亀井・平岡の式以外の式、特に邪魔板条件下での動力推算式は以下の記事を参照してください。
小型翼への利用
まずは基本式含め、小型翼への利用について紹介します。
パドル翼、傾斜パドル翼(基本式)
亀井・平岡の式はバッフル(邪魔板)を取り付けていないパドル翼に対して導き出されました。
翼角度θを代入することで傾斜パドルへも利用できます。
亀井・平岡の式
(パドル翼、傾斜パドル翼)
$$ N_{p0}=\frac{1.2\pi^{4}\beta^{2}}{8d^{3}/\left(D^{2}H\right)}f$$
$$ \begin{align}
f&=\frac{C_{L}}{Re_{G}}+C_{t}\left\{\left(\frac{C_{tr}}{Re_{G}}+Re_{G}\right)^{-1}+\left(\frac{f_{\sim}}{C_{t}}\right)^{1/m}\right\}^{m}\\\\
Re_{d}&=\frac{nd^{2}\rho}{\mu}\\\\
Re_{G}&=\frac{\pi\eta\ln\left(D/d\right)}{4d/\beta D}Re_{d}\\\\
C_{L}&=0.215\eta n_{p}\frac{d}{H}\left\{1-\left(\frac{d}{D}\right)^{2}\right\}+1.83\frac{b\sin\theta}{H}\left(\frac{n_{p}}{2\sin\theta}\right)^{1/3}\\\\
C_{t}&=\left\{\left(1.96X^{1.19}\right)^{-7.8}+\left(0.25\right)^{-7.8}\right\}^{-1/7.8}\\\\
m&=\left\{\left(0.71X^{0.373}\right)^{-7.8}+\left(0.333\right)^{-7.8}\right\}^{-1/7.8}\\\\
C_{tr}&=23.8\left(\frac{d}{D}\right)^{-3.24}\left(\frac{b\sin\theta}{D}\right)^{-1.18}X^{-0.74}\\\\
f_{\sim}&=0.0151\left(\frac{d}{D}\right)C^{0.308}_{t}\\\\
X&=\gamma {n_{p}}^{0.7}b\left(\frac{\sin^{1.6}\theta}{H}\right)\\\\
\beta&=\frac{2\ln\left(D/d\right)}{\left(D/d\right)-\left(d/D\right)}\\\\
\gamma&=\left\{\frac{\eta\ln\left(D/d\right)}{\left(\beta D/d^{5}\right)}\right\}^{1/3}\\\\
\eta&=0.711\frac{0.157+n_{p}\ln\left(D/d\right)^{0.611}}{{n_{p}}^{0.52}\left[1-\left(d/D\right)^{2}\right]}
\end{align}$$
NP0:邪魔板なしの場合の動力数[-]、d:翼径[m]、D:槽径[m]
H:液深さ[m]、ρ:密度[kg/m3]、μ:粘度[Pa・s]
n:回転数[1/s]、np:羽根枚数[-]、θ:羽根取り付け角度[deg]、b:翼幅[m]
タービン翼
タービン翼は亀井・平岡の式を変更せずそのまま利用できます。
プロペラ翼、三枚後退翼
プロペラ翼や三枚後退翼は変数の一部を変更することで利用できます。
亀井・平岡の式
(プロペラ翼、三枚後退翼の変数)
$$ \begin{align}
C_{t}&=\left\{\left(3X^{1.5}\right)^{-7.8}+\left(0.25\right)^{-7.8}\right\}^{-1/7.8}\\\\
m&=\left\{\left(0.8X^{0.373}\right)^{-7.8}+\left(0.333\right)^{-7.8}\right\}^{-1/7.8}
\end{align}$$
スーパーミックスHR320, 320S
スーパーミックスシリーズは佐竹マルチミクスの商品名です。
そのうち傾斜パドル翼を改良したHR320やHR320Sは変数の一部を変更することで利用できます。
亀井・平岡の式
(スーパーミックスHR320の変数)
$$ C_{t}=\left\{\left(36.7X^{1.73}\right)^{-7.8}+\left(0.25\right)^{-7.8}\right\}^{-1/7.8}$$
亀井・平岡の式
(スーパーミックスHR320Sの変数)
$$ \begin{align}
b^{'}&=1.74b\\\\
C_{L}&=0.215\eta n_{p}\frac{d}{H}\left\{1-\left(\frac{d}{D}\right)^{2}\right\}+1.83\frac{b^{'}\sin\theta}{H}\left(\frac{n_{p}}{2\sin\theta}\right)^{1/3}\\\\
C_{t}&=\left\{\left(25X^{1.73}\right)^{-7.8}+\left(0.25\right)^{-7.8}\right\}^{-1/7.8}\\\\
m&=\left\{\left(1.01X^{0.373}\right)^{-7.8}+\left(0.333\right)^{-7.8}\right\}^{-1/7.8}\\\\
C_{tr}&=0.2\left(\frac{d}{D}\right)^{-3.24}\left(\frac{b^{'}\sin\theta}{D}\right)^{-1.18}X^{-0.74}
\end{align}$$
b:翼幅[m]、np:羽根枚数[-]、d:翼径[m]、D:槽径[m]
H:液深さ[m]、θ:羽根取り付け角度[deg]
参考資料:新型軸流撹拌翼HR320とHR320Sの性能評価(化学工学論文集 2023 年 49 巻 3 号 p. 56-61)
大型翼への利用
小型翼であるパドル翼を基に作られた亀井・平岡の式ですが、大型翼へも利用できます。
アンカー翼
アンカー翼は亀井・平岡の式を変更せずそのまま利用できます。
非常に太く厚みのあるパドル翼と考えて翼径dや翼幅bを設定します。
ヘリカルリボン翼
ヘリカルリボン翼は変数の一部を変更することで利用できます。
亀井・平岡の式(ヘリカルリボン翼)
$$ N_{p0}=16.0f$$
$$ \begin{align}
f&=\frac{C_{L}}{Re_{G}}+C_{t}\left\{\left(\frac{C_{tr}}{Re_{G}}+Re_{G}\right)^{-1}+\left(\frac{f_{\sim}}{C_{t}}\right)^{1/m}\right\}^{m}\\\\
Re_{d}&=\frac{nd^{2}\rho}{\mu}\\\\
Re_{G}&=0.0388Re_{d}\\\\
C_{L}&=1.00\\\\
C_{t}&=0.100\\\\
m&=0.333\\\\
C_{tr}&=2500\\\\
f_{\sim}&=0.00683\\\\
\beta&=0.999\\\\
\eta&=0.538
\end{align}$$
NP0:邪魔板なしの場合の動力数[-]、d:翼径[m]、n:回転数[1/s]
ρ:密度[kg/m3]、μ:粘度[Pa・s]
マックスブレンド、スーパーミックスMR205、フルゾーン
亀井・平岡の式は式を一部変更することでメーカー各社が提供する大型オリジナル翼にも転用できます。
ここではマックスブレンド(住友重機械プロセス機器)、スーパーミックスMR205(佐竹マルチミクス)、フルゾーン(神鋼環境ソリューション)の式を紹介します。
使用する撹拌翼やタンクの底形状によって変数Ctの値が変化します。
亀井・平岡の式
(マックスブレンドおよびスーパーミックスMR205:皿底槽)
$$ N_{p0}=\frac{1.2\pi^{4}\beta^{2}}{8d^{3}/\left(D^{2}H\right)}f$$
$$ \begin{align}
f&=\frac{C_{L}}{Re_{G}}+C_{t}\left\{\left(\frac{C_{tr}}{Re_{G}}+Re_{G}\right)^{-1}+\left(\frac{f_{\sim}}{C_{t}}\right)^{1/m}\right\}^{m}\\\\
Re_{d}&=\frac{nd^{2}\rho}{\mu}\\\\
Re_{G}&=\frac{\pi\eta\ln\left(D/d\right)}{4d/\beta D}Re_{d}\\\\
C_{L}&=0.215\eta n_{p}\frac{d}{H}\left\{1-\left(\frac{d}{D}\right)^{2}\right\}+1.83\frac{b}{H}\left(\frac{n_{p}}{2}\right)^{1/3}\\\\
C_{t}&=\left\{\left(0.27X^{0.4}\right)^{-7.8}+\left(0.25\right)^{-7.8}\right\}^{-1/7.8}\\\\
m&=0.333\\\\
C_{tr}&=1000\left(\frac{d}{D}\right)^{-3.24}\left(\frac{b}{D}\right)^{-1.18}X^{-0.74}\\\\
f_{\sim}&=0.0151\left(\frac{d}{D}\right)C^{0.308}_{t}\\\\
X&=\gamma {n_{p}}^{0.7}\frac{b}{H}\\\\
\beta&=2\ln\left[\frac{\left(D/d\right)}{\left(D/d\right)-\left(d/D\right)}\right]\\\\
\gamma&=\left\{\frac{\eta\ln\left(D/d\right)}{\left(\beta D/d^{5}\right)}\right\}^{1/3}\\\\
\eta&=0.711\frac{0.157+n_{p}\ln\left(D/d\right)^{0.611}}{{n_{p}}^{0.52}\left[1-\left(d/D\right)^{2}\right]}
\end{align}$$
NP0:邪魔板なしの場合の動力数[-]、d:翼径[m]、D:槽径[m]
H:液深さ[m]、ρ:密度[kg/m3]、μ:粘度[Pa・s]
n:回転数[1/s]、np:羽根枚数[-]、θ:羽根取り付け角度[deg]、b:翼幅[m]
亀井・平岡の式
(マックスブレンドおよびスーパーミックスMR205の変数:平底槽)
$$ C_{t}=\left\{\left(0.3X^{0.4}\right)^{-7.8}+\left(0.25\right)^{-7.8}\right\}^{-1/7.8}$$
亀井・平岡の式(フルゾーンの変数:皿底槽)
$$ C_{t}=\left\{\left(0.22X^{0.4}\right)^{-7.8}+\left(0.25\right)^{-7.8}\right\}^{-1/7.8}$$
亀井・平岡の式(フルゾーンの変数:平底槽)
$$ C_{t}=\left\{\left(0.3X^{0.5}\right)^{-7.8}+\left(0.25\right)^{-7.8}\right\}^{-1/7.8}$$
参考資料:大型翼の撹拌所要動力に対する液高さの影響(化学工学論文集 2016 年 42 巻 6 号 p. 187-191)
円筒以外のタンク形状の場合
亀井・平岡の式は円筒上のタンクで実験されましたが、他の形状のタンクでも利用できます。
球状タンク
もしタンク形状が円筒状ではなく球状の場合、槽径Dに見かけの円筒槽直径を使うと計算できます。
見かけの円筒槽直径
$$ D_{a}=0.874D_{s}$$
Da:見かけの円筒槽直径[m]、Ds:球形槽直径[m]
参考資料:球形槽および円筒槽におけるパドル翼の撹拌所要動力の相関(化学工学論文集 1995 年 21 巻 1 号 p. 41-48)
細かい翼条件を考慮する場合
その他にも条件を変更したときの利用報告がされています。
翼の板厚も考慮する場合(傾斜パドル翼)
傾斜パドル翼の場合、翼の板厚も考慮したい場合は翼幅の項bsinθを見かけの翼幅bsinθ+δcosθに変更して使用します。
板厚が増すほど層流域では動力数が増加し、乱流域では動力数が減少する傾向にあります。
ただし通常のパドル翼では使えません。
傾斜パドル翼の板厚も考慮した見かけの翼幅
$$ b\sin\theta+\delta\cos\theta$$
参考資料:撹拌所要動力におよぼす翼板厚さの影響(化学工学論文集 2015 年 41 巻 4 号 p. 215-219)
参考資料
・最新ミキシング技術の基礎と応用
撹拌に関する詳細な計算方法が解説されています。
撹拌機の機械的強度の計算など、撹拌装置を設計するためのノウハウが詰め込まれておりオススメです。
-
最新ミキシング技術の基礎と応用(化学工学の進歩42)
www.amazon.co.jp
・プロセスケミストのための化学工学
化学プロセスの各要素に対する設計方法や注意点が解説されています。
実用的なプロセス設計を勉強したいときにオススメの書籍です。
-
プロセスケミストのための化学工学(基礎編)
www.amazon.co.jp
・化学工学ー解説と演習ー
化学工学を勉強したい!と思ったら真っ先にオススメしたい書籍です。
他の汎用化学工学書籍には無い「撹拌動力計算」や「撹拌伝熱計算」も記載されています。
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化学工学―解説と演習ー
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