固液分離は、液に混じった固体の粒子を沈降・ろ過・遠心力などで分ける操作です。どの方法が合うかは、ストークスの式で出す沈降速度と固体の濃度でおおよそ決まります。沈降速度の早見表に続き、式の使える範囲・沈降槽の面積・ルースの式・凝集と目詰まりの対策を扱います。
沈降速度の早見表(密度2,000 kg/m³の球形粒子を20℃の水で沈めた計算例)
| 粒子径 | 沈降速度 | 1 m沈むのにかかる時間 | 粒子レイノルズ数 | ストークスの式 |
|---|---|---|---|---|
| 1 μm | 0.00055 mm/s | 約21日 | 5×10⁻⁷ | 使える |
| 5 μm | 0.014 mm/s | 約20時間 | 7×10⁻⁵ | 使える |
| 10 μm | 0.055 mm/s | 約5時間 | 5×10⁻⁴ | 使える |
| 20 μm | 0.22 mm/s | 約1.3時間 | 0.004 | 使える |
| 50 μm | 1.4 mm/s | 約12分 | 0.07 | 使える |
| 100 μm | 5.5 mm/s | 約3分 | 0.5 | 使える(1割ほど速めに出る) |
| 200 μm | 16 mm/s※ | 約1分 | 3 | 範囲外(式では22 mm/s) |
| 500 μm | 54 mm/s※ | 約18秒 | 27 | 範囲外(式では137 mm/s) |
水の物性は20℃の値で、『入門 粒子・粉体工学』によります(密度998 kg/m³・粘度1.00 mPa·s)。※は式の範囲外なので、後で示す広い範囲の抵抗係数の式(同書の式(4.9))で解きました。粒子径が10分の1になると、沈降速度は100分の1に落ちます。
ストークスの式(終末沈降速度)
式は横にスクロールできます
ut:終末沈降速度[m/s]、ρp:粒子の密度[kg/m³]、ρ:液の密度[kg/m³]、g:重力加速度[m/s²]、dp:粒子径[m]、μ:液の粘度[Pa·s]
粒子レイノルズ数
式は横にスクロールできます
Rep:粒子レイノルズ数[−]
ストークスの式が使えるのは、Repが2以下の範囲です。Repは配管のレイノルズ数の管径を粒子径に、流速を沈降速度に置き換えた数です。
固液分離の方法を粒子の大きさと濃度で選ぶ
固液分離の操作には、凝集・沈降・浮上・遠心分離・ろ過・圧搾があります。凝集は、粒子を大きくして分けやすくする前処理です。
| 方法 | 主な装置 | 粒子の大きさ | 固体の濃度 | 向く場面と弱み | 出典 |
|---|---|---|---|---|---|
| 重力沈降(清澄) | 沈降槽、傾斜板沈降槽 | 沈降速度で決まる(早見表) | 希薄 | 大量の液を澄ませる。細かい粒子には広い底面積か凝集が要る | 『化学工学便覧』15·2·1 |
| 重力沈降(濃縮) | シックナー | 同上 | 濃い | 沈んだ固体を連続して濃くする。面積は回分沈降試験で決める | 『化学工学便覧』15·2·1 |
| 浮上分離 | 加圧浮上装置 | 沈みにくい、かさ高いフロック | ― | 細かい気泡(平均60 μm程度)を付けて浮かせる | 『化学工学便覧』15·2·3 |
| 遠心沈降 | 円筒型、分離板型、デカンター型 | 重力では遅い細かい粒子。サブミクロン以下は難しい | 機種で違う(下の表) | 細かい粒子も短い時間で分けられる | 『化学工学便覧』15·1·1、15·2·2 |
| 液体サイクロン | 液体サイクロン | 3〜500 μm | 原液の固体1〜30% | 回転体が無く、液の旋回で分級・濃縮する。上から出る液も固体を5〜30%含む | 『化学工学便覧』表16·8 |
| ケークろ過 | 加圧ろ過器、真空ろ過器、遠心脱水機 | 細かいほどケークの抵抗が大きい | 1 vol%以上 | 固体をケークで回収する。ケークが厚くなるほど遅くなる | 『化学工学 解説と演習』9.2 |
| 清澄ろ過 | 砂ろ過器、カートリッジろ過器、プリコートろ過器 | ろ材の中や表面で捕まえる | 0.1 vol%以下 | 液を高い清澄度に仕上げる。濃い液では早く詰まる | 『化学工学 解説と演習』9.2、『化学工学便覧』15·3·2 |
方法を選ぶ手順
- 液を澄ませたいのか、固体を回収したいのか、濃縮したいのかを決める
- 粒子径と密度差から沈降速度を出す
- 重力で十分に沈むなら沈降槽、遅ければ凝集か遠心分離を考える
- ろ過なら、固体1 vol%以上はケークろ過、0.1 vol%以下は清澄ろ過で考える
- 実際のスラリーで、沈降試験・凝集試験・ろ過試験をして決める
ストークスの式が使える範囲
抵抗係数の近似と沈降速度の式は、『化学工学 解説と演習』式(9·3)のとおりRepの範囲で変わります。
| 範囲 | 粒子レイノルズ数 Rep | 抵抗係数 CD |
|---|---|---|
| ストークス域 | 2以下 | 24/Rep |
| アレン域 | 2〜500 | 10/√Rep |
| ニュートン域 | 500〜10⁵ | 0.44 |
アレンの式(2<Rep<500)
式は横にスクロールできます
アレン域では粒子の後ろで流れがはがれます。
ニュートンの式(500<Rep)
式は横にスクロールできます
ニュートン域では後ろが激しく渦巻き、抵抗係数がほぼ一定になります。記号はストークスの式と同じです。
境目の2は、どこまで誤差を許すかで決めた目安です。実測と比べると、Rep=2でストークスの式の抵抗は約2割小さく出ます(『入門 粒子・粉体工学』図4.3)。
区分の式は境目でつながりません。早見表と同じ密度2,000 kg/m³の粒子では、20℃の水で径154 μmのときRep=2です。この粒子はストークスの式で13 mm/s、アレンの式では18.5 mm/sと出ます。広い範囲で使える下の式で解くと、10.6 mm/sです。
広い範囲で使える抵抗係数(Rep<1000)
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CD:抵抗係数[−]
沈降速度とRepが互いに関わるので、この式はくり返し計算で解きます。球形粒子の終末沈降速度(別サイト)のツールは、Repで3つの式を切り替えます。境目に近い粒子径では、値の飛びに気をつけてください。
沈降槽の大きさは底面積で決まる
連続の沈降槽では、槽を流れ抜ける間に底まで沈んだ粒子が取れます。理想的な水平流の槽なら、取れる粒子の限界は流量÷底面積(見かけの上昇速度)で決まります。槽の深さには左右されません。
分離限界粒子径(水平流型沈降槽、Rep≦2)
式は横にスクロールできます
Q:流量[m³/s]、A:沈降槽の底面積[m²]、dpc:完全に取れる最小の粒子径[m]
例として、20℃の排水10 m³/hから密度2,500 kg/m³・径20 μm以上の粒子を取る槽を考えます。沈降速度は0.327 mm/sで、Repは0.007と範囲に収まります。要る底面積は、A=(10÷3,600)÷(0.327×10⁻³)≒8.5 m²です。実際の槽は、乱れや短絡流で理想どおりに分かれません。『化学工学便覧』は経験的な安全率の例として、見かけの上昇速度を沈降速度の0.65倍程度に抑えるとしています。面積は8.5 m²を0.65で割った約13 m²です。
30℃では水の粘度が0.80 mPa·sに下がり、同じ粒子が約25%速く沈みます(『化学工学 解説と演習』の値)。水温が最も低い時期の値で確かめておきます。底面積は、約45°に傾けた板を5 cmほどの間隔で重ねると稼げます(『化学工学便覧』)。沈みながら育つフロックやシックナーでは、回分沈降試験で面積を決めます。
遠心分離は遠心効果Zで比べる
遠心効果
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Z:遠心効果[−]、r:回転半径[m]、ω:角速度[rad/s]、N:回転数[1/s]
遠心沈降速度
式は横にスクロールできます
uc:遠心力の場での沈降速度[m/s]
遠心力の場では、粒子は重力のときのZ倍の速さで沈みます。『化学工学便覧』の例題(半径0.5 mの遠心脱水機・36.7 s⁻¹=約2,200 min⁻¹)では、ケークの平均半径でZが約2,380です。Z=2,380なら、早見表の1 μmの粒子でも約1.3 mm/sで沈む計算になります。
表の寸法と使い分けの出所は、同書15·2·2です。Zは表の径と回転数から上の式で出せます。
| 形式 | 回転体の径 | 回転数 | 扱える固体の濃度 | 固体の出し方 | 向く場面 |
|---|---|---|---|---|---|
| 円筒型(高速) | 0.04〜0.12 m | 最高250 s⁻¹(15,000 min⁻¹) | ごく希薄 | 分解して手で取り出す | 細かい粒子の清澄。液どうしの分離なら連続運転もできる |
| 分離板型 | 0.15〜0.5 m | 170〜75 s⁻¹ | 手で出す形は1 vol%以下、ノズル式や自動排出式は15〜20 vol%まで | 手、ノズル、自動排出 | 細かい粒子の清澄と濃縮 |
| デカンター型 | 0.15〜0.6 m | 100〜50 s⁻¹ | 40%以上も扱える | スクリューで連続して押し出す | 濃いスラリーの連続処理。最大70 m³/h程度まで |
| 遠心脱水機(回分式) | 0.25〜2.8 m | 50〜7 s⁻¹ | ― | 手か刃で掻き取る | ろ過しやすいスラリー(ケークの比抵抗がおおむね10¹⁰ m/kg以下)の脱水と洗浄。粒子は5〜10 μm以上(連続式は40〜100 μm以上) |
ろ過の基礎とルースの式
固体が1 vol%以上あると、ろ材の上にケークができます(『化学工学 解説と演習』9.2)。0.1 vol%以下の薄い液では、粒子がろ材の中で捕まります。
ルースの定圧ろ過式
式は横にスクロールできます
V:ろ液量[m³]、A:ろ過面積[m²]、Vm:ろ材の抵抗に当たる仮想のろ液量[m³]、K:ルースの定圧ろ過係数[m²/s]、θ:ろ過時間[s]、θm:Vmを得るのに要る仮想のろ過時間[s]、p:ろ過圧力[Pa]、m:ケークの湿乾質量比[−]、s:スラリー中の固体の質量分率[−]、μ:ろ液の粘度[Pa·s]、ρ:ろ液の密度[kg/m³]、α:ケークの平均ろ過比抵抗[m/kg]
定圧でろ過を続けると、ケークが厚くなるにつれて遅くなります。ろ材の抵抗を無視できれば、ろ液量は時間の平方根に比例します。2倍のろ液を得るには、4倍の時間がかかる計算です。Kとろ材の抵抗は、小型のろ過器での定圧ろ過試験(ルースプロット)から求めます。ろ過のしやすさはαの桁で見当がつきます(『化学工学便覧』15·3と『化学工学 解説と演習』9.2)。
| 平均ろ過比抵抗 α | ろ過のしやすさ |
|---|---|
| 10¹¹ m/kg程度まで | 容易 |
| 10¹²〜10¹³ m/kg | 中程度 |
| 10¹³ m/kg以上 | 難ろ過性 |
コゼニー・カーマン式によれば、空隙率が同じなら比抵抗は粒子径の2乗に反比例します。粒子径が半分なら4倍です。圧縮されやすいケークではαが圧力のn乗(n:圧縮性指数)で増えます。nが1に近いと、圧力を上げてもほとんど速くなりません。真空ろ過は連続運転に向く方式です。ただし差圧が大気圧より小さいので、ろ過しにくいスラリーには向きません。真空の作り方は真空状態の特徴と使いどころで紹介しています。
つまずきやすい点
濃いスラリーは単独の粒子より遅く沈む
粒子が多いと、周りの粒子や押しのけられた液の流れに邪魔されて遅くなります。これを干渉沈降と呼びます。
干渉沈降速度(空間率0.55〜1.0、単独粒子のRep<0.2)
式は横にスクロールできます
uh:干渉沈降速度[m/s]、ε:空間率(1−固体の体積分率)[−]
指数4.65は、単独粒子の終末沈降速度で求めたRepが0.2未満で、壁の影響を無視できる範囲の値です。Repが大きくなると指数は変わります。この範囲で単独の粒子と比べた速さは、固体5 vol%で約0.8倍です。10 vol%なら約0.6倍、20 vol%なら約0.35倍まで落ちます。ほかの式ではもっと遅く出るので、濃い液は沈降試験で確かめます(『入門 粒子・粉体工学』図4.7)。
細かい粒子と密度差の小さい粒子は凝集させる
細かい粒子や密度差の小さい粒子は、なかなか沈みません。帯電して反発し合う粒子も同じです。このときは薬品で粒子をまとめ、大きなフロックにします。使う薬品は、電荷を中和する金属塩(硫酸アルミニウムなど)と粒子をつなぐ高分子凝集剤です。
薬品は急速撹拌で行き渡らせ、緩速撹拌でフロックを育てます。種類と注入率を決めるのは、ビーカーを並べるジャーテストです。500 cm³の試料を120〜150 rpmで3分、40 rpmで10分かき混ぜます。10分置いてから上澄みの濁りを比べます(『解説 化学工学』)。
フロックは水を含むので、密度差は粒子そのものより小さくなります。仮に内部の90%が水でも、2 μmの粒子が100 μmのフロックに育てば沈降速度は約250倍です。ただしフロックは、ポンプや強い撹拌で壊れることがあります。
pHも効きます。ある二酸化チタンのスラリーの測定例では、ケークの比抵抗が最も小さいのは等電点のpH 8でした。酸性やアルカリ性に寄せると、数倍に増えています(『絵とき「濾過技術」基礎のきそ』)。排水の凝集沈殿の資料は、公害防止管理者(水質)の勉強サイト一覧にまとめています。
ろ材が目詰まりする
ろ布の平織は粒子をよく捕まえますが、目詰まりしやすい織り方です。朱子織は詰まりにくい代わりに、粒子が抜けやすくなります。細かい粒子で詰まるときは、ろ過助剤を使います。ろ材の上に1〜2 mmほどの層を先に作るのがプリコート、スラリーに混ぜるのがボディフィードです(『化学工学便覧』)。ボディフィードは多すぎると固体が増えて、かえって遅くなります。
参考資料
- 化学工学会編『改訂六版 化学工学便覧』丸善、1999年(15章 固液・固気分離 p.792〜815、16·2·2 湿式分級 p.855〜856)
- 化学工学会監修、多田豊編『化学工学(改訂第3版)―解説と演習―』朝倉書店、2008年(9.1 沈降分離 p.243〜250、9.2 濾過 p.250〜256)
- 椿淳一郎・鈴木道隆・神田良照『入門 粒子・粉体工学 改訂第2版』日刊工業新聞社、2016年(4.1 場の中での粒子の挙動 p.94〜107)
- 竹内雍・松岡正邦・越智健二・茅原一之『解説 化学工学 改訂版』培風館、2001年(6·8 固液分離 p.243〜246)
- 入谷英司『絵とき「濾過技術」基礎のきそ』日刊工業新聞社、2011年(4章 濾過性能に影響を及ぼす因子 p.106〜114)
