最小液ガス比の求め方

化学工学/吸収・放散吸収・放散の1本目(全1本)公開

吸収塔に流す液の量は、最小液ガス比の何倍かで決めます。最小液ガス比の出し方を、アセトンを水で回収する例で示します。倍率と塔の高さ・水温の影響・化学吸収との違いもまとめました。

最小液ガス比から吸収液の量を決める手順

  1. 処理するガスの量・溶質の濃度・回収率から、出口のガスの濃度を決める。濃度はモル分率で表す。
  2. 運転する温度と圧力で気液平衡を調べる。溶質が薄ければ、ヘンリーの法則の直線 y=mx で表せる。
  3. 入口のガスの組成 y1 と平衡になる液の組成 x1*(=y1/m)を出す。
  4. 組成をモル比に直して、下の式で最小液ガス比を出す。溶質が薄く新しい溶媒を使うなら、およそ m×回収率 になる。
  5. 液ガス比を最小液ガス比の1.2〜2.0倍に決める(化学工学便覧の目安)。
  6. 溶媒の量と、塔底から出る液の濃度を塔全体の物質収支で出す。
  7. 移動単位数と移動単位高さから充填高さを出し、液の量と塔の高さの釣り合いを確かめる。

手順4〜6はガス吸収の最小溶媒流量・液ガス比のツール(別サイト)で計算できます。m³N/hをkmol/hに直すなら、標準状態換算のツール(別サイト)が使えます。

この記事の内容
  1. 主なガスのmと最小の水量
  2. 最小液ガス比の式と操作線
  3. ヘンリー定数の単位と換算
  4. 例題:アセトンを水で回収する吸収塔
  5. 最小液ガス比の何倍にするか
  6. 水温と圧力で動く平衡線
  7. 吸収装置の種類と使い分け
  8. 物理吸収と化学吸収・放散
  9. 参考資料

主なガスのmと最小の水量

最小の水量は、ガスの溶けやすさを表す m と回収率で決まります。液ガス比1 mol/molは、水ならガス1 m³Nあたり約0.80 Lです。

ガス m(水・25 ℃・101.3 kPa) 90%回収の最小液ガス比[mol/mol] 最小の水量[L/m³N]
アンモニア 0.91〜0.94 約0.8 約0.7
アセトン 1.9〜2.1 1.7〜1.9 1.4〜1.5
トルエン 290〜360 260〜330 210〜270
二酸化炭素 1,600〜1,660 約1,500 約1,200
空気(参考) 約72,000 − −

m:Sander(2023)の評価値、便覧 p.597 の式、解説と演習 表5·1から換算/入口1 mol%・新しい水、ガスは0 ℃・101.325 kPa の体積

m が1を切るアンモニアは、ガスより少ないモル数の水でも9割を回収できます。アセトンの下限は、ガス1 m³Nあたり水1.5 L前後です。トルエンや二酸化炭素は、大気圧の水では液量が桁違いに増えます。こうしたガスには、溶けやすい吸収液・化学吸収・吸収以外の方法が候補です。空気の m は約72,000で、同伴ガスはほぼ液に溶けないとみなせます。

最小液ガス比の式と操作線

向流の吸収塔は、ガスを塔底から入れて液を塔頂から入れます。物質収支は、溶けない同伴ガス(空気など)と溶質を含まない溶媒の流量で取ります。この2つは塔の中で量が変わらないためです。液ガス比は液とガスのモル流量の比で、ここでは L'/G' で表します。濃度はモル比に直して使います。

溶質のモル比[mol/mol]

$$Y=\frac{y}{1-y} \qquad X=\frac{x}{1-x}$$

式は横にスクロールできます

y・x:ガス・液の溶質のモル分率[−]、Y・X:同伴ガス・溶媒1 molあたりの溶質の量[mol/mol]

操作線(塔頂から塔の途中までの物質収支)[mol/mol]

$$Y=Y_{T}+\frac{L'}{G'}\left(X-X_{T}\right)$$

式は横にスクロールできます

G':同伴ガスのモル流量[kmol/h]、L':溶媒のモル流量[kmol/h]、添字T:塔頂(ガスの出口・液の入口)

X-Y線図の上で、操作線は点(XT, YT)を通る傾きL'/G'の直線です。液を減らすと傾きが小さくなり、塔底の端が平衡線に近づきます。塔底を出る液が入口のガスと平衡になったときの比が、最小液ガス比です。このとき塔底の推進力(操作線と平衡線の隔たり)はゼロです。目標の回収率に届くには、無限に高い充填層が要ります。

最小液ガス比[−]

$$\left(\frac{L'}{G'}\right)_{min}=\frac{Y_{1}-Y_{T}}{X_{1}^{*}-X_{T}}$$

式は横にスクロールできます

添字1:塔底(ガスの入口・液の出口)、X1*:入口のガスと平衡になる液のモル比[−]

溶質が薄く新しい溶媒を使う(XT=0)なら、最小液ガス比はおよそ m×回収率 です。90%を回収するなら、m の0.9倍が下限になります。例外は、吸収の熱で平衡線が上に曲がる系です。この系では、塔の途中で操作線が平衡線に接することがあります。そのときの液ガス比が最小液ガス比です。

ヘンリー定数の単位と換算

ヘンリーの法則

$$p=HC \qquad p=Kx \qquad y=mx$$

式は横にスクロールできます

p:ガス中の溶質の分圧[Pa]、C:液中の溶質の濃度[mol/m³]、x・y:液・ガスの溶質のモル分率[−]

定数 単位 式 ほかの定数との関係
H Pa·m³/mol p=HC H=K/ρM
K Pa p=Kx もとになる値
m −(無次元) y=mx m=K/P=ρMH/P

ρM:液のモル密度[mol/m³](25 ℃の水で約55,300)、P:全圧[Pa]/出典:化学工学-解説と演習- 式5·1〜5·5(pp.137〜138)

3つとも、値が大きいほど溶けにくいガスです。吸収塔の計算には、無次元の m が使いやすい形です。m=K/P の P は全圧で、絶対圧の値を入れます。

物性の資料には、逆向きの定数も載っています。溶解度を分圧で割った形で、値が大きいほど溶けやすい向きです。IUPACが勧める形は8つあり、Sanderの集録は mol/(m³·Pa) の単位です。換算の前に、単位と向きを確かめます。ヘンリーの法則が成り立つのは、ガスの分圧が低いときや溶けにくいガスのときです。液の温度が高いときも同じです。

例題:アセトンを水で回収する吸収塔

例として、アセトンを1.0 mol%含む排ガス1,000 m³N/hを考えます。回収率は95%で、吸収液は25 ℃の新しい水です。平衡は、化学工学便覧 p.597 の式から25 ℃で y=2.1x です。塔の中の温度は一定と置きます。

  1. ガスは1,000÷22.414=44.62 kmol/h。アセトンが0.4462 kmol/hで、同伴ガス G'=44.17 kmol/h。
  2. Y1=0.01÷0.99=0.010101。出口に残るアセトンは5%の0.02231 kmol/hで、YT=0.02231÷44.17=0.000505。
  3. x1*=0.010÷2.1=0.004762 なので、X1*=0.004785。
  4. (L'/G')min=(0.010101−0.000505)÷0.004785=2.005。最小の水は2.005×44.17=88.6 kmol/h(1.60 t/h)。

ガス側の総括移動単位数(平衡線と操作線が直線のとき)[−]

$$N_{OG}=\frac{1}{1-1/A}\ln\left[\left(1-\frac{1}{A}\right)\frac{y_{1}-mx_{T}}{y_{T}-mx_{T}}+\frac{1}{A}\right]$$

式は横にスクロールできます

A=L/(mG):吸収因子[−](溶質が薄いので L/G は L'/G' とみなす)、y1・yT:入口・出口のガスのモル分率[−]、xT:塔頂に入る液のモル分率[−]

充填高さ[m]

$$Z=H_{OG}N_{OG}$$

式は横にスクロールできます

HOG:ガス側の総括移動単位高さ[m]

HOG は、充填物の種類と大きさやガスと液の流量で変わる値です。ここでは例として0.5 mと置きました。化学工学便覧の同じ系の例題(pp.597〜598)では、逆算した HOG が約0.8 mです。表の高さは、倍率どうしを比べるための目安です。

倍率(最小液ガス比に対して) L'/G'[mol/mol] 水[t/h] 出口液のアセトン[wt%] 吸収因子 A NOG 充填高さ[m]
1.1 2.21 1.76 1.38 1.05 13.4 6.7※
1.2 2.41 1.91 1.27 1.15 9.6 4.8
1.5 3.01 2.39 1.02 1.43 6.3 3.1
2.0 4.01 3.19 0.77 1.91 4.8 2.4
3.0 6.02 4.79 0.51 2.87 4.0 2.0

NOG:化学工学便覧 p.597 式11·68 で計算/充填高さ:HOG(例として0.5 m)×NOG

※1.1倍の高さは温度一定での値で、吸収熱を入れると95%に届きません。

1.5倍から1.1倍に絞ると、水は0.64 t/h減ります。その代わり、塔は3.1 mから6.7 mと2倍を超えます。2.0倍から3.0倍に増やしても、塔は0.4 mしか低くなりません。1.1倍と1.2倍の差は水0.16 t/hで、高さは1.9 m違います。

吸収因子 A は、操作線と平衡線の傾きの比です。クレムザーの式(化学工学便覧 p.598)を使うと、A と段数から回収率が出ます。新しい溶媒の塔で A が1より小さいと、段数を無限にしても回収率は A 止まりです。A が目標の回収率を下回る液量では、塔をいくら高くしても届きません。化学工学-解説と演習-(p.156)は、計算した高さに10〜20%程度の安全代を勧めています。

表は、塔の中の温度を一定と置いた値です。便覧の式と Sander の値から換算すると、アセトンが溶けるときの熱は39〜46 kJ/molです。熱が外に逃げず、入口ガスが水蒸気で飽和しているとします。すると1.1倍では、塔底の水温が2.3〜2.6 ℃上がります。塔底で平衡になるガスの濃度が入口の1.0%を超え、95%の回収に届きません。1.2倍でも、NOG は9.6から12.5〜15に増えます。1.5倍なら6.3が6.7〜6.9になり、増え方は安全代の範囲です。入口ガスが乾いていれば、水の蒸発で液は逆に冷える方向に動きます。

最小液ガス比の何倍にするか

3つの資料とも、上限は2倍で下限は1.2〜1.25倍です。

資料 実際の液量 書かれている考え方
化学工学便覧 改訂六版 p.596 最小液ガス比の1.2〜2.0倍 吸収と放散を含むコストが最小になるように決める
竹内ほか『解説化学工学』p.150 最小液流量の1.25〜2.0倍 実用される液流量の値
片岡『輸送プロセス化学工学』p.126 最小値より25〜100%大きい 最小では塔底の推進力が小さく、無限に高い充填層が要る

液を増やすと塔は低くなる反面、出口の液は薄くなります。吸収液を放散塔で再生する系では、再生の熱と液を回す動力が運転費に入ります。液を増やすほど、この2つが増える方向です。例題の水を蒸留してアセトンを取り出すなら、蒸留する液も倍率に比例して増えます。

水温と圧力で動く平衡線

水温が上がると m が大きくなり、同じ塔でも回収率が下がります。

水の温度 アセトンの m(101.3 kPa) 最小液ガス比(95%回収) 例題の塔(1.5倍・3.1 m)の回収率
20 ℃ 1.4〜1.6 1.3〜1.5 97〜98%
25 ℃ 1.9〜2.1 1.8〜2.0 95〜96%
30 ℃ 2.5〜2.7 2.4〜2.6 89〜92%
40 ℃ 4.4〜4.9 4.2〜4.7 6割台(61〜67%)

m:化学工学便覧 p.597 の式は30 ℃の例題に添えた式で、使える温度の範囲が書かれていません。このため Sander(2023)収録の2つの評価値と並べました。回収率:塔は便覧の式の m で25 ℃・95%に合わせ、L'/G'=3.0・NOG=6.3・HOG 一定として3つの m で計算

水の温度が20 ℃から40 ℃に上がると、アセトンの m は約3倍になります。最小液ガス比も同じ割合で増えます。25 ℃で決めた液ガス比3.0は、40 ℃の最小液ガス比4.2〜4.7より小さい値です。回収率は6割台まで落ちます。30 ℃でも約9割で、取り逃がすアセトンは25 ℃の約2倍です。

圧力を上げると、m は小さくなります。溶け込む量は全圧ではなく、そのガスの分圧で決まるからです。m=K/P なので、全圧を2倍にすると m は半分です。化学工学便覧(p.625)も、物理吸収には比較的高い圧力と低い温度が適するとしています。

吸収装置の種類と使い分け

段塔と充填塔は、蒸留塔と同じ形式の装置です。蒸留塔のまわりの機器は蒸留設備の構成要素にまとめています。スプレー塔のほか、サイクロンスクラバーやベンチュリースクラバーも液滴で接する装置です。

装置 気液の接し方 向いている場面 注意点
充填塔 充填物の表面を液が膜になって流れる 腐食性の強い液・泡立ちやすい液、圧力損失を小さくしたいとき。小さい装置では段塔より建設費が安いとされる 液が少ないと充填物が濡れない。液は壁に寄るので3〜5 mごとに再分散器を置く
段塔(棚段塔) 段の上の液にガスを泡にして通す 大きな装置。液量が多すぎる・少なすぎるとき 塔径0.6 m以下ではあまり使わない。圧力損失は充填塔より大きい
スプレー塔 ガスの中に液滴を噴く 粉じんも一緒に除くとき、液に固体ができるとき 通常は2理論段に届かない。噴霧の動力が要り、液滴がガスに連れ出される
ぬれ壁塔 管の内壁を液が膜になって流れる 塩酸の製造のように発熱が大きい吸収。管の外から冷やせる 容積あたりの気液の接触面積が小さい
気泡塔 液の中にガスを吹き込む 少量のガスの吸収、液側の抵抗が支配的な系 充填物や撹拌で接触をよくすることもある

出典:化学工学-解説と演習- pp.139〜141、化学工学便覧 改訂六版 表11·3(p.595)

物理吸収と化学吸収・放散

実際のガス吸収には、反応を伴う例が多くあります。

比べる点 物理吸収 化学吸収(反応吸収)
溶け方 ガスが液に溶けるだけ。ヘンリーの法則の範囲では分圧と溶解量が比例する 溶けたガスが液中の成分と反応する。反応成分が残る間は平衡分圧がほとんど上がらず、ある量を超えると急に上がる
向く条件 比較的高い圧力と低い温度 分圧の低いガスを選んで取る。選択分離性は一般に化学吸収が優れる
吸収の速さ 物質移動係数と推進力で決まる 反応で物理吸収より速い。反応成分が濃いほど速い
液の再生 加熱や減圧で放散させる 反応熱が大きいほど再生のエネルギーが要る。腐食も問題になりやすい
例 水によるアセトン・アンモニアの吸収 二酸化炭素を水酸化ナトリウムやエタノールアミンの液で、塩化水素を水酸化ナトリウムの液で吸収する

出典:化学工学便覧 p.588・pp.625〜626、化学工学-解説と演習- pp.143〜145(表5·4)

反応吸収では、吸収できるガスの量は液で送り込む反応成分の量でほぼ決まります。平衡線の直線から液量を決める方法は、そのままでは使えません。

放散(ストリッピング)は吸収の逆で、溶けた成分をそれを含まないガスへ追い出す操作です。X-Y線図では、操作線が平衡線の下に来ます。吸収塔と放散塔の間で液を回す組み合わせが一般的です。放散塔では加熱や減圧で溶けたガスを追い出し、液を再生します。石灰セッコウ法の排煙脱硫のように、吸収したガスを生成物として取り出す例もあります。公害防止管理者(大気)の受験向けには、大気1種の勉強サイト一覧が入口です。

参考資料

  1. 化学工学会 編『改訂六版 化学工学便覧』丸善(1999)11章 ガス吸収・気液反応
  2. 化学工学会 監修、多田豊 編『化学工学(改訂第3版)-解説と演習-』朝倉書店(2008)5章 ガス吸収・膜分離
  3. 竹内雍・松岡正邦・越智健二・茅原一之『解説化学工学(改訂版)』培風館(2001)
  4. 片岡邦夫『輸送プロセス化学工学』神戸大学学術成果リポジトリ https://doi.org/10.24546/90008775(別サイト)
  5. R. Sander: Compilation of Henry's law constants (version 5.0.0) for water as solvent, Atmospheric Chemistry and Physics, 23, 10901–12440(2023)https://doi.org/10.5194/acp-23-10901-2023(別サイト)

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