ナイロン66の融点(267℃)は、ポリエチレンの融点(136.5℃)に比べ高い。ナイロン66及びポリエチレンの融解エンタルピーは、それぞれ、188 Jg-1、276 Jg-1である。また、融点Tmでは融解エンタルピーΔHm及び融解エントロピーΔSmと以下の式で関係づけられる。
$$ T_{m} = \Delta H_{m} / \Delta S_{m}$$
以上のことを考慮して、ナイロン及びポリエチレンの融点に関する次の記述のうち、最も不適切なものはどれか。
- ナイロンの融点がポリエチレンの融点より高い理由は、ナイロンの結晶が水素結合によってポリエチレンよりも安定であるからである。
- 一般に融点はΔHmが大きいほど、ΔSmが小さいほど高くなる。ナイロン66の融点が、ポリエチレンの融点より高い理由も、この観点から説明できる。
- ナイロン66のΔSmがポリエチレンのΔSmより小さいため、ナイロン66の融点が、ポリエチレンの融点より高い。
- ナイロン66のΔSmが小さい理由は、溶融状態で水素結合が部分的に保存されていることや共鳴によるアミド結合の剛直性が原因である。
- ポリエチレンのΔHmはナイロン66のΔHmより大きく、結晶の安定性では、ナイロン66の融点が高いことを説明できない。
解答解説
正答は1番です。
物質の融解エンタルピーは潜熱とも呼ばれます。つまり固体から液体に状態変化させるのに必要なエネルギーです。また融点は固体から液体に状態変化するときの温度です。またエントロピーは熱力学において「複雑さ」の指標として扱われます。今回の問題では、結晶性高分子が結晶状態から融解状態に変化することで分子の自由度が増すことからエントロピーは増加します。
ΔHmは分子間の凝集エネルギーに関係し、ΔSmは分子鎖の剛直性と関係します。そして融点はΔHmが大きいほど、ΔSmが小さいほど高くなります。
4番に記載のようにナイロン66のΔSmはポリエチレンよりも小さくなります。また溶融状態でも水素結合が部分的に保存されていることから融解エンタルピーHmの変化量が通常の水素結合を持つ分子よりも小さくなります。
ナイロンの融点がポリエチレンの融点より高い理由は、1番に記載の「ナイロンの結晶が水素結合によってポリエチレンよりも安定である」も勿論ありますが、ΔHmに関する記述です。今回の場合、ΔSmが大きな寄与をしているため「融状態で水素結合が部分的に保存されていることや共鳴によるアミド結合の剛直性」が主たる理由となります。
参考資料
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融点とエンタルピー
analyzing-testing.netzsch.com
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物質が持つエネルギーの内訳(エントロピー)
repun-app.fish.hokudai.ac.jp
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化学繊維の融点 と分子構造の関連性
www.jstage.jst.go.jp