マッケーブシール法の作図手順

化学工学/蒸留蒸留の5本目(全5本)公開

マッケーブシール法は、x-y線図の階段作図で蒸留塔の理論段数を求める方法です。最小還流比の出し方と、還流比をその何倍に取るかを例題で示します。資料ごとの倍率の目安と使えない系もまとめました。

マッケーブシール法で理論段数を求める手順

  1. 塔全体の物質収支から、留出液量Dと缶出液量Wを出す。組成はどれも低沸点成分のモル分率で表す。
  2. x-y線図に対角線を引き、相対揮発度αから平衡線を描く。
  3. 原料の状態からqを決め、点(zF, zF)を通るq線を引く。
  4. q線と平衡線の交点から、最小還流比Rminを出す。
  5. 還流比Rを決め、点(xD, xD)から切片xD/(R+1)に向けて濃縮部操作線を引く。Rの目安は資料によってRminの1.05〜2倍。
  6. 濃縮部操作線とq線の交点を点(xW, xW)と結び、回収部操作線にする。
  7. 点(xD, xD)から平衡線と操作線の間に階段を描き、液の組成がxWを下回るまで数える。q線をまたいだ段で回収部操作線に移ると段数が最も少なくなり、その段が原料供給段になる。
  8. 数えた段数からリボイラーの1段(分縮器を使う塔はその1段も)を除き、塔効率で割って実段数にする。
この記事の内容
  1. x-y線図と操作線の式
  2. 原料の状態とq線の向き
  3. 例題:還流比ごとの段数と蒸気量
  4. 最小還流比の何倍にするか(資料ごとの目安)
  5. 最小理論段数と最小還流比の式
  6. 段数の数え方と塔効率
  7. マッケーブシール法が使えない系
  8. 参考資料

x-y線図と操作線の式

液の組成xと、それと平衡な蒸気の組成yの関係を描いたものがx-y線図です。xとyは、どちらも低沸点成分のモル分率です。2つの成分の気液平衡比(y/x)の比を、相対揮発度(比揮発度)αと呼びます。

相対揮発度[−]

$$\alpha=\frac{y/x}{(1-y)/(1-x)}=\frac{P_{A}^{\circ}}{P_{B}^{\circ}}$$

式は横にスクロールできます

α:相対揮発度[−]、x・y:液・蒸気の低沸点成分のモル分率[−]、PA°・PB°:低沸点成分・高沸点成分の純物質の蒸気圧[kPa]

ラウールの法則に従う理想溶液で圧力が大気圧付近までなら、右側の等号が成り立ちます(蒸気圧の基本)。αが一定なら、平衡線は次の式で描けます。

平衡線[−]

$$y=\frac{\alpha x}{1+(\alpha-1)x}$$

式は横にスクロールできます

純物質の蒸気圧はアントワン式で出し、αとyは気液平衡・相対揮発度計算のツール(別サイト)で求められます。

操作線は、段と段の間ですれ違う液と蒸気の組成の関係です。物質収支から次の式が出ます。

全体の物質収支[kmol/h]

$$F=D+W \qquad Fz_{F}=Dx_{D}+Wx_{W}$$

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zF・xD・xW:原料・留出液・缶出液の低沸点成分のモル分率[−]、F・D・W:それぞれの流量[kmol/h]

濃縮部操作線[−]

$$y_{n+1}=\frac{R}{R+1}x_{n}+\frac{x_{D}}{R+1}$$

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R:還流比(還流液量L÷留出液量D)[−]、xn:上からn段目を出る液の組成[−]、yn+1:その下の段から上がる蒸気の組成[−]

q線[−]

$$y=\frac{q}{q-1}x-\frac{z_{F}}{q-1}$$

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q:原料1 molを飽和蒸気にするのに要る熱量を、原料のモル蒸発潜熱で割った値[−]

回収部操作線[−]

$$y_{m+1}=\frac{L'}{V'}x_{m}-\frac{W}{V'}x_{W}$$

式は横にスクロールできます

xm・ym+1:回収部で上からm段目を出る液と、その下の段から上がる蒸気の組成[−]
L'=L+qF・V'=V−(1−q)F:回収部の液・蒸気の流量[kmol/h]、V=(R+1)D:濃縮部の蒸気の流量[kmol/h]

線 通る点 傾き 決めるもの
平衡線 (0, 0)と(1, 1) 曲線 相対揮発度α(気液平衡)
濃縮部操作線 (xD, xD) R/(R+1) 還流比R
q線 (zF, zF) q/(q−1) 原料の状態q
回収部操作線 (xW, xW) L'/V' 濃縮部操作線とq線の交点

操作線が直線になるのは、濃縮部と回収部の中で気液のモル流量が変わらないと置くからです。これを等モル流れと呼びます。

原料の状態とq線の向き

原料段で下りる液の増え分を、原料の量で割った値がqです。沸点の液なら1、飽和蒸気なら0になります。沸点より冷たい液は上がってくる蒸気の一部を凝縮させて温まるので、qが1を超えます。

過冷却液のq[−]

$$q=1+\frac{c_{p}(T_{b}-T_{F})}{\lambda}$$

式は横にスクロールできます

cp:原料の液のモル比熱[kJ/(mol·K)]、Tb・TF:原料の沸点・温度[℃]、λ:原料のモル蒸発潜熱[kJ/mol]

原料の状態 q q線の向き 最小還流比(例題の条件)
沸点より低い液 1より大(例 1.2) 右上がり(傾き6) 1.49
沸点の液(飽和液) 1 垂直 1.67
気液混合(液が半分) 0.5 右下がり(傾き−1) 2.29
飽和蒸気 0 水平 3.11
過熱蒸気 0より小(例 −0.2) 右上がり(傾き0.17) 3.47

出典:qの値と向き=化学工学便覧 p.527、大江『絵とき「蒸留技術」基礎のきそ』pp.127〜128/最小還流比=下の例題の条件で計算

原料を予熱して気液混合で入れると、qが下がり最小還流比は上がります。例題の条件で飽和蒸気にすると、最小還流比は1.67から3.11です。最小還流比で比べると、リボイラーの蒸気は122.2から67.7 kmol/hに減ります。ただし予熱器で原料120 kmol/hを気化させる熱を足すと、加熱の合計は蒸気量に換算して187.7 kmol/h分です。凝縮器の負荷も沸点の液の場合の約1.5倍になります。

例題:還流比ごとの段数と蒸気量

例として、相対揮発度が2.2で一定の2成分系を考えます。計算のために置いた仮想の系です。原料は低沸点成分0.40の沸点の液(q=1)で、120 kmol/hです。これを留出液0.92と缶出液0.08に分けます。物質収支から、留出液45.71 kmol/h、缶出液74.29 kmol/hです。

q線はx=0.40の垂直線で、平衡線との交点はy=0.5946になります。最小還流比は、この交点と点(xD, xD)を結ぶ操作線の傾きから求めます。

最小還流比[−]

$$R_{\mathrm{min}}=\frac{x_{D}-y_{c}}{y_{c}-x_{c}}=\frac{0.92-0.5946}{0.5946-0.40}\simeq1.6722$$

式は横にスクロールできます

xc・yc:q線と平衡線の交点の液と蒸気の組成[−]

最小還流比では交点の近くで段の組成が変わらなくなり、段数は無限になります。この点をピンチポイントと呼びます。還流比を変えて階段を数えた結果が次の表です。Gilliland相関は、各種の蒸留の計算結果から還流比と段数の関係をまとめた相関です。ここでは、その線図を式で近似したMolokanovの式を使います。

R/Rmin 還流比R 理論段数(階段作図) 理論段数(Gilliland相関) 原料供給段(上から) 塔頂の蒸気量V[kmol/h]
1.08 1.8060 17.9 17.5 9 128.3
1.15 1.9231 15.3 15.7 8 133.6
1.25 2.0903 13.5 14.0 7 141.3
1.4 2.3411 11.9 12.3 7 152.7
1.6 2.6756 10.7 11.0 6 168.0
2.1 3.5117 9.2 9.4 5 206.2
全還流 ∞ 6.2(Fenskeの式) - - ∞

段数はリボイラー込みで全縮器は含まない。最後の段はxWまでの割合で端数/Gilliland相関=Molokanovの式(化学工学-解説と演習- 式4·29)

最小還流比の近くでは、還流比を少し上げるだけで段数が大きく減ります。1.08倍から1.25倍にすると段数は約4.4段減り、蒸気量は約10 %増えます。1.6倍から2.1倍では段数は約1.5段しか減らず、蒸気量が約23 %増えました。沸点の液で入れる塔では、リボイラーと凝縮器の熱量は蒸気量Vにほぼ比例します。Gilliland相関と階段作図の差は、この例では約−0.4〜+0.5段です。

最小還流比の何倍にするか(資料ごとの目安)

資料 R/Rmin 書かれている内容
化学工学便覧 改訂六版 p.529 1.05〜1.2 通常の最適還流比の範囲
化学工学-解説と演習- p.128 1.1〜1.5 簡易設計の手順で与える実還流比
白石『化学プラントのプロセス設計』p.76 1.2〜1.5 経済性・運転性・省エネルギーを考えて通常選ぶ値
分離技術会『実用蒸留技術』p.123 1.2〜1.5(設計は1.5〜2.0が多い) 水-エタノール系の節にある経験上の最適値。装置の融通性を見込むと高めで設計する
竹内ほか『解説化学工学』p.136 1.5〜2 実際の蒸留に最も適した値
大江『絵とき「蒸留技術」基礎のきそ』p.114・『トコトンやさしい蒸留の本』p.60 1.5〜2 経験則

倍率を決める理由として資料が挙げるのは、設備費と運転費の釣り合いと運転の余裕です。還流比を上げると段数が減って塔は低くなり、蒸気の熱と冷却水が増えます。燃料の価格が上がると、最適な還流比は低い側へ動きます(大江『トコトンやさしい蒸留の本』p.60)。

最小還流比に近いと、還流量が少し変わるだけで留出液の組成が大きく動きます。全還流に近ければ組成は安定する反面、熱源と冷却水の量と塔径が大きくなります。例題の表では、1.4倍から1.6倍に上げても減る段数は約1.2段です。

最小理論段数と最小還流比の式

階段を描かずに見当をつけるときは、Fenskeの式とUnderwoodの式を使います。限界成分は純度や回収率を指定する2つの成分で、2成分系なら低沸点成分が軽い方です。

最小理論段数(Fenskeの式)[−]

$$S_{m}=N_{m}+1=\frac{\log\left(\frac{x_{D}}{1-x_{D}}\cdot\frac{1-x_{W}}{x_{W}}\right)}{\log\alpha}$$

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Sm:全還流での最小ステップ数(リボイラー込み)[−]、Nm:塔内の最小理論段数[−]、α:相対揮発度の平均値[−]

最小還流比(Underwoodの式)[−]

$$\sum_{i}\frac{\alpha_{i}z_{Fi}}{\alpha_{i}-\theta}=1-q \qquad R_{\mathrm{min}}+1=\sum_{i}\frac{\alpha_{i}x_{Di}}{\alpha_{i}-\theta}$$

式は横にスクロールできます

αi:重い方の限界成分に対する成分iの相対揮発度[−]、zFi・xDi:原料・留出液の成分iのモル分率[−]、θ:左の式の根(限界成分2つのαの間)[−]

Fenskeの式は、αが一定とみなせれば多成分系にも使えます。αには幾何平均の値を使います。2成分系でαが一定なら、Underwoodの式の値も例題と同じ1.6722です。運転する還流比での段数の見当は、Gilliland相関で出せます(FUG法のツール(別サイト))。

段数の数え方と塔効率

段数の数え方は資料によって違います。化学工学便覧の理論段数Nはリボイラーを除いた数で、リボイラーを含めた階段の数はステップ数S=N+1です。化学工学-解説と演習-は、リボイラーと分縮器(蒸気の一部だけを凝縮させる凝縮器)をそれぞれ1理論段に数えます。全縮器は、どちらの資料も段に数えません。マッケーブ・シール法のツール(別サイト)が出す理論段数Nは、リボイラー込みの値です。

塔効率[−]

$$E_{T}=\frac{N_{\mathrm{th}}}{N_{a}}$$

式は横にスクロールできます

ET:塔効率[−]、Nth:理論段数(リボイラーと分縮器を除く)[−]、Na:実際の段数[−]

例題でR=2.6756(最小還流比の1.6倍)なら、リボイラーを除いた理論段数は9.7段です。塔効率0.6なら17段、0.8なら13段になります。マッケーブ・シール法のツールの「総合段効率換算」はリボイラーを含めて割るので、0.6では18段と出ます。充填塔では、リボイラーと分縮器の分を除いた理論段数に理論段相当高さ(HETP)を掛けて充填高さを出します(充填塔の換算ツール(別サイト))。

扱う液と段の形によって、塔効率は大きく違います。化学工学便覧には、1996年に国内の稼働中の蒸留塔を調べたアンケートが載っています。塔効率の回答820本のうち、40〜60%の塔が39.3%、60〜80%の塔が38.7%でした。解説化学工学は、塔効率をおよそ0.5〜0.8としています。白石の本にあるプロピレン精製塔の例は、約80〜90%です。

塔効率の見当は、液の粘度と相対揮発度の積から読むオコンネルの相関でつけます。粘度の高い液ほど塔効率は低めです。大江の本にあるシクロヘキサン+ヘプタンの例では、実測の塔効率89.4%に対し相関の値は63.1%でした。多孔板(シーブトレイ)では相関が低めに出るとされ、この例では26ポイント低い値です。

マッケーブシール法が使えない系

マッケーブシール法の前提は、各段で気液が平衡に達する理想段と、リボイラーと凝縮器のほかに熱の出入りが無い断熱の塔です。等モル流れも前提なので、成分のモル蒸発潜熱が大きく違う系では誤差が出ます。

αも塔の中で一定ではありません。大気圧のベンゼン-トルエン系では、αは80 ℃の2.60から111 ℃の2.34まで下がります(化学工学-解説と演習- 表4·1の定数で計算)。αが1に近いほど段数は急に増えます。例題の条件でαを1.5にすると、最小還流比は4.20で全還流の段数は12.0段です。

共沸のある系では平衡線が対角線と交わり、その組成を越えて分けられません。エタノール-水系の大気圧の共沸点は、エタノールのモル分率0.894・78.2 ℃です(化学工学-解説と演習- p.120)。平衡線の一部が下に膨らむ(変曲点のある)系では、共沸点より手前でも最小還流比が接線で決まります。接する位置は原料供給段から離れます。共沸を越える分離には、共沸蒸留や抽出蒸留を使います(蒸留の種類と使い分け)。3成分以上の系は、段ごとに物質収支・平衡・熱収支を解くプロセスシミュレーターで計算することが多いです。

参考資料

  1. 化学工学会 編『改訂六版 化学工学便覧』丸善(1999)10·1·1 気液平衡 p.524、10·2 2成分系の連続多段蒸留 pp.527〜530、10·13 蒸留塔に関するアンケート調査結果 pp.581〜583
  2. 化学工学会 監修・多田豊 編『化学工学(改訂第3版)-解説と演習-』朝倉書店(2008)4章 蒸留 pp.117〜131
  3. 竹内雍・松岡正邦・越智健二・茅原一之『解説 化学工学[改訂版]』培風館(2001)pp.136〜138
  4. 白石浩『化学プラントのプロセス設計-化学プラント工学入門-』分離技術会(2011)pp.75〜77
  5. 分離技術会 編『実用蒸留技術』分離技術会(2008)p.123
  6. 大江修造『絵とき「蒸留技術」基礎のきそ』日刊工業新聞社(2008)p.114、pp.125〜128、pp.183〜184
  7. 大江修造『トコトンやさしい蒸留の本』日刊工業新聞社(2015)pp.60〜61

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