構造と測定原理
まずは基本的な原理や構造を解説します。
測定原理
測温抵抗体は温度により電気抵抗が変化することを利用した温度センサーです。
基本的に温度が上がると抵抗値も上がります。
構造
絶縁性の高いコアに巻かれたプラチナコイルをシースで覆い、更に保護管に収める構造が一般的です。
これらの要素の長さや形状は、温度測定の精度や運転性能に大きな影響を与えるため、設置時にはメーカーの仕様書を注意深く確認する必要があります。
さや管の利用
タンクや容器の中の液体やガスの温度を測定する際には、熱電対や測温抵抗体を"さや管"に入れて使用することが一般的です。
保護管を使用する理由は、以下の通りです。
- 機械的保護:液体やガス、固体などが直接センサーに触れることを防ぐ
- 交換の容易性:タンク内部に液体やガスが残っていてもセンサーを交換できる
ただし、さや管を使用すると、温度の応答性が落ちる可能性があります。
さや管がセンサーと測定対象との間に熱抵抗を作り出し、それによりセンサーが測定対象の温度を直接測定できなくなるためです。
金属材料の種類
測温抵抗体にはメインとなる金属としてプラチナやニッケル、銅などが使われます。
材料 | JIS規格 | 応答速度 | 化学的安定性 | 価格 |
---|---|---|---|---|
プラチナ | ○ | × | ○ | × |
ニッケル | × | × | × | ○ |
銅 | × | ○ | × | ○ |
プラチナ製(Pt)
測温抵抗体の中でもプラチナ製のものが特に広く使われています。
プラチナ製の測温抵抗体は、広範囲の温度で高精度の測定が可能で、化学的に安定しているため長期的な耐久性に優れています。
しかし、他の材料と比較すると高価なのが欠点です。
0℃で100Ωを示すプラチナ製測温抵抗体を特にPt100として一般的に使われます。
その他に抵抗値が500Ωや1000Ωを示すPt500やPt1000もあり、Pt100も含めた3種類がJIS C 1604 : 2013にて規定されています。
ニッケル製(Ni)
ニッケル製の測温抵抗体は、コストが低いという利点があります。
しかし、化学的な安定性が低く、長期間使用すると抵抗値が変化する可能性があります。
銅製(Cu)
銅製の測温抵抗体は、応答性が高く、コストも低いという利点があります。
しかし、温度範囲が狭く、化学的な安定性が低いのが欠点です。
配線方式
測温抵抗体では微小な抵抗の変化を高精度に測定しています。
そのため配線の抵抗が影響を及ぼす可能性があります。
配線抵抗の影響を取り除くために、3線式や4線式の接続方式が一般的に使用されます。
2線式
2線式はセンサーと受信計器が比較的近距離の場合に用いられます。
配線抵抗の影響をそのまま受けるため、精度良く計測はできません。
ただし一般に使われるPt100ではなくPt1000のような公称抵抗値が高い測温抵抗体を選択すると、相対的に配線抵抗の影響を小さくできます。
3線式
3線式は測温抵抗体の中で最も多く用いられます。
配線抵抗の影響を受けません。
そのため距離が長くても、周囲温度が変化した場合でも、配線抵抗値が同じ(長さが同程度)であれば精度よく計測できます。
4線式
4線式は例えば標準機器や高精度計測機器など、高精度が求められる場合に用いられます。
定電流供給と電圧検出の配線が独立しているために、基本的には配線の抵抗変化の影響を受けません。
そのため測温抵抗体の抵抗値をそのまま正確に測定できます。
変換器
DCSやPLCへの入力は、測温抵抗体用の入力ユニットが用意されています。
これは測温抵抗体は4-20mAなどのアナログ信号ではなく、抵抗値として検出するためです。
内部はホイートストンブリッジ回路が組まれており、この回路の電圧を測定することで高精度に抵抗値の変化を検出できます。
保護管の設計
配管などへ直接差し込んで接液する場合には保護管に収めた測温抵抗体が用いられます。
カルマン渦の発生
流体の流路に円柱や角柱のような障害物がある場合、障害物の後ろにカルマン渦と呼ばれる渦が発生します。
この渦の発生量が流量によって変化するため、流量計の原理にも応用されています。
ただし測温抵抗体においては、渦の数と保護管の固有振動数が一致する場合に共振して騒音・破損の原因になります。
保護管の強度計算
カルマン渦による共振が発生すると、保護管の根元部分に応力がかかります。
まず保護管の固有振動数Fnおよびカルマン渦による強制振動数Fsは以下のように計算できます。
式中のラムダは以下の値を用います。
次数 | λ |
---|---|
1次 | 1.875 |
2次 | 4.694 |
3次 | 7.855 |
保護管の固有振動数
$$ Fn=\frac{\lambda^{2}}{2\pi U^{2}}\sqrt{\frac{EIg}{WAs}}\times10^{12}$$
Fn:保護管の固有振動数[Hz]、λ:境界条件と振動形から定める係数[-]
U:保護管の実挿入長[mm]、E:ヤング率[kgf/mm2]、I:断面2次モーメント[mm4]
g:重力加速度[m/s2]、W:材料の比重量[kg/m3]、As:保護管の根本断面積[mm2]
カルマン渦による強制振動数
$$ Fs=St\frac{V}{D_{2}}\times10^{3}$$
Fs:カルマン渦による強制振動数[Hz]、St:ストローハル数[-]
V:流速[m/s]、D:保護管の先端外径[mm]
これら振動数の比率Fs/Fnが0.8より小さくなるように使用することが望ましいとされています。
更にFnやFsを用いて共振を避けられる保護管の最大長さが求められます。
保護管の最大長さ
$$ UM=\sqrt{\frac{0.8FnU^{2}}{Fs}}$$
UM:保護管の最大長さ[mm]、Fn:保護管の固有振動数[Hz]
U:保護管の実挿入長[mm]、Fs:カルマン渦による強制振動数[Hz]
参考資料
-
工業計測と制御の基礎―メーカーの技術者が書いたやさしく計装がわかる
www.amazon.co.jp
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計装マニュアル
www.keiso.or.jp