問16については、当初不適切としていた選択肢4「ナイロン66よりもポリエチレンのΔSmが大きい」は、適切な内容であることからすべての選択肢が適切であり、不適切な選択肢がなく正答が存在しないことから、当該問題を選択した受験者全員に得点を与えられることとなりました。
次の記述の下線部のうち、最も不適切なものはどれか。
ナイロン66の融点がポリエチレンの融点よりも高いことを以下のように考察した。それぞれの融点Tmと融解エンタルピーΔHmは下表に示したとおりである。高分子のTmとΔHm及び融解エントロピーΔSmは次式により関係づけられる。
$$ T_{m} = \Delta H_{m} / \Delta S_{m}$$
この式から1 融点はΔHmが大きいほど、ΔSmが小さいほど高くなることがわかる。ここで、2 ΔHmは分子間の凝集エネルギーに関係し、ΔSmは分子鎖の剛直性と関係している。ポリエチレンは結晶状態から溶融状態に変化するとき、3 伸びきっていた-CH2-連鎖が自由に屈曲できるようになるため大きくエントロピーが変化し、ΔSmが大きな値となるためにTmが低くなると考えられる。一方、ナイロン66は水素結合性のアミド基を有していることから分子間凝集エネルギーが大きく、融解の際に分子鎖を引き離すのに大きなΔHmが必要となることが予想される。しかし、下表によれば予想に反してΔHmの実測値はナイロン66よりもポリエチレンの方が大きい。これは、4 ナイロン66よりもポリエチレンのΔSmが大きいことを意味している。その理由として、5 ナイロン66は溶融状態でも分子間水素結合を部分的に保持しており、また、アミド結合が共鳴構造により回転しにくく分子鎖が比較的剛直であることが挙げられる。そのため、結晶から溶融状態へ変化する際のエントロピー変化が小さくなり、ナイロン66は高い融点を示すと考えられる。
Tm / ℃ | ΔHm / Jg-1 | |
ナイロン66 | 267 | 188 |
ポリエチレン | 136 | 276 |
解答解説
※本問題には不適切な内容が無いことから、全員に得点が与えられております。
物質の融解エンタルピーは潜熱とも呼ばれます。つまり固体から液体に状態変化させるのに必要なエネルギーです。また融点は固体から液体に状態変化するときの温度です。またエントロピーは熱力学において「複雑さ」の指標として扱われます。今回の問題では、結晶性高分子が結晶状態から融解状態に変化することで分子の自由度が増すことからエントロピーは増加します。
参考資料
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融点とエンタルピー
analyzing-testing.netzsch.com
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物質が持つエネルギーの内訳(エントロピー)
repun-app.fish.hokudai.ac.jp
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化学繊維の融点 と分子構造の関連性
www.jstage.jst.go.jp