PID制御の調整方法

電気計装/制御システム制御システムの6本目(全6本)公開

PID制御は、設定値と測定値のずれ(偏差)から調節弁の開度などを決める制御です。比例帯・積分時間・微分時間の初期値は、操作量を一度動かした記録(ステップ応答)から式で出せます。

PIDの値を決める手順

  1. 正動作か逆動作かを決める。測定値が上がったときに出力を増やすのが正動作(正動作と逆動作の決め方)。
  2. 調節弁と計器を先に確かめる。弁が大きすぎたり動きが悪かったりすると、PIDの値では直らない(PIDの値の前に疑う原因)。
  3. 調節計を手動にして、運転に差し支えない幅で操作量を段状に変え、測定値の動きを記録する。
  4. 記録から、むだ時間L・時定数T・ゲインKを読む。液位のように動き続けるときは傾きを読む。
  5. 表の式で初期値を出し、比例帯(100÷比例ゲイン)と調節計の単位に直す。
  6. 切替の仕組みが無い調節計では、設定値を今の測定値に合わせてから自動に切り替える。
  7. 小さな設定値の変更で応答を見て、比例帯・積分時間・微分時間の順に1つずつ直す。
この記事の内容
  1. P・I・Dの働きと設定する値
  2. 正動作と逆動作の決め方
  3. ステップ応答から初期値を出す
  4. 自動に切り替えてから値を詰める
  5. PIDの値の前に疑う原因
  6. 式の形と単位の違い
  7. カスケード制御の入口
  8. 参考資料

P・I・Dの働きと設定する値

動作 操作量の決め方 設定する値 強めたときの良い点 強めたときの悪い点・注意
比例(P) 偏差に比例させる 比例帯[%]。狭いほど強い 応答が速くなり、偏差が小さくなる 振動しやすく、操作量が大きく動く。Pだけでは偏差(オフセット)が残る
積分(I) 偏差を時間で積み上げる 積分時間[分または秒]。短いほど強い 残った偏差を早く消す 振動や行き過ぎが増える。弁が全開や全閉で止まっても積み上がる(ワインドアップ)
微分(D) 偏差(または測定値)の変化の速さに比例させる 微分時間[分または秒]。長いほど強い 適量なら振動がおさまる 多すぎると悪くなる。測定値の細かいゆれ(ノイズ)で弁が細かく動く

PID制御の操作量(理想形)[%]

$$MV = K_c\left(e + \frac{1}{T_i}\int_0^t e\,dt + T_d\frac{de}{dt}\right) + MV_0$$

式は横にスクロールできます

MV:操作量[%]、Kc:比例ゲイン[%/%]、e:偏差(逆動作は SV−PV、正動作は PV−SV)[%]、MV0:自動にした時点の操作量[%]、t:時間[min]、Ti:積分時間[min]、Td:微分時間[min]

工業用の調節計では、比例ゲインの代わりに比例帯で入れる形が多くあります。出力を0から100%まで動かすのに要る測定値の幅が比例帯です。測定値と操作量をどちらもレンジの%で表すと、比例帯[%]は100÷比例ゲインになります。たとえば比例帯50%は比例ゲイン2、20%は5です。温度調節器には、比例帯を温度の幅(℃)で入れる機種もあります。レンジ0〜200℃で40℃なら、20%と同じです。

偏差が一定のまま続くと、積分の出力は時間に比例して増えます。積分時間は、その出力が比例の出力と同じ量に達するまでの時間です。その逆数を「回/分」(リセットレート)で入れる形もあります。測定値が一定の速さで変わるとき、微分を足した出力は比例だけの出力より先に進みます。その進みの時間が微分時間です。実際に動いているPIDの多くは、微分を使わないPI制御です。

正動作と逆動作の決め方

測定値が上がったときに出力を増やすのが正動作、減らすのが逆動作です。向きを決めるのは、ループを一巡したときの符号です。調節計・調節弁・プロセス・検出器の符号をかけ合わせ、負になる向きを選びます。このとき調節計の符号は、正動作が+、逆動作が−です。逆に選ぶと偏差を広げる側へ弁が動くので、制御は発散に向かいます。空気で開く弁(エア・トゥ・オープン)なら、表の向きです。

ループ 測定値が上がったときに要る弁の動き 調節計の動作
蒸気で加熱する温度 蒸気の弁を絞る 逆動作
冷却水で冷やす温度 冷却水の弁を開く 正動作
出口の弁で保つ液位 出口の弁を開く 正動作
入口の弁で保つ液位 入口の弁を絞る 逆動作
弁で絞る配管の流量 その弁を絞る 逆動作

空気で閉じる弁なら、調節計の動作は逆にします。出力の信号を反転させて合わせる系では、動作は空気で開く弁と同じままです。どちらで合わせたかは、ループ図で確かめます。工業用の調節計の多くは、比例帯に正の値しか受け付けません。向きは正逆の切り替えで決めます。据え付けたあとは比例動作だけにして設定値を動かし、出力と弁の動く向きを確かめます。

ステップ応答から初期値を出す

ステップ試験と限界感度法は、設備を実際に動かす試験です。変える幅と止める条件を、運転の担当者と先に決めておきます。使うのは操作量を変えたときの動きで、負荷が変わったときの動きは使いません。

変曲点で接線を引き、元の値と交わるまでをむだ時間Lとします。そこから最終値の線と交わるまでが時定数Tです。表のジーグラー・ニコルスとCHR法は、接線で読んだL・Tを前提にした式です。最終値の63.2%の時刻からLを引いてTを読むと、S字の応答ではTが短く出ます。2つの同じ遅れが重なった応答なら接線の約0.69倍で、比例ゲインが約3割小さくなります。ゲインKは、測定値と操作量の変化をどちらもレンジに対する%にして割った値です。液位のように一定の速さで動き続けるときは、最終値がありません。代わりに傾き(%/分)を操作量の変化で割った値k'を使います。

上のPID式は、偏差の向きで正逆動作を表す書き方です。初期値の表はe=SV−PVに固定した符号付きのKcで読み、Kやk'が負ならKcも負(正動作)となります。

正逆動作を別に設定する調節計では、ゲインの大きさと向きは別の設定です。比例帯にはPB=100/|Kc|で求めた正の値を入れ、Kc>0なら逆動作、Kc<0なら正動作を選びます。

ステップ応答から初期値を出す式

方法 動作 比例ゲイン Kc 積分時間 Ti 微分時間 Td
ジーグラー・ニコルス(ステップ応答法) PI 0.9T/(KL) L/0.3(約3.3L) –
ジーグラー・ニコルス(ステップ応答法) PID 1.2T/(KL) 2L 0.5L
CHR法(外乱・行き過ぎ0%) PI 0.6T/(KL) 4L –
CHR法(外乱・行き過ぎ0%) PID 0.95T/(KL) 2.4L 0.42L
CHR法(設定値の変更・行き過ぎ0%) PI 0.35T/(KL) 1.2T –
CHR法(設定値の変更・行き過ぎ0%) PID 0.6T/(KL) T 0.5L
SIMC(τc=L) PI 0.5T/(KL) TとL×8の小さい方 –
SIMC(積分形・液位など) PI 0.5/(k'L) 8L –
  • ジーグラー・ニコルスは1942年の原論文の値。原論文は接線の傾きRで書いており、R=K/Tとして直した。PIDの比例ゲインは原論文では1.2〜2.0T/(KL)の幅がある。
  • CHR法はChien・Hrones・Reswickの方法。外乱の行はNational Instrumentsの技術資料、設定値の行はAbdulameerほか(2016年)の表による。外乱のPIDの比例ゲインと積分時間は、Baumüllerの技術資料も同じ値。
  • SIMCは、Skogestad(2003年)がIMC(内部モデル制御)の式をもとにまとめた方法。τc(ねらう応答の速さ)をむだ時間Lに合わせたときの値。

限界感度法の式

手動にできないループでは、ジーグラーとニコルスの限界感度法が使えます。積分と微分を切り、比例ゲインを少しずつ上げていきます。一定の振幅で振動し続けたときのゲインがKu、周期がPuです。

動作 比例ゲイン Kc 積分時間 Ti 微分時間 Td
P 0.5Ku – –
PI 0.45Ku Pu/1.2 –
PID 0.6Ku 0.5Pu 0.125Pu
  • 原論文の値。PIDの比例ゲインは、原論文では0.6〜1.0Kuの幅がある。PIは0.4Ku・0.8Puと丸めて載せる教科書もある(Åström・Murray)。

この振動を自動で起こすオートチューニングを、多くの市販の調節計が持っています。出力をオンとオフに切り替えて小さく振らせ、KuとPuを取る方式です。

同じ記録から出した初期値の例

例として、熱交換器の出口温度を蒸気の調節弁で制御するループを考えます。温度計のレンジは0〜200℃です。手動で出力を40%から45%に上げたとします。温度は2分後に動き始め、10℃上がって落ち着いたとします。接線から読んだ値はL=2分・T=8分で、K=(10÷200×100)÷5=1.0です。

方法 動作 比例帯 積分時間 微分時間
ジーグラー・ニコルス PID 21% 4.0分 1.0分
CHR法(外乱・0%) PID 26% 4.8分 0.84分
CHR法(設定値の変更・0%) PID 42% 8.0分 1.0分
ジーグラー・ニコルス PI 28% 6.7分 –
CHR法(外乱・0%) PI 42% 8.0分 –
SIMC PI 50% 8.0分 –

同じ記録から出しても、比例帯は21%から50%まで2倍以上の差が出ます。ジーグラー・ニコルスの原論文がねらったのは、振れ幅が1回ごとに1/4へ減る応答です。行き過ぎや振動を嫌う多くのプロセスには、この値は強すぎるとされます。比例帯の広い側から試して狭めていくと、設備を大きく振らせにくくなります。

自動に切り替えてから値を詰める

切替の仕組みが無い調節計では、自動に切り替える前に設定値を今の測定値に合わせます。偏差が残ったまま切り替えると、比例ゲイン×偏差の分だけ出力が段状に跳ねるからです。手動の出力に積分を追従させる仕組みなら、出力は手動の値から滑らかに続きます。比例と微分を測定値だけに効かせる形(I-PDなど)では、設定値を変えても出力は跳ねません。自動にしたら、小さな設定値の変更か外乱への応答を見ます。直すのは1回に1つの値だけで、変えたときの効き方はP・I・Dの表のとおりです。

PIDの値の前に疑う原因

症状 原因の候補 確かめること
効きを強めたつもりが弱くなった 比例帯と比例ゲインの取り違え 比例帯[%]=100÷比例ゲイン。比例帯を広げるとゲインは下がる
小さな開度でハンチングする 調節弁が大きすぎる 5%以下の開度では操作器の空気が抜けきって不感帯が大きくなり、制御できなくなる
出力を少し動かしても弁が動かない 弁の不感帯(パッキンの摩擦など) 不感帯はむだ時間として効く。目安は弁単体で信号スパンの5%以下、ポジショナ付きで0.5%以下
流量の大小で効き方が変わる 開度あたりの流量の変化(弁のゲイン)が流量で変わる PIDを変えずに済むのは弁のゲインの変化が±50%以内まで
弁が全開に張り付いたあと大きく行き過ぎる 積分のワインドアップ 出力が頭打ちのあいだ積分を止める機能、実際の出力に積分を追従させる機能
流量の弁が細かく動き続ける 微分がノイズを拾う 流量と液位は微分を使わずPIにする。測定値にフィルタを入れる
液位がゆっくり大きく振れ続ける 積分形のプロセスで比例ゲイン×積分時間が小さすぎる ゲインを下げると逆効果。振れの周期が積分時間の約3倍より長いなら、比例ゲイン×積分時間を0.1×(周期÷積分時間)²倍以上にする
前の調節計と同じ値なのに効きが違う 式の形(理想形・直列形)と単位(秒・分、%・℃)の違い 形と単位をそろえて換算する(式の形と単位の違い)
  • 弁の3行の数値はBaumannの訳書、液位の行の式はSkogestad(2003年)による。

ワインドアップは、弁が全開や全閉で止まったまま偏差が積分され続ける現象です。偏差の向きが変わっても、積み上がった分を返すまで出力は戻りません。その間に大きく行き過ぎます。

微分は、測定値の細かいゆれを大きな出力の動きに変えます。微分を使うのは、遅れが重なってゆっくり動く温度などが目安です。むだ時間を補う目的で入れても、効果は小さいことが多いとされます。入れるときは、ノイズを抑えるフィルタが入った形かも確かめます。

式の形と単位の違い

DCSや調節計によって、同じPIDでも式の形が違います。直列形の調節計に理想形の値をそのまま入れると、効き方が変わります。

直列形の値を理想形に直す式[%/%・min]

$$K_c' = K_c\,(1 + T_d/T_i),\quad T_i' = T_i + T_d,\quad T_d' = \frac{T_i T_d}{T_i + T_d}$$

式は横にスクロールできます

Kc・Ti・Td:直列形の値、Kc'・Ti'・Td':理想形の値

例のジーグラー・ニコルスのPIDは、比例ゲイン4.8・積分時間4分・微分時間1分でした。直列形の調節計にこの値を入れたときの働きは、理想形に直すと比例ゲイン6.0です。積分時間は5分、微分時間は0.8分に当たります。比例帯にして21%が17%へ狭まり、比例の効きが25%強くなる計算です(元の値を理想形の値とみなした場合)。積分と微分の効き(比例ゲイン÷積分時間、比例ゲイン×微分時間)は変わりません。PIだけなら形の違いは出ません。

演算のしかたにも2通りあり、出力そのものを出す位置形と変化分を足す速度形です。比例帯の単位(%か℃か)と積分時間・微分時間の単位(秒か分か)は、値を入れる前に取扱説明書で確かめます。DCSそのものの特徴はDCSの基礎知識で解説しました。

カスケード制御の入口

外側の調節計の出力を、内側の調節計の設定値にするのがカスケード制御です。たとえば液位の調節計(LIC)の出力が、流出流量の調節計(FIC)の設定値になります。FICはその設定値に合うように調節弁を動かします。記号の読み方は計装用の文字記号の表のとおりです。内側のループで外乱を早く抑えられるときに効きます。

調整の順は内側が先です。外側を手動にして内側を調整し、内側をカスケードに戻してから外側を調整します。内側は外側より十分速くないと効きません。ミシガン大学の公開教科書は、外側の応答の周期を内側の4倍以上としています。液位の振れをある程度許して流出量をおだやかに変える均流液面制御は、この形の代表です。

参考資料

  1. 化学工学会 編『改訂六版 化学工学便覧』丸善、1999年(24·2·5 制御構造の決定 p.1187、24·3 コントローラーの設計 p.1189〜1197)
  2. J. G. Ziegler, N. B. Nichols「Optimum Settings for Automatic Controllers」Transactions of the ASME, Vol.64, pp.759–768, 1942
  3. K. J. Åström, R. M. Murray『Feedback Systems: An Introduction for Scientists and Engineers』Princeton University Press, 2008(10章 PID Control)
  4. S. Skogestad「Simple analytic rules for model reduction and PID controller tuning」Journal of Process Control, Vol.13, pp.291–309, 2003
  5. National Instruments「チエン・ホーンズ・レスウィックオートチューニング法」2023年2月21日更新 https://www.ni.com/docs/ja-JP/bundle/labview-pid-and-fuzzy-logic-toolkit-api-ref/page/lvpidmain/chienforms.html(別サイト)
  6. A. Abdulameer, M. Sulaiman, M. S. M. Aras, D. Saleem「Tuning Methods of PID Controller for DC Motor Speed Control」Indonesian Journal of Electrical Engineering and Computer Science, Vol.3, No.2, pp.343–349, 2016
  7. P. Woolf ほか『Chemical Process Dynamics and Controls』University of Michigan(公開教科書、CC BY 3.0)9章・11章 https://eng.libretexts.org/Bookshelves/Industrial_and_Systems_Engineering/Chemical_Process_Dynamics_and_Controls_(別サイト)(Woolf)
  8. H. D. Baumann 著、須加寿雄・渡部剛 訳『計装エンジニアのためのコントロールバルブ』工業技術社、1996年(p.7・9・57〜58)
  9. 秋山尚 著、日本計装工業会技術委員会 監修『和英対訳 誰にでもわかるプラント計装工事のすすめ方』日本計装工業会、2003年(5.2.2 d 調節計ループ試験 p.270〜271)
  10. 若狭裕「プロセス制御システムの技術系統化調査」『国立科学博物館 技術の系統化調査報告』Vol.11、2008年(p.96〜98・115)
  11. SMC「温調機器 用語集」https://www.smcworld.com/products/pickup/ja-jp/temperature_controller/glossary_hi.html(別サイト)
  12. MathWorks「Bumpless Control Transfer Between Manual and PID Control」https://www.mathworks.com/help/simulink/slref/bumpless-control-transfer-between-manual-and-pid-control.html(別サイト)
  13. Baumüller「TB_TCtrl_PIDT1 - setting rules」https://www.baumueller.com/bm_elements/TECH_TEMPCTRL/TB_TCtrl_PIDT1/settingrules.htm(別サイト)

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