令和5年度 問29

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 高分子の固有粘度[η]は、希薄溶液の濃度依存性の測定値から、次式を用いて求めることができる。

$$ \left[\eta\right]=\lim_{c\rightarrow 0}\left(\eta/\eta_{s}-1\right)/c$$

ここで、c:濃度(g/cm3)、η:高分子溶液の粘度、ηs:溶媒の粘度

 古典的には図のような毛細管粘度計を用いて、異なる濃度cでの高分子溶液の表面が点L1からL2までに落ちる流下時間tfをそれぞれ測定することによって求めることができる。この際、tfは溶液粘度ηに比例することになる。ある高分子希薄溶液について、この粘度測定を行い、下のような結果が得られた場合、固有粘度として最も近い値はどれか。

  1. 100 cm3/g
  2. 200 cm3/g
  3. 230 cm3/g
  4. 270 cm3/g
  5. 1500 cm3/g



解答解説

正答は2番です。

高分子を溶媒に溶かすと、分子量の大きい高分子を用いるほど溶液の粘度が高くなります。一般にポリマーの分子量に依存するため、この特性を生かし、固有粘度(極限粘度)から分子量を計算できます。これをMark-Houwink-Sakuradaの式と呼びます。

Mark-Houwink-Sakuradaの式
$$ \left[ \eta \right] = KM^{\alpha}$$
[η]:固有粘度、M:分子量、K, α:高分子と溶媒で決まる定数

ポリマーの分子量を計算するために問題の方法(粘度法)を用いて固有粘度を調べます。測定結果を横軸にc、縦軸に(η/ηs−1)/c の形でプロットし、直線がc=0の時の(η/ηs−1)/c の値が固有粘度[η]です。

ポリマーが溶解されていないとき(c=0のとき)、高分子溶液の粘度ηは溶媒の粘度ηsと一致します。そのため2つの粘度の比率η/ηsは1となります。

問題文中に流下時間tfは溶液粘度ηに比例すると記載されています。また溶媒は1種類で一定なため、ポリマーが増加したことによるη/ηsの変化率はtfの変化率と一致します。これら内容を踏まえ、縦軸の値となる(η/ηs−1)/c を求めます。

濃度 c [g/cm3流下時間 tf[s]粘度の比率 η/ηs[-](η/ηs−1)/c[cm3/g]
0140.001ゼロ割りのため計算不可
1.00×10-3169.121.208208
2.00×10-3200.481.432216
3.00×10-3234.081.672224

横軸にc、縦軸に(η/ηs−1)/c でプロットしたグラフを以下に示します。

近似直線はy=8000x+200です。x=0、つまり濃度c=0のときの(η/ηs−1)/cが固有粘度[η]であるため、値は200となります。

参考資料

極限粘度 - 株式会社UBE科学分析センター
極限粘度

www.ube.co.jp

https://main.spsj.or.jp/c5/kobunshi/si/6303/Sato_1.pdf
高分子の分子量

main.spsj.or.jp

2024年3月11日