撹拌翼の種類と特徴

2023年6月30日

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小型翼

主には低粘度流体の撹拌用として用いられます。

撹拌翼翼径と槽径の比
d/D
翼高さと槽径の比
C/D
主なフローパターン
プロペラ翼0.2~0.40.2~0.5(Np変化なし)軸流
パドル翼0.5~0.90.2~0.5(0.2でNp最大)放射流
傾斜パドル翼0.4~0.50.2~0.5(0.2でNp最大)軸流+放射流
3枚後退翼0.5~0.70.1程度放射流
タービン翼0.2~0.50.2~0.5(0.5でNp最大)放射流
小型翼の比較

プロペラ翼

プロペラ翼は文字通り飛行機や船舶のプロペラ形状を模して作られた撹拌翼です。

タンクの底に向かって(軸流方向)に吐出する特徴があります。

高速の軸流は大きな槽内循環流となり液を混合します。

パドル翼

パドル翼は垂直に配置したフラットバーをプロペラ上に取り付けた非常に簡易な形状です。

そのため実験データも豊富で撹拌能力の推算がしやすい撹拌翼です。

せん断力があり、タンクの周囲に向かって(放射方向)の流れが強い形状です。

傾斜パドル翼とすることで軸流も生み出し、放射流と軸流の混合フローパターンが得られます。

よく45度傾斜パドルが用いられます。

3枚後退翼(ファウドラー翼)

後退翼はパドル翼の派生形で、回転方向と逆方向に湾曲した形状です。

放射流を増やして吐出効率を上げることが目的です。

グラスライニング撹拌装置にも頻繁に用いられ、翼高さと槽径の比(C/D)が0.1程度とタンクの底部に配置されます。

ただし比較的底部に翼が位置するとはいえ、沈降性の物体が存在する場合には混合不良が起きかねません。

その場合にはツインスター翼モールポー翼ツーブレンド翼など、より混合性の良い撹拌翼が使われます。

タービン翼

タービン翼は水平ディスクに羽根を取り付けた形状です。

特にタービン翼は代表的な派生形状が多く存在します。

  • ディスクタービン翼:ディスクに垂直な羽根が付いた形状
  • ピッチドタービン翼:傾斜パドル翼のように羽根の角度が変化した形状
  • コンケーブタービン翼:羽根の短辺方向が湾曲しているパイプの半分にしたような形状
  • ディスパー翼:ディスクの先が鋸刃のような形状

中央のディスク部分が気体を受ける構造になっており、特に水素や窒素などガスを吹き込んで分散させる目的で使われます。

またせん断能力が高いため液滴の微細化、高濃度スラリー液の撹拌にも使われます。

大型翼

高粘度域の流体には大型の撹拌翼が用いられます。

アンカー翼

高粘度流体やスラリー流体で使用されます。

ジャケットタンクの場合は伝熱用途でも使われます。

タンク壁面付近にまで翼形状が広がるため、基本的にバッフルは設けられません。

そのため沈降性の物体が存在する場合は、混合不良になる恐れがあります。

ヘリカルリボン翼

ヘリカルリボン翼はらせん状に帯状ブレードを巻いた撹拌翼です。

層流域においては槽内壁付近の流体更新と槽内の循環を促進させる必要があります。

そのため壁面と翼先端との隙間を小さくしなければなりません。

また軸周囲は撹拌不良が起きやすく、ポリマー塊などの形成に注意しなければなりません。

メーカーオリジナル翼

先に紹介した撹拌翼以外にも、メーカー各社がオリジナルの撹拌翼を販売しています。

多くは大型形状であり、低動力かつ広い粘度範囲で使用できるよう設計されています。

低動力・低回転数で撹拌できれば結晶や粒子の破壊が起きづらく品質向上に寄与します。

ここでは名前も覚えておきたい代表的なものを紹介します。

マックスブレンド(住友重機械プロセス機器)

マックスブレンドは幅が槽径の1/2程度、液面からボトム付近にまで及ぶ縦長い大きな1枚板のオリジナル翼です。

上部はいくつかのグリッドが設けられており、液を分散・細分化します。

底部はパドル形状になっており、勢いよく吐出された流体が液面付近まで上昇して循環します。

参考資料:マックスブレンド商品説明

スーパーミックス(佐竹マルチミクス)

スーパーミックスは佐竹マルチミクスのオリジナル撹拌翼の名称です。

スーパーミックスシリーズは多彩なラインナップがあるのが特徴です。

  • MR205:高粘度対応の大型翼の代表製品
  • LR500:撹拌レイノルズ数1以下でも混合可能な大型翼
  • HR320:折り曲げを加えて吐出性を向上させたプロペラ翼
  • HS600:分散性の高いタービン系ボトムインペラ

参考資料:スーパーミックスシリーズ一覧

フルゾーン(神鋼環境ソリューション)

フルゾーンは多段パドル翼というコンセプトで設計されたオリジナル翼です。

低~中粘度域、撹拌レイノルズ数が10より大きな領域で使用されます。

45度ズレた2段の羽根で構成されており、上段翼の吐出流を下段翼が吸い込む形で流れが融合することで、槽内全体の大きな循環流を生み出します。

下段翼は後退翼とすることで上下翼の吐出バランスを調節、上段翼は下部先端に補助翼(フィン)を設けることで槽内分離を抑制しています。

参考資料:高効率撹拌翼の開発(ながれ 第22巻 (2003) 第3号)

参考資料:フルゾーン商品説明

ログボーン(神鋼環境ソリューション)

ログボーンはダブルヘリカルリボン翼を改良したオリジナル翼です。

3,000 Pa・s以上の高粘度域で利用でき、撹拌レイノルズ数が0.1以下まで安定した混合性能をもちます。

中心軸からリボンを支える構造となるヘリカルリボン翼は、軸付近の流動性の悪い部分でポリマー塊が出来るなど不具合が発生します。

これを解消するためログボーンでは中心軸を廃止し、門型のフレームを設けてリボンを支えています。

このフレームは支えだけでなく、軸流を放射流へ変換し混合促進する機能も兼ね備えています。

参考資料:高効率撹拌翼の開発(ながれ 第22巻 (2003) 第3号)

参考資料:神鋼環境ソリューション オリジナル撹拌翼説明

HB翼

名古屋工業大学の加藤禎人教授により開発されたホームベース型の撹拌翼です。

非常にシンプルな構造かつ高い混合性能を兼ね備えた素晴らしい撹拌翼です。

グラスライニングの撹拌翼としても採用されます。

参考資料:流脈観察に基づくHB翼の開発(化学工学論文集 2015 年 41 巻 1 号 p. 16-20)

特殊な機構の撹拌翼

これまで紹介した撹拌翼の他にも、面白い翼がありますので紹介します。

スイングスター

スイングスターはタンク上部を視点にして円錐を描くように撹拌します。

軸を回転させずに軸を振る、名前の通りスイングしながら撹拌する面白い機構です。

軸封由来の異物が発生しづらく、クリーンな環境での使用が勧められています。

参考資料:スイングスター商品説明

Advanced Mixing(AM)翼

AM翼は名古屋工業大学 化学工学研究室にて開発された撹拌翼です。

高粘度流体の撹拌翼は大型かつ複雑な形状になることが一般的でした。

コスト低減の面から、パドル翼など小型翼を複数組み合わせることで大型翼に近い撹拌性能を実現しています。

参考資料:Development and evaluation of mixing mechanism of new transformable multiple impeller (AM impeller)(dv. Manuf. Process.2023, e10170. Early View)

参考資料

・最新ミキシング技術の基礎と応用

撹拌に関する詳細な計算方法が解説されています。
撹拌機の機械的強度の計算など、撹拌装置を設計するためのノウハウが詰め込まれておりオススメです。

最新ミキシング技術の基礎と応用(化学工学の進歩42)
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・プロセスケミストのための化学工学

化学プロセスの各要素に対する設計方法や注意点が解説されています。
実用的なプロセス設計を勉強したいときにオススメの書籍です。

プロセスケミストのための化学工学(基礎編)
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・化学工学ー解説と演習ー

化学工学を勉強したい!と思ったら真っ先にオススメしたい書籍です。
他の汎用化学工学書籍には無い「撹拌動力計算」や「撹拌伝熱計算」も記載されています。

化学工学―解説と演習ー
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・佐竹マルチミクス スーパーミックスシリーズ カタログ

・一般的な撹拌翼(神鋼環境ソリューション)







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