであることには注意が必要です。

どのように使い分けるのか

普段の取り回しの良さを考えると、個人的には必要性が無い限りPLC計装を選択するということで良いと思っています。

最近ではPLCがC言語やPythonに対応し高機能化を実現するためのユニットも増加しています。

ただしPLC計装はあくまでDCSの特徴に似せた製品であるだけです。

横河電機の技術情報誌ではDCSについて「24 時間 /365 日の連続使用という条件での高い稼働持続性が要求される」と表現するなど連続稼働に対する強い意思表示をしています。

なんとコアとなる制御システムの稼働率は99.99999%(セブンナイン)以上とのことです。

これは待機側CPUを設けるだけでなくメイン・待機ユニット内にもそれぞれ照合用CPUを設ける「ペア&スペア方式」のような独自技術が取り入れられているためです。

入出力点数やループ制御点数といった制約を除けばDCSを選択する明確な基準はありません。

安全性や経済的・社会的影響を加味し、何が何でも止めてはいけない!というような場所ではDCSを選択すべきです。

オススメ資料

・図解入門ビジネス工場・プラントのサイバー攻撃への対策と課題がよ~くわかる本

制御システムの基本構成に始まり、セキュリティの基礎を理解することができます。
今後はプラントも外部と繋がっていく時代になるためセキュリティ上のリスクを理解するのに最適です。
DCSやPLC計装の解説も載っています。

図解入門ビジネス工場・プラントのサイバー攻撃への対策と課題がよ~くわかる本
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www.amazon.co.jp

・無料で読めるCENTUMの解説資料

横河電機のDCS「CENTUM」について、ウェブ上で読める無料の資料をまとめました。
合計25件のうちソフト改造に関する情報も多くあり、これだけでも十分学習することができます。

横河電機のDCS「CENTUM」の情報を集めてみた|かねまる@化学プラント技術者
横河電機のDCS「CENTUM」の情報を集めてみた|かねまる@化学プラント技術者

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