2流体の流れ方向
熱交換器の高温側流体と低温側流体の流れ方向によって伝熱結果が大きく異なります。
並流
両流体が同じ方向に流れる並流では、低温側の温度が高温側の温度を超えないのが特徴です。
これは入口付近の温度差が大きく、出口付近の温度差が小さくなるためです。
加熱温度に上限がある場合に有効です。
向流
両流体が対向する方向に流れる向流では、低温側の温度が高温側の温度を超えるのが特徴です。
これは入口から出口にかけて常に温度差が大きいためです。
熱交換量を増やしたい場合に有効です。
直交流
並流や向流以外にも、両流体が直交する方向に流れる直交流という考え方もあります。
気体の熱交換器でよく用いられます。
多管式熱交換器の流れ
多管式熱交換器は一般に、シェル内をチューブが往復する2パス形式がとられています。
そのためチューブ流体の往路は向流、復路は並流になります。
更に内部にはバッフルが設けられています。
実際の流体の流れは非常に複雑です。
熱交換量の計算
まずは熱交換器において、どの程度の熱交換が行われたかの計算方法を解説します。
熱交換量
エネルギー保存則より、高温流体が失う熱量と低温流体が得る熱量は等しくなります。
ただし、これは十分な断熱により外界への放熱が無いこと、機器の不良で液漏れが無いことなど、外的要因を考慮していないことが前提です。
熱交換量
$$ Q=c_{pH}V_{H}\rho_{H}\left(T_{HI}-T_{HO}\right)=c_{pL}V_{L}\rho_{L}\left(T_{LO}-T_{LI}\right)$$
Q:熱交換量[W]、cp:比熱[J/(kg・K)]、V:体積流量[m3/h]
ρ:密度[kg/m3]、T:温度[K]
H:高温流体、L:低温流体、I:熱交換器入口、O:熱交換器出口
質量流量の換算
先に紹介した計算式では体積流量を用いていますが、密度をかけて質量流量に換算しています。
これは体積流量は温度によって値が変化してしまうためです。
コリオリ流量計のように質量流量を直接測定できる場合は、以下の換算式を用いて質量流量で計算できます。
質量流量
$$ W=Vρ$$
W:質量流量[kg/h]、V:体積流量[m3/h]、ρ:密度[kg/m3]
固体壁内の伝熱
高温側から低温側へ、固体壁を通って熱が伝わる場合を考えます。
その時の固体壁内の伝熱計算を解説します。
フーリエの法則
固体壁内における伝熱量はフーリエの法則から求められます。
フーリエの法則
$$ Q=-kA\frac{T_{H}-T_{L}}{t}$$
Q:伝熱量[W]、k:熱伝導度[W/(m・K)]、T:温度[K]、t:壁面厚さ[m]
H:高温流体、L:低温流体
熱伝導度(熱伝導率)kは物質固有の値です。
温度によって熱伝導度は異なりますので、高温側と低温側の流体温度の平均値から熱伝導度を決定します。
温度勾配
フーリエの法則における、流体の温度差(Th-Tl)と壁面厚さLの比は温度勾配と呼びます。
温度勾配が大きいほど単位時間当たりの伝熱量が増加します。
熱流束
ある断面に対して直交する方向に伝わる、単位時間当たりの熱量を熱流束と呼びます。
固体壁面の伝熱量は熱流束を用いて以下のように表せます。
熱流束を用いた伝熱量
$$ Q=qA$$
Q:伝熱量[W]、q:熱流束[W/m2]、A:断面積[m2]
固体壁付近の伝熱
高温側から低温側へ、固体壁を通って熱が伝わる場合を考えます。
その時の固体壁付近の伝熱計算を解説します。
境膜
流体には粘性があるため、固体壁面付近では摩擦が発生して流速には勾配が現れます。
この勾配が存在する固体壁面付近の微小な領域を境膜と呼びます。
例えば多管式熱交換器においてはチューブの内側と外側に境膜が存在します。
境膜は流速だけでなく温度の変化も著しく、主に伝熱は境膜で起こっています。
流速が小さいほど境膜は厚く、大きいほど境膜が薄い特徴があります。
ニュートンの冷却法則
固体壁面と流体との伝熱量はニュートンの冷却法則から計算できます。
ニュートンの冷却法則
$$ Q=hA\left(T_{H}-T_{L}\right)$$
Q:伝熱量[W]、h:境膜伝熱係数[W/(m2・K)]、A:断面積[m2]
T:温度[K]、H:高温側、L:低温側
境膜伝熱係数
ニュートンの冷却法則で用いられる境膜伝熱係数hは物性値ではありません。
流体の物性や流速、流れの形式などに依存する値です。
ヌセルト数Nu、レイノルズ数Re、グラスホフ数Gr、プラントル数Prなど無次元数との関係式を用いて算出します。
熱交換器の伝熱計算
ここからは熱交換器における伝熱、つまり熱貫流における伝熱計算を解説します。
フーリエの式
熱交換器においては高温流体から固体壁面、固体壁面内、固体壁面から低温流体と熱が伝わります。
しかし、これまで紹介したフーリエの法則やニュートンの冷却法則を用いるには、固体壁面の温度が無ければ計算できず現実的ではありません。
そのため実用的にはフーリエの式から算出します。
フーリエの式
$$ Q=UA\Delta T$$
Q:伝熱量[W]、U:総括伝熱係数[W/(m2・K)]、A:断面積[m2]、ΔT:温度差[K]
総括伝熱係数
フーリエの式では熱貫流のしやすさを表す総括伝熱係数Uが用いられています。
この値は以下の式から算出されます。
総括伝熱係数
$$ \frac{1}{U}=\frac{1}{h_{H}}+\frac{t}{k}+\frac{1}{h_{L}}$$
U:総括伝熱係数[W/(m2・K)]、h:境膜伝熱係数[W/(m2・K)]
t:壁面厚さ[m]、k:熱伝導度[W/(m・K)]
H:高温側、L:低温側
ただし熱交換器を長期間使用すると、内部の汚れにより伝熱性能が低下します。
実際の総括伝熱係数は汚れの厚みと熱伝導度の比である汚れ係数rも用いて計算されます。
総括伝熱係数(汚れを補正)
$$ \frac{1}{U}=\frac{1}{h_{H}}+\frac{t}{k}+\frac{1}{h_{L}}+r$$
U:総括伝熱係数[W/(m2・K)]、h:境膜伝熱係数[W/(m2・K)]
t:壁面厚さ[m]、k:熱伝導度[W/(m・K)]、r:汚れ係数[m2K/W]
H:高温側、L:低温側
温度差に注意(対数平均温度差)
熱交換器内では、高温側と低温側の流体が熱交換しながら流れていきます。
そのため伝熱位置によって両流体の温度は変わり、温度差についても単純に入口温度と出口温度の差だけでは説明できません。
そこで、熱交換器の伝熱計算で用いる温度差には対数平均温度差LMTDを用います。
対数平均温度差LMTD
$$ \begin{align}
LMTD&=\frac{\Delta T_{1}-\Delta T_{2}}{\ln \left(\Delta T_{1}/\Delta T_{2}\right)}\\\\
\end{align}$$
LMTD:対数平均温度差[K]
ΔT1:高温流体入口部における低温流体との温度差[K]
ΔT2:高温流体出口部における低温流体との温度差[K]
この式はリービッヒ冷却器のような単純な二重管構造において成り立ちます。
実際には補正係数FTをかけて補正したLMTDを用います。
FTはおおよそ0.8~1.0の値が用いられます。
様々な熱交換条件における補正係数FTは伝熱工学資料より参照できます。
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