液液抽出の計算

化学工学/液液抽出液液抽出の1本目(全1本)公開

液液抽出は、溶け合わない2液への溶けやすさの差で目的の成分を抽剤へ移す操作です。抽出率(回収率)は分配係数・抽剤の量・使い方で決まり、残る量が5倍違うこともあります。1回・多回・向流多段の抽出を早見表と例題で比べ、抽剤と装置の選び方やつまずきも扱います。

抽出率の早見表(理論段・希薄な系)

抽出因子 λ=K×S/F 1回で全量 3回に等分 向流3段 向流5段
0.5 33% 37% 47% 49%
1 50% 58% 75% 83%
2 67% 78% 93% 98.4%
3 75% 88% 97.5% 99.7%
5 83% 95% 99.4% 99.97%

Kは分配係数、Sは抽剤の量(等分では合計)、Fは抽料の量です。どの列も抽剤の総量をそろえました。抽質が薄く、抽剤と原溶媒がほぼ溶け合わない系の値です。Kを一定とし、化学工学便覧の式で計算しました。

抽出率を出す手順

  1. 分配係数Kを、液液平衡のデータか実液の振り混ぜ試験で得る
  2. 抽出因子λ=K×S/Fを出す。KとS/Fの基準はそろえる(質量分率の比なら質量、濃度の比なら体積。体積で数えるのは、希薄で各相の体積が変わらないとき)
  3. 早見表か下の式で抽出率を出す
  4. 足りなければ抽剤の量・回数・段数を増やす。同じ抽剤の量なら向流多段が最も高い
  5. 理論段数を段効率で割り、実際の段数にする
  6. 抽質が濃い系や、抽剤と原溶媒が溶け合う系は三角図で解く
この記事の内容
  1. 単抽出・多回抽出・向流多段抽出の比較
  2. 例題:同じ抽剤の量で回収率を比べる
  3. 分配係数は濃度・温度・pHで変わる
  4. 三角図(三成分系)の読み方
  5. 蒸留と液液抽出の使い分け
  6. 抽剤の選び方
  7. ミキサーセトラーと抽出塔の使い分け
  8. つまずきやすい点
  9. 参考資料

単抽出・多回抽出・向流多段抽出の比較

用語 意味
抽料 抽出する前の原料の液
抽質 抽料から取り出したい成分
原溶媒 抽料の中で抽質を溶かしている溶媒
抽剤 抽質を移すために加える溶媒
抽出液・抽残液 抽剤側の液と、抽質を抜かれて残る側の液
方式 抽剤の使い方 向く場面 弱み
単抽出 全量を1回で混ぜ、静置して2相に分ける 回分の処理で、1回で足りる系 抽出率を上げるには抽剤が大量に要り、抽出液が薄くなる
多回抽出 抽残液に新しい抽剤を足し、単抽出をくり返す 回分の処理。分液ロートでの抽出もこの形 同じ抽剤の量では向流多段より抽出率が低い
向流多段抽出 抽料と抽剤を逆向きに流し、段ごとに接触させる 連続の大きな処理。少ない抽剤で高い抽出率が出る 段の数だけ装置が要る。抽出液の濃度は抽料と平衡な濃度を超えない

単抽出の抽出率

$$\xi = \frac{\lambda}{1+\lambda}, \qquad \lambda = \frac{K S}{F}$$

式は横にスクロールできます

ξ:抽出率(抽料中の抽質のうち抽出液に移った割合)[-]、λ:抽出因子[-]、K:分配係数[-](濃度の比のKなら、S・Fは体積[m³]で数える)、S:抽剤の量[kg]、F:抽料の量[kg]

多回抽出の抽出率(抽剤の合計をN回に等分)

$$\xi = 1-\frac{1}{\left(1+\lambda/N\right)^{N}}$$

式は横にスクロールできます

N:回数[-]、λ:抽剤の合計Sで出した抽出因子[-]、S:抽剤の合計の量[kg]

向流多段抽出の抽出率

$$\xi = \frac{\lambda^{N+1}-\lambda}{\lambda^{N+1}-1} \quad (\lambda \neq 1), \qquad \xi = \frac{N}{N+1} \quad (\lambda = 1)$$

式は横にスクロールできます

N:理論段数[-]、S:抽剤の流量[kg/h]、F:抽料の流量[kg/h]

目標の抽出率から向流の理論段数を出す

$$N = \frac{\log\left\{(\lambda-1)/(1-\xi)+1\right\}}{\log\lambda}-1 \quad (\lambda \neq 1)$$

式は横にスクロールできます

ξ:目標の抽出率[-]

式はどれも、新しい抽剤が抽質を含まない希薄な系のものです。抽残液の量は抽料の量のまま変わらないとしています。λが1より小さいと、向流で段数を増やしても抽出率はλで頭打ちです。目標の抽出率ξに対し、抽出因子はξより大きくとる必要があります。

例題:同じ抽剤の量で回収率を比べる

例として、成分を少し含む水溶液1,000 kgを抽出します。抽剤は水とほとんど溶け合わず、合計1,000 kgです。分配係数は質量分率の比でK=2とします。

  1. 1回で1,000 kgを使う:λ=2×1,000÷1,000=2で、ξ=2÷3=66.7%
  2. 333 kgずつ3回に分ける:1回ごとのλは0.667で、各回に残りの40%を抜く。残るのは0.6³=0.216で、ξ=78.4%
  3. 向流3段で流す(流量比S/F=1):ξ=(2⁴−2)÷(2⁴−1)=14÷15=93.3%

抽残液に残る量は33%・22%・7%です。99%を抜くには、1回なら抽剤が49,500 kg要ります。3回に分けると5,460 kg、向流3段で2,120 kg、向流5段で1,120 kgです。抽剤1,000 kgのままなら、向流で5.7理論段(6段)が要ります。段を増やしても、抽剤は495 kg(λ=0.99)より減らせません。

例題は、各段で平衡に達する理論段で計算しています。段効率はミキサーセトラーで90%以上のことが多く、塔型では30〜80%ほどです(化学工学便覧)。6理論段を段効率50%の塔でまかなうなら、実段は12段になります。

分配係数は濃度・温度・pHで変わる

分配係数

$$K = \frac{y}{x}$$

式は横にスクロールできます

K:分配係数[-]、y:抽出液中の抽質の濃度(例:質量分率)[kg/kg]、x:抽残液中の抽質の濃度[kg/kg]

Kを一定とみなせるのは、抽質が薄い範囲です。濃くなると両相の活量係数の比が変わり、Kも動きます。温度による違いの例が、便覧のメチルシクロペンタン−n−ヘキサン−アニリン系です。45℃にあるプレイトポイントが、25℃では無くなります。プレイトポイントは、2相の組成がそろって1相になる点です。実際に使う温度と濃度で測ったKを使うのが確かです。

酸や塩基の成分は、水相のpHで分配が大きく変わります。有機酸は塩基性の水には塩になって溶け、酸性に戻せば有機溶媒へ抽出できます。金属イオンを錯体にして抜くキレート抽出でも、特定の金属を抜き分ける手段は水相のpHです。

Kが1より小さくても抽出は可能です。ただし抽剤が多く要り、抽出液も薄くなります。厳密には化学種ごとの比を分配係数と呼び、目的成分の全濃度の比は分配比として区別します。

三角図(三成分系)の読み方

抽質が濃い系や抽剤と原溶媒が溶け合う系では、Kを一定とした式が使えません。そこで3成分の組成を直角三角図に描いて解きます。

  • 上の頂点が抽質、原点が原溶媒、右の頂点が抽剤。縦軸が抽質、横軸が抽剤の分率で、原溶媒の分率は1から両方を引いた値
  • 溶解度曲線の内側が2相、外側が均一な1相
  • タイラインは平衡にある抽出液と抽残液の組成を結ぶ線。抽質が濃くなるほど短くなり、プレイトポイントで1点に縮む

単抽出を三角図で解く手順

  1. 抽料Fと抽剤Sの組成を点で打つ
  2. 線分FSを、FM:MS=S:Fとなる点Mで分ける(てこの原理)
  3. Mを通るタイラインを、近くのタイラインから内挿して引く。両端が抽出液Eと抽残液Rの組成
  4. 抽出液の量をE=(F+S)×RM÷RE、抽残液の量をR=F+S−Eで出す
  5. 抽出液に移った抽質の量を、抽料中の抽質の量で割って抽出率にする

向流多段では、操作点を通る直線とタイラインを交互に引いて段を数えます。抽剤を減らすと、この直線がタイラインと重なり段数が無限になります。そのときの量が最小抽剤量です。収支の考え方は物質収支とエネルギー収支と同じです。

蒸留と液液抽出の使い分け

比べる点 蒸留 液液抽出
分ける原理 揮発のしやすさ(沸点)の差 2液への溶けやすさ(分配)の差
加えるもの 熱 抽剤
向く系 沸点の差が十分ある混合物 沸点が近い混合物、熱に弱い物質、金属イオンのような揮発しない成分
後の工程 加えた物を製品から除く工程は無い 抽出液と抽残液から抽剤を除く工程が要る

抽出は相の変化が無く、分離そのものに要るエネルギーは小さめです。ただし抽剤を蒸留で回収すれば、その分の熱がかかります。名前の似た抽出蒸留は、揮発しにくい抽剤を加えて気液平衡を変える蒸留です(蒸留方法の種類)。工業での用途には、芳香族の分離・医薬品の精製・フェノールや酢酸を含む廃水の処理などがあります。

抽剤の選び方

見る点 望ましい性質 理由
分配係数K 大きい 抽剤の量が少なくて済む
分離係数α(選択度。抽質と原溶媒の分配係数の比) 1より十分大きい α=1では抽質と原溶媒を分けられない
原溶媒との相互溶解度 小さい 2相になる範囲が広いほど抽剤が少なくて済む。溶けた抽剤は抽残液と一緒に出る
密度差・界面張力・粘度 密度差と界面張力が十分あり、粘度が低い 分散と分相のしやすさ、物質移動の速さに効く
回収のしやすさ 抽質との沸点差(蒸気圧の差)が大きく共沸しない。蒸発潜熱が小さい 回収は蒸留によることが多い
安定性・安全・費用 化学的に安定。腐食性・揮発性・引火性・毒性が低く、安く手に入る 装置材料、運転の安全、運転費に効く

相互溶解度は抽剤で大きく違います。25℃で水に溶ける量は、トルエン0.05質量%・1-ブタノール7.5%・酢酸エチル8.1%です。メチルエチルケトンは20℃で24%も溶けます(化学工学便覧 表12·2)。分配係数の大きい溶媒ほど分離係数は小さい傾向があり、両方を見比べて決めます。

ミキサーセトラーと抽出塔の使い分け

装置 性能の目安 向く場面 弱み
ミキサーセトラー 段効率90%以上のことが多い 流量や相比が多少変化しても安定。断続運転にも向く 床面積が大きい。段ごとに撹拌機とポンプが要る形は、段数が増えると高くつく
多孔板抽出塔 直径3.6 m・10理論段ほどまでの実績 界面張力15 mN/m未満の系。段の間で逆混合が無く、拡大しやすい 運転の柔軟性が無い
充填塔 5理論段以下 界面張力15 mN/m未満の系、腐食性の液 充填物の分だけ処理量が減る
回転円板抽出塔(RDC) 高さ1 mあたり0.5〜1理論段。10理論段ほどまで 処理量の大きい連続運転(塔径4.5 m級の実績) 2理論段以下や、界面張力・密度差の小さい系は他の装置が有利。滞留時間が長く、分解しやすい物質に向かない
振動板塔(カール塔)・脈動塔 処理量と抽出効率が大きい(カール塔) 段数が多く、床面積を抑えたい系。拡大しやすい(カール塔) 高振動数では合一がほとんど起きず、エマルション化しやすくなる(脈動充填塔)
遠心抽出機 接触時間が短い 分解しやすい物質(ペニシリンの抽出で実用化)、エマルションになりやすい系 ―

数値は化学工学便覧12·4〜12·5、RDCの段数は『化学工学 解説と演習』6.1の値です。スプレー塔は構造が最も簡単です。ただ塔径が大きいと逆混合で効率が落ち、工業ではまれにしか使われません。

装置の選定因子は、物性・理論段数・運転条件・設置場所・費用など8つあります(化学工学便覧)。厳密な選び方は無いので、候補を絞ったら実際の原料と抽剤で試します。便覧は、塔なら直径30 cm以上の装置で長期間くり返す試験を勧めています。ミキサーの撹拌は、滴を細かくして界面積を増やす役目です(撹拌の役割と目的)。

つまずきやすい点

エマルションになって分かれない

撹拌を強くするほど滴は細かくなります。邪魔板付きの槽では、滴の径が撹拌ウェーバー数の−0.6乗に比例します(化学工学便覧 7·3·2)。この式が使えるのは、分散相の粘度が数十mPa·s以下の範囲です。ウェーバー数は回転数の2乗に比例するので、回転数を2倍にすると滴の径は約0.44倍になります。ストークス域で沈む速さは、約5分の1になる計算です。界面活性のある成分や固形物も、2相を分かれにくくします。

実験室で分かれないときは、次の4つの手を試します。

  • 分液ロートを水平に静かに回す
  • 水相に食塩などの電解質を少し加える
  • 両方の相に溶ける溶媒(エタノールなど)を少し加える
  • 中身をろ過する

界面活性の成分が原因なら、酸か塩基を加えると分かれることがあります。工程で塩や溶媒を足すなら、その行き先も決めておく必要があります。設備では、エマルションになりやすい系の候補が遠心抽出機や撹拌式の抽出装置です。

抽剤が抽残液に溶けて出ていく

相互溶解のある系では、抽剤の一部が抽残液に溶けて出ていきます。抽残液から抽剤を回収する工程が要るか、排水の負荷にならないかを先に確かめます。原溶媒の一部も抽出液に移るため、物質収支は3成分で取るのが基本です。

密度差が小さいと静置に時間がかかる

撹拌を止めると、滴は密度差で浮くか沈むかして界面へ集まります。ストークスの式を当てはめると、終末速度は滴径の2乗と密度差に比例し、連続相の粘度に反比例します。滴径が10分の1なら、沈む時間は計算上100倍です。実際は、滴どうしの合一の速さも効きます。滴が多いと、粒子の干渉沈降と同じく単独の滴より遅くなります。概算は抽出後の相分離時間(別サイト)のツールで出せますが、最後は実液の静置試験で確かめるのが確実です。ジクロロメタンのように水より重い抽剤では、有機層が下になります。

抽剤の回収までが抽出の工程

抽出は「混ぜて移す」「2相に分ける」「抽剤を回収する」で1組なので、抽剤は回収のしやすさまで見て選びます。

参考資料

  1. 化学工学会編『改訂六版 化学工学便覧』丸善、1999年(12章 抽出・液液反応 p.640〜666、7·3·2 液液撹拌 p.437〜438、7章の記号 p.422)
  2. 化学工学会監修、多田豊編『化学工学 ―解説と演習― 改訂第3版』朝倉書店、2008年(4.5 特殊蒸留 p.130、6.1 抽出 p.172〜179、9.1 沈降分離 p.243)
  3. 竹内雍・松岡正邦・越智健二・茅原一之『解説 化学工学 改訂版』培風館、2001年(5·4 液液抽出 p.158〜170)
  4. 日本プロセス化学会編『プロセスケミストのための化学工学(基礎編)』化学工業日報社、2015年(9章 抽出 p.207〜223)
  5. 化学同人編集部編『第3版 続 実験を安全に行うために 基本操作・基本測定編』化学同人、2007年(9章 抽出 p.51〜52)
  6. J. W. ズブリック著、上村明男訳『研究室で役立つ有機実験のナビゲーター 第2版』丸善出版、2011年(15章 抽出と洗浄 p.144〜165)

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