熱交換器の計算例題

化学工学/伝熱入門伝熱入門の4本目(全4本)公開

多管式熱交換器の伝熱面積は、総括伝熱係数Uの仮定と計算を繰り返して決めます。ここではトルエンを冷却水で冷やす例を、熱量から管の本数とパス数まで通して計算しました。流速とパス数・汚れ係数・胴の数・余裕の取り方など、迷いやすい判断も数値で比べています。

伝熱面積を決める手順(かっこ内は例題の値)

  1. 熱収支で交換熱量と冷却水量を出す(404 kW、58.0 t/h)
  2. 向流の対数平均温度差(LMTD)に補正係数Fを掛ける。Fは0.85以上を目安にする(20.5 K×0.88=18.0 K)
  3. 表の概略値でUを仮定し、伝熱面積を出す(500 W/(m²·K)で44.9 m²)
  4. 管の寸法から本数を出し、管内流速が1〜2 m/sに入るパス数を選ぶ(116本・4パス・1.56 m/s)
  5. 胴(シェル)の内径と邪魔板(バッフル)の間隔を決め、胴側の流速が0.5〜1.0 m/sに入るか確かめる(0.50 m/s)
  6. 境膜係数(境膜伝熱係数)と汚れ係数、管壁の熱抵抗を足してUを計算する(595 W/(m²·K))
  7. 余裕率が1.05〜1.1に入るまで、Uの仮定を変えて3から繰り返す(1回目1.23、2回目は100本で1.08)
  8. 管側と胴側の圧力損失が許容値に入るか確かめる(57 kPa・23 kPa、許容値は例として70 kPa)
この記事の内容
  1. 例題の条件
  2. 熱量と対数平均温度差
  3. 境膜係数から総括伝熱係数を計算する
  4. 余裕率で管の本数を決める
  5. パス数と圧力損失
  6. 汚れ係数で伝熱面積は3割以上変わる
  7. 胴を2パスや直列にして補正係数Fを上げる
  8. 境膜係数の式が使える範囲
  9. 設計の余裕の取り方
  10. 参考資料

例題の条件

例として、80 ℃のトルエン20 t/hを冷却塔の水(32 ℃→38 ℃)で40 ℃まで冷やします。汚れやすい冷却水を管側に流します。2流体の温度差が小さく胴側も汚れにくいので、形式は固定管板式です。

項目 胴側:トルエン(物性は60 ℃) 管側:冷却水(物性は35 ℃)
流量 20 t/h 熱収支で決める
入口→出口 80 ℃→40 ℃ 32 ℃→38 ℃
密度 829 kg/m³ 994 kg/m³
比熱 1.818 kJ/(kg·K) 4.178 kJ/(kg·K)
粘度 0.380 mPa·s 0.719 mPa·s
熱伝導率 0.121 W/(m·K) 0.622 W/(m·K)
汚れ係数 0.0002 m²·K/W 0.00018 m²·K/W

伝熱管は炭素鋼で、外径25.4 mm・肉厚2.0 mm・長さ5 mです。胴側は機械で掃除しない前提で、ピッチ31.75 mm(外径の1.25倍)の三角配列にしました。邪魔板は25 %切欠きです。管の寸法や流速・F・余裕率の目安は、化学工学会編『実用 化学装置設計ガイド』(以下、設計ガイド)によります。

物性はNIST Chemistry WebBook(トルエン)とIAPWSの式(水)から求めました。汚れ係数は『化学工学 解説と演習』と、化学工学便覧のTEMA(米国の多管式熱交換器工業会)の値です。

熱量と対数平均温度差

  1. 交換熱量:Q=(20,000÷3,600)×1.818×(80−40)=404 kW
  2. 冷却水量:404÷(4.178×6)=16.1 kg/s(58.0 t/h)
  3. 向流のLMTD:両端の温度差42 Kと8 Kから、(42−8)÷ln(42÷8)=20.5 K
  4. 補正係数F:R=40÷6=6.67、P=6÷48=0.125から、胴1パス・管2パス以上(1シェル2パス)でF=0.88

並流では、出口側の温度差が2 Kしか残りません。要る面積は向流の1.42倍になります。胴1パス・管2パスでは、管の往路と復路の一方が並流です。このため向流のLMTDにFを掛けて使います。表の比は、Uを同じとした値です。LMTDとFの意味は伝熱計算の基礎知識にあります。計算はLMTD・伝熱面積のツール(別サイト)でも確かめられます。

流れの形 平均温度差 要る伝熱面積(向流=1)
向流 20.5 K 1.00
並流 14.5 K 1.42
胴1パス・管2パス以上(F=0.88) 18.0 K 1.14
胴2パス・管4パス以上(F=0.98) 20.0 K 1.03

境膜係数から総括伝熱係数を計算する

管内は水の乱流なので、Dittus–Boelterの式を使います。胴側は25 %切欠きの邪魔板に合うKernの式です。Uは管の外面を基準に、汚れ係数と管壁の熱抵抗を足します。

管内の境膜係数(Dittus–Boelterの式)

$$\frac{h_{i}d_{i}}{\lambda}=0.023\,Re^{0.8}\,Pr^{0.4}$$

式は横にスクロールできます

hi:管内の境膜係数[W/(m²·K)]、di:管の内径[m]
Re:レイノルズ数(diuρ/μ)[-]、Pr:プラントル数(cpμ/λ。指数0.4は流体が温められる場合)[-]
λ:流体の熱伝導率[W/(m·K)]、cp:比熱[J/(kg·K)]、μ:粘度[Pa·s]
ρ:密度[kg/m³]、u:管内流速[m/s]

胴側の境膜係数(Kernの式)

$$\frac{h_{o}D_{e}}{\lambda}=0.36\,Re_{s}^{0.55}\,Pr^{1/3}(\mu/\mu_{w})^{0.14}$$

式は横にスクロールできます

Res:胴側のレイノルズ数(DeGs/μ)[-]、μw:管壁の温度での粘度[Pa·s]
ho:胴側の境膜係数[W/(m²·K)]、De:相当直径(三角配列で4(√3Pt²/4−πdo²/8)÷(πdo/2))[m]
Gs:胴側の質量速度(流量÷DsB(Pt−do)/Pt)[kg/(m²·s)]
Ds:胴の内径[m]、B:邪魔板の間隔[m]、Pt:管のピッチ[m]、do:管の外径[m]

総括伝熱係数(管の外面基準)

$$\frac{1}{U}=\frac{1}{h_{o}}+r_{o}+\frac{l_{w}d_{o}}{\lambda_{w}d_{m}}+\left(r_{i}+\frac{1}{h_{i}}\right)\frac{d_{o}}{d_{i}}$$

式は横にスクロールできます

U:総括伝熱係数[W/(m²·K)]、ro・ri:胴側・管内の汚れ係数[m²·K/W]
λw:管の熱伝導率[W/(m·K)]、lw:管の肉厚[m]
dm:対数平均径((do−di)÷ln(do/di))[m]

2回目の形で熱抵抗を分けると、Uの6割は胴側の境膜で決まります。管内流速を上げてhiを2倍にしても、Uは5 %しか上がりません。邪魔板の間隔を0.15 mから0.12 mに詰めると、Uは8 %上がります。そのかわり胴側の圧力損失は約1.9倍です。総括伝熱係数のツール(別サイト)は内外の面積の差を無視する平板の近似で、この例では4 %大きい629です。

熱抵抗(2回目の形) 値[m²·K/W] 割合
胴側の境膜(ho=961 W/(m²·K)) 0.00104 63 %
胴側の汚れ 0.00020 12 %
管壁(炭素鋼、λw=53.5 W/(m·K)) 0.00004 2 %
管内の汚れ(do/diを掛けた値) 0.00021 13 %
管内の境膜(hi=7,590 W/(m²·K)、同) 0.00016 10 %
合計(U=606 W/(m²·K)) 0.00165 100 %

余裕率で管の本数を決める

最初のUは表の概略値から置きます。有機溶剤を水で冷やす多管式の値は、化学工学便覧 表6·14で280〜850 W/(m²·K)です。設計ガイドの表では、粘度0.5 cP以下の有機物で約410〜870とされています。例として500と置いた1回目は、余裕率が1.23でした。余裕率は、計算したUで要る面積に対する実際の面積の比です。目安の1.05〜1.1を超えたので、Uの仮定を595÷1.06≒560に上げて本数を減らします。

項目 1回目 2回目
仮定したU 500 W/(m²·K) 560 W/(m²·K)
要る伝熱面積 44.9 m² 40.1 m²
管の本数(4パス) 116本(1パス29本) 100本(1パス25本)
管内流速 1.56 m/s 1.80 m/s
胴の内径・邪魔板の間隔 0.48 m(仮)・0.14 m 0.44 m・0.15 m
胴側の流速 0.50 m/s 0.51 m/s
管内の境膜係数 6,740 W/(m²·K) 7,590 W/(m²·K)
胴側の境膜係数 952 W/(m²·K) 961 W/(m²·K)
計算したU 595 W/(m²·K) 606 W/(m²·K)
余裕率(Kernの式) 1.23 1.08

Kernの式では、2回目の100本・4パスで余裕率は1.08です。面積は管の全長で出しており、管板の厚さを合計60 mmと仮定して除くと1.06になります。

胴の内径は、固定管板式として管の配置を作図して決めます。0.44 mの胴には、4パスで108〜120本が入ります(管束と胴のすき間13〜20 mm)。すき間を50 mmとる形式なら、0.46 m以上が要ります。邪魔板の間隔は、胴側の流速が液の目安0.5〜1.0 m/sに入るよう選びました。

パス数と圧力損失

パス数 管内流速 管内の境膜係数 U 管側の圧力損失
2 0.90 m/s 4,360 W/(m²·K) 566 W/(m²·K) 8 kPa
4(採用) 1.80 m/s 7,590 W/(m²·K) 606 W/(m²·K) 57 kPa
6(102本) 2.65 m/s 10,300 W/(m²·K) 621 W/(m²·K) 177 kPa

管100本、胴側は2回目のままで比べました。管内流速の目安は、水と粘度の低い流体で1〜2 m/sです。2パスでは0.90 m/sで下回り、6パスでは2.65 m/sで上回ります。2パスを4パスにすると、Uは7 %上がります。管側の圧力損失は約7倍です。

管側の圧力損失は、直管部(ファニングの式)と折り返しの和です。折り返しは1パスあたり速度ヘッドの4倍で、ノズルの損失は含みません。表は平滑管の値です。内面が市販の鋼管並みの粗さ0.05 mmなら、67 kPaに増えます。胴側の圧力損失は、Kernの式で23 kPaです。

許容値は、例として管側・胴側とも70 kPaと置きました。設計ガイドのUの概略値の表も、許容圧力損失0.35〜0.7 kgf/cm²(約34〜69 kPa)を前提にした値です。超えるときは、邪魔板の間隔を広げるか管を短くして調整します。

汚れ係数で伝熱面積は3割以上変わる

境膜係数と形は2回目のまま、汚れ係数だけを変えて比べます。冷却水の値は化学工学便覧 表6·19の、加熱側115 ℃以下・冷却水50 ℃以下の欄です。

汚れ係数の置き方 管側・胴側[m²·K/W] U[W/(m²·K)] 要る伝熱面積 汚れなしとの比
汚れなし 0・0 808 27.8 m² 1.00
例題(補給水を処理した冷却塔の水・有機液体) 0.00018・0.0002 606 37.1 m² 1.33
河川水の平均値(流速0.9 m/s超) 0.00035・0.0002 540 41.6 m² 1.50
補給水を処理しない冷却塔の水 0.00053・0.0002 484 46.4 m² 1.67

汚れ係数を入れるだけで、要る面積は汚れなしの1.33倍になりました。補給水を処理しない冷却塔の水なら1.67倍です。汚れ係数は熱交換器の大きさや価格、清掃の間隔に効くため、慎重に決める値です。表6·19は流速0.9 m/sで欄が分かれ、河川水では遅い側が0.00053と大きくなります。汚れが見込まれるなら、伝熱面を定期的に洗える構造にします。

胴を2パスや直列にして補正係数Fを上げる

冷却水を減らそうと出口温度を上げると、トルエンの出口40 ℃を超えます。並流ではこのとき、出口側の端の温度差が0以下になり成り立ちません。LMTDのツールの説明でいう「温度交差」です。向流なら、両端の温度差は正のままです。胴1パス・管2パスでは、並流になるパスがあるのでFが急に下がります。

冷却水の出口 トルエンの出口との差 F(胴1パス・管2パス) F(胴2パス、胴2つの直列)
38 ℃(例題) −2 K 0.88 0.98
40 ℃ 0 K 0.82 0.96
42 ℃ +2 K 0.74 0.95
44 ℃ +4 K 0.62 0.94

出口42 ℃では、Fが化学工学便覧の下限0.75を割ります。設計ガイドが挙げる対策は、次の3つです。

  • 管側を1パスにして完全な向流にする
  • 胴側を長手の仕切りで2パスにする
  • 2台以上に分ける

胴2パスなら、出口がトルエンより4 K高くてもFは0.94です。胴を2つ直列にしても、Fは胴2パスと同じです。

境膜係数の式が使える範囲

流れ 式 使える範囲・精度 この例
管内の乱流 Dittus–Boelterの式 Re 1万〜12万、Pr 0.7〜120、管長/内径60以上 Re 5.3万、Pr 4.8、管長/内径234
管内の乱流(粘度の変化が大きい) Nu=0.027Re0.8Pr1/3(μ/μw)0.14 石油留分の液で得た式。精度±40 % 使わない
管内の遷移域 便覧の図6·19から読む。Gnielinskiの式も使える Re 2,100〜1万(Gnielinskiの式はRe 3,000〜500万) 流速0.34 m/s未満で入る
管内の層流 Nu=2.02Gz1/3(μ/μw)0.14(Gz=Wcp/(λL)、Wは管1本の質量流量) Re 2,100未満、Gz 10超。精度±60 % 使わない
胴側(25 %切欠きの邪魔板) Kernの式 Re 2,000〜100万 Re 2.0万
胴側(近似) 理想的な管群の式に0.6を掛ける 管群の式はRe 2,000〜3.2万 Re 2.8万

使える範囲は資料によって違います。熱伝達係数のツール(別サイト)の説明は、Dittus–Boelterの式をPr 0.6〜160・管長/内径10以上としています。層流の式もGzを書き直すと、ツールと同じ1.86(RePrd/L)1/3(μ/μw)0.14です。

冷却水はRe 5.3万で、どちらの範囲にも入ります。流速が0.34 m/sを下回るとReが1万を切り、乱流の式は使えません。

胴側は、管群に平行な流れや短絡する流れがあって複雑です。Kernの式は、設計ガイドで厳密な計算式より安全側とされる式です。便覧の近似も、胴の中心の流速で計算すれば安全側の見積もりになるとされます。この近似ではhoが787で、Kernの式の961より2割小さく出ます。100本の余裕率は0.94です。1以上にするには108本が要り、そのときKernの式では1.16になります。

設計の余裕の取り方

物性値と熱伝達係数は、実験式で求めます。設計ガイドは、式のマイナス側の誤差を補うため計算値の5〜10 %増を見込むのが一般的としています。Kernの式で計算した例題の余裕率1.08は、この範囲です。

この余裕は汚れ係数とは別です。汚れの無い新品のうちはUが808で、設計より3割大きく能力が余ります。余裕を重ねて本数を増やすと、1パスあたりの本数が増えて管内流速も下がります。

一方で、胴側の式の差は14 %と、余裕の5〜10 %より大きい値です。例題の100本は、手計算で出した仮の値です。発注の前に、設計プログラムかメーカーの熱計算で胴側を確かめます。

参考資料

  1. 化学工学会 編『改訂六版 化学工学便覧』丸善(1999)6·2·3 管内流れにおける熱伝達 pp.356〜358、6·2·4 流れ場に置かれた物体周りの熱伝達 p.360、6·6 熱交換器 pp.387〜394
  2. 化学工学会 編『実用 化学装置設計ガイド』工業調査会(1991)2.2 ② 多管式熱交換器(深井邦夫)pp.91〜114
  3. 片岡邦夫『輸送プロセス化学工学』(2021、神戸大学学術成果リポジトリで公開)第9章 伝熱装置 pp.103〜108 https://doi.org/10.24546/90008775(別サイト)
  4. 竹内雍・松岡正邦・越智健二・茅原一之『解説 化学工学 改訂版』培風館(2001)p.88
  5. 化学工学会 監修、多田豊 編『化学工学 ―解説と演習― 改訂第3版』朝倉書店(2008)2.2 円管内の流れ pp.44〜45、3.5 熱交換器 pp.91〜98
  6. 小山敏行『例題で学ぶ伝熱工学』森北出版(2012)5.4 管内流の乱流強制対流熱伝達 p.82
  7. NIST Chemistry WebBook, SRD 69「Thermophysical Properties of Fluid Systems」(toluene) https://webbook.nist.gov/chemistry/fluid/(別サイト)
  8. IAPWS R7-97(2012)(水と水蒸気の熱力学性質)、R12-08(粘度)、R15-11(熱伝導率) https://www.iapws.org/(別サイト)

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