晶析は主に溶液を冷やすか溶媒を蒸発させて、溶けた成分を結晶として取り出す操作です。取れる結晶の量は溶解度と物質収支で決まり、水和物なら結晶水まで数えます。後半は方法と装置の選び方、結晶が細かくなる原因と壁への付着も扱います。
晶析で取れる結晶の量の求め方
- 原液の溶媒の量Wと溶質の量を出す。溶質は無水物の量で数え、溶解度と同じ単位(溶媒100 kgあたりのkg)にそろえる
- 晶析を終える温度での溶解度S₂を、溶解度の表か曲線から読む
- 析出する結晶が無水物か水和物かを確かめる。水和物なら、水和物と無水物のモル質量の比Rを出す
- 下の式で結晶の量Cを出す。無水物ならR=1、冷やすだけならE=0とする
- 終点に残る過飽和と、結晶に付いて残る母液の分を見込む
晶析で析出する結晶の量
式は横にスクロールできます
C:析出する結晶の量(水和物なら結晶水を含む)[kg]、R:水和物と無水物のモル質量の比[-]、W:原液の溶媒の量[kg]、S₁:原液の濃度(溶媒100 kgあたりの溶質。無水物で数える)[kg/100 kg]、S₂:晶析を終える温度での溶解度(S₁と同じ単位)[kg/100 kg]、E:蒸発させた溶媒の量[kg]
原液の溶質を結晶と母液に分ける物質収支から出た式です。水和物は結晶水の分だけ母液の溶媒が減り、そのぶん溶質も多く析出します。無水物を冷やすだけなら、式はC=W(S₁−S₂)/100になります。
冷却晶析と蒸発晶析の使い分け
溶解度より濃い過飽和のつくり方で方法が分かれ、向く系と弱みが違います。
| 方法 | 過飽和のつくり方 | 向く系 | 弱み |
|---|---|---|---|
| 冷却晶析 | 溶液を冷やす | 温度で溶解度が大きく変わる系(硝酸カリウムなど) | 冷却面に結晶が付きやすい。低温で溶解度が小さいと過飽和の比が大きくなり、核が出すぎやすい |
| 蒸発晶析 | 溶媒を蒸発させて濃くする | 温度で溶解度があまり変わらない系(塩化ナトリウムなど)。薄い溶液 | 蒸発面の壁に結晶が付く。液が長く留まり不純物がたまる |
| 真空冷却晶析 | 減圧で溶媒を蒸発させ、その潜熱で液を冷やす。圧力で温度を決める | 冷却と蒸発の中間の系(塩化カリウムなど) | 蒸発晶析と同じく、蒸発面の壁や飛沫の付く所に結晶が付く |
| 貧溶媒晶析 | 溶けにくい溶媒を加える | 医薬品などの有機物。熱に弱い物 | 混ざり方で局所の過飽和が変わり、スケールアップで結果が変わりやすい。アモルファスや多形も出やすい |
| 反応晶析 | 反応で溶けにくい物をつくる(中和など) | 難溶性の物質(炭酸塩・硫酸塩・水酸化物など) | 過飽和が高くなりやすく、細かい結晶や凝集物になる。供給口の位置で粒径が変わる |
表は化学工学便覧と『化学工学 解説と演習』などの記述から組み立てました。
化学工学便覧は、通常の晶析装置で扱える液の目安に粘度・溶解度・沈む速さを挙げています。
- 溶液の粘度が1ポイズ(100 mPa·s)以下
- 析出する成分の溶解度が数%〜40%
- 結晶が飽和溶液の中を沈む終末速度が数cm/min〜数cm/s
晶析を選ぶ前に固液平衡から収支を計算し、ラボで目的の結晶が取れるかを確かめます。
例題:終わりの温度と母液の扱いで収量を比べる
例として、70℃で飽和させた水溶液を回分で冷やし、3水和物の結晶を取ります。どれも仮の値で、特定の物質や設備のものではありません。
- 原液:水2,000 kgに溶質が無水物で1,000 kg
- 溶解度(水100 kgあたり、無水物で数える):70℃で50 kg、45℃で33 kg、15℃で23 kg
- モル質量:無水物252 g/mol、3水和物306 g/mol(R=1.214)
- 冷やせる温度:冷却水で45℃まで、チラーの冷水を使えば15℃まで
- 冷却水で45℃まで冷やす場合:C=1.214×2,000×(50−33)÷(100−33×0.214)=444 kg。無水物で366 kgが結晶になり、収率は37%です。634 kgは母液に残ります。
- チラーで15℃まで冷やす場合:C=1.214×2,000×(50−23)÷(100−23×0.214)=690 kg。収率は57%に上がります。ただ結晶は質量で約23%になり、後述のスラリー濃度20%の目安を超えます(45℃では約15%)。また、45℃から下で除く熱が約310 MJ増えます(比熱と結晶化熱は下の節の値)。
- 45℃止まりで母液の8割を次のバッチに戻し、2割を抜く場合:失う溶質は抜いた液の127 kgだけです。新しく入れる溶質493 kgのうち結晶になるのが366 kg(無水物として)で、回収率は74%(戻さなければ37%)。粗製品に溶質の1%の不純物があり、結晶に入らず母液に残るとします。母液を戻す運転を繰り返して落ち着くと、母液の不純物は捨てる運転の0.4%から1.0%に上がります(初回は約0.48%)。
結晶水を忘れて無水物の式で解くと、1の結晶は340 kgとなり、約4分の1(23%)少なく見積もります。2はチラーの能力と電力に見合うか、3は不純物がどこまで許されるかが判断の分かれ目です。
冷却に要る熱量
冷却晶析で除く熱は、液の顕熱と結晶化熱の和です。溶解度が温度とともに増える物質では、結晶になるときに熱が出ます。結晶化熱の大きさは溶解熱と同じとみなせます。
冷却晶析で除く熱量
式は横にスクロールできます
Q:除く熱量[kJ]、m:原液の質量[kg]、cp:原液の比熱[kJ/(kg·K)]、T₁・T₂:始めと終わりの温度[℃]、C:析出する結晶の量[kg]、ΔHc:結晶の質量あたりの結晶化熱[kJ/kg]
例として比熱を3.0 kJ/(kg·K)、結晶化熱を150 kJ/kgと置きます。式のmは原液の3,000 kgです。冷却水は比熱4.18 kJ/(kg·K)、1 kg≒1 Lとして計算しました。例題の1では、顕熱225 MJに結晶化熱67 MJが加わります。結晶化熱を落とすと、除熱を23%少なく見積もる計算です。3時間で冷やすなら平均27 kWで、温度差5 Kの冷却水なら4.7 m³/hです。後半を速める冷やし方(後述)では、除く熱が終盤に集まります。冷却能力は、平均より終盤の最大で決まります。冷媒の温度は、終わりの温度より低くしないと冷やしきれません。計算は熱量・熱収支(別サイト)と冷却水・蒸気・熱媒油の必要量(別サイト)のツールでできます。
溶解度曲線と過飽和(準安定域)
結晶は溶解度を超えた過飽和でないと出ず、飽和の線を越えてもすぐには核ができません。さらに冷やして核が出始める点を結んだ線が、過溶解度曲線です。溶解度曲線との間を準安定域と呼びます。準安定域の液に種晶を入れると、結晶は育ちますが数は増えません。
過溶解度曲線は冷却速度・撹拌・液の前処理で動き、同じ条件でもばらつきます。実装置で安定して運転できる過飽和度は、これよりはるかに低い値です。
| 表し方 | 式 | 例:溶解度20に対し濃度24 |
|---|---|---|
| 濃度の差 Δc | c − cs | 4 |
| 過飽和比 S | c ÷ cs | 1.2 |
| 相対過飽和度 σ | (c − cs) ÷ cs = S − 1 | 0.2 |
「過飽和度」は化学工学便覧では主に濃度の差、『化学工学 解説と演習』では比を指します。数値を比べる前に、どちらの定義かを確かめるのが先です。
工業装置では、すでにある結晶が元になる2次核が主です。撹拌翼などとの衝突でできる2次核が、撹拌槽の粒度を左右します。
結晶の大きさを決めるもの
核ができる速さは過飽和度のb乗、結晶が育つ速さはg乗に比例するとされます。多くの系でbは2〜4、gは1〜2です(解説 化学工学)。過飽和が2倍になると、核のできる速さは4〜16倍になります。育つ速さは2〜4倍にとどまり、急に冷やすと結晶が細かくなります。
冷却の速さ
回分の冷却晶析には、初めは遅く冷やして後半に速める方法があります。初めは結晶が少なく、溶質を受け取る表面が小さいためです。冷媒の温度を一定にすると、温度差の大きい初めほど速く冷えて核が出すぎやすくなります。
種晶の量
準安定域に保って種晶だけを育てれば、粒をそろえられます。核が出なければ、製品の粒径は種晶の量で決まります。
種晶だけが育つときの製品の粒径
式は横にスクロールできます
Cs:種晶添加比(理論収量に対する種晶の質量の比)[-]、Lp:製品結晶の体積平均径[μm]、Ls:種晶の体積平均径[μm]
例題の1は理論収量が444 kgです。種晶を3倍の径に育てるならCs=1/26(0.038)で、種晶は約17 kg要ります。ただ、カリミョウバンの例では0.051でも新しい核が育ちました(プロセスケミストのための化学工学)。核を抑えられた0.33では、径は約1.6倍まででした。核を抑えきる種晶の量は、系ごとに実験で確かめます。
撹拌の強さ
撹拌は、結晶を液に浮かせておくためにも欠かせません。弱いと結晶が底にたまって塊になり、強すぎると割れた破片が新しい核になります。翼の回転数が大きいときや、大きい結晶が翼に当たるときも2次核が増えます。翼の選び方は撹拌翼の種類と特徴の記事です。槽を大きくするときの指標は、撹拌槽のスケールアップにまとめています。
晶析装置の種類と選び方
生産量が少ないと連続運転は安定させにくく、回分が選ばれます。化学工学便覧は、その境の目安を1日1 tほどとしています。
| 装置 | 形と流れ | 向く場面 | 弱み |
|---|---|---|---|
| 撹拌槽型(回分) | ジャケット・槽内のコイル・外部の熱交換器で冷やす | 少量の生産。医薬品などの回分の晶析。製品の粒径が数百μmまで | 冷却面に結晶が付く。撹拌が強いと2次核が増える |
| カランドリア型(回分) | 槽内の加熱管で沸かして濃縮する。構造が単純で、基本形は可動部が無い | 手軽な回分の蒸発晶析 | 初めは結晶が少なく、蒸発が速いと過飽和が上がりすぎる。槽底に結晶がたまりやすい |
| DTB型(連続) | 筒(ドラフトチューブ)の中のプロペラで結晶ごと循環させる | 成長の遅い系。懸濁密度を高くとれる。翼を改良したDP型は2次核を抑え、粗い粒にも使う | 結晶の角が削れて形がくずれやすい。粒径の分布は広い |
| クリスタル-オスロ型(連続) | 過飽和をつくる部分と結晶を育てる層を分け、上向きの流れで粒を分級する | 沈みの速い粗い結晶(数百μmより大きい粒)。光沢のある粒のそろった結晶 | DTB型より構造と操作が複雑。有機物の結晶(比重1.5ほど)は母液との差が小さく分級しにくい |
表は化学工学便覧の表9·5と『解説 化学工学』5·5·3をもとにまとめました。
連続装置は結晶の終末沈降速度で選びます。1 cm/s以上なら分級層型(クリスタル-オスロ型など)が目安です(化学工学便覧)。遅ければ混合型(DTB型など)を使います。終末速度は球形粒子の終末沈降速度(別サイト)のツールで見積もれます。
回分の終わりに、結晶の体積が装置容積の3割ほど(空間率0.7)までが目安です(化学工学便覧)。これは立方体や球に近い結晶の値です。針状の結晶は絡み合うため、1〜1.5割(空間率0.85〜0.9)に抑えます。装置の大きさを決める値で、付着と2次核を抑えるスラリー濃度20%(後述)とは別の基準です。
つまずきやすい点
溶解度の単位と水和物の種類を取り違える
溶解度の単位は、水100 gあたりのgか質量%かで値が大きく違います。水100 gあたり60 gは、質量%なら37.5%です。水和物で析出する物質でも、溶解度が無水物の量で書かれている表があります。析出する水和物も一定とは限りません。医薬品の再結晶では、撹拌中に無水和物が0.5水和物に変わった例があります。
急冷すると結晶が細かくなりろ過しにくい
細かい結晶はろ過が遅く、表面に付く母液も増えます。母液の付着で純度が落ちやすいのは、小さい結晶・凝集した結晶・薄い板状の結晶です。伝熱面の狭い実機で冷媒の温度を下げて除熱を稼ぐと、伝熱面に結晶が付きます。総括伝熱係数がかえって下がり、狙いと逆の結果になりがちです。細かい結晶が出たら、温度を一時的に上げてそれだけを溶かす手があります。
壁や冷却面に結晶が付く
晶析缶では、1〜2日で接液部に結晶が付いて育つことがあります(化学工学便覧)。ソルティングアップと呼ばれ、止めて洗う手間が生じます。原因は壁の近くの高い過飽和と、壁に付く細かい結晶や増えすぎた2次核です。
- 壁を保温か加温して、壁の近くの過飽和を下げる
- 結晶を液に浮かせて、壁の近くの過飽和を下げる。浮かせすぎると2次核が増えるため、スラリー濃度は20%以下が一応の目安(化学工学便覧)
- 壁の面をバフ研磨(220番以上)して、核ができにくく結晶が付きにくい面にする
- スケールになる成分を、原液からあらかじめ除く
セッコウのように温度が高いほど溶けにくい物は、加熱する伝熱面にスケールをつくります。
母液に残る分と結晶に付く母液
式の値は、終点で母液が飽和まで下がったときの量です。過飽和が残ったまま取り出せば、収量は式より少なくなります。ろ過のあとの結晶に付いた母液は、乾かすと溶質や不純物ごと残ります。遠心分離で液を切り、洗浄で除くのはこのためです。
参考資料
- 化学工学会編『改訂六版 化学工学便覧』丸善、1999年(9章 晶析 p.491〜520)
- 化学工学会監修、多田豊編『化学工学 ―解説と演習― 改訂第3版』朝倉書店、2008年(9.3 晶析 p.259〜263)
- 竹内雍・松岡正邦・越智健二・茅原一之『解説 化学工学 改訂版』培風館、2001年(5·5 晶析操作 p.171〜174)
- 日本プロセス化学会編『プロセスケミストのための化学工学(基礎編)』化学工業日報社、2015年(4章 晶析 p.101〜128)
- D. M. ヒンメルブラウ著、大竹伝雄訳『化学工学の基礎と計算(原書第4版)』培風館、1986年(2章 物質収支 例題2·18 p.70、2·6 p.73)
