晶析の収量の計算

化学工学/晶析晶析の1本目(全1本)公開

晶析は主に溶液を冷やすか溶媒を蒸発させて、溶けた成分を結晶として取り出す操作です。取れる結晶の量は溶解度と物質収支で決まり、水和物なら結晶水まで数えます。後半は方法と装置の選び方、結晶が細かくなる原因と壁への付着も扱います。

晶析で取れる結晶の量の求め方

  1. 原液の溶媒の量Wと溶質の量を出す。溶質は無水物の量で数え、溶解度と同じ単位(溶媒100 kgあたりのkg)にそろえる
  2. 晶析を終える温度での溶解度S₂を、溶解度の表か曲線から読む
  3. 析出する結晶が無水物か水和物かを確かめる。水和物なら、水和物と無水物のモル質量の比Rを出す
  4. 下の式で結晶の量Cを出す。無水物ならR=1、冷やすだけならE=0とする
  5. 終点に残る過飽和と、結晶に付いて残る母液の分を見込む

晶析で析出する結晶の量

$$C = \frac{R\,\{\,W S_1 - (W - E)\,S_2\,\}}{100 - S_2\,(R - 1)}$$

式は横にスクロールできます

C:析出する結晶の量(水和物なら結晶水を含む)[kg]、R:水和物と無水物のモル質量の比[-]、W:原液の溶媒の量[kg]、S₁:原液の濃度(溶媒100 kgあたりの溶質。無水物で数える)[kg/100 kg]、S₂:晶析を終える温度での溶解度(S₁と同じ単位)[kg/100 kg]、E:蒸発させた溶媒の量[kg]

原液の溶質を結晶と母液に分ける物質収支から出た式です。水和物は結晶水の分だけ母液の溶媒が減り、そのぶん溶質も多く析出します。無水物を冷やすだけなら、式はC=W(S₁−S₂)/100になります。

この記事の内容
  1. 冷却晶析と蒸発晶析の使い分け
  2. 例題:終わりの温度と母液の扱いで収量を比べる
  3. 溶解度曲線と過飽和(準安定域)
  4. 結晶の大きさを決めるもの
  5. 晶析装置の種類と選び方
  6. つまずきやすい点
  7. 参考資料

冷却晶析と蒸発晶析の使い分け

溶解度より濃い過飽和のつくり方で方法が分かれ、向く系と弱みが違います。

方法 過飽和のつくり方 向く系 弱み
冷却晶析 溶液を冷やす 温度で溶解度が大きく変わる系(硝酸カリウムなど) 冷却面に結晶が付きやすい。低温で溶解度が小さいと過飽和の比が大きくなり、核が出すぎやすい
蒸発晶析 溶媒を蒸発させて濃くする 温度で溶解度があまり変わらない系(塩化ナトリウムなど)。薄い溶液 蒸発面の壁に結晶が付く。液が長く留まり不純物がたまる
真空冷却晶析 減圧で溶媒を蒸発させ、その潜熱で液を冷やす。圧力で温度を決める 冷却と蒸発の中間の系(塩化カリウムなど) 蒸発晶析と同じく、蒸発面の壁や飛沫の付く所に結晶が付く
貧溶媒晶析 溶けにくい溶媒を加える 医薬品などの有機物。熱に弱い物 混ざり方で局所の過飽和が変わり、スケールアップで結果が変わりやすい。アモルファスや多形も出やすい
反応晶析 反応で溶けにくい物をつくる(中和など) 難溶性の物質(炭酸塩・硫酸塩・水酸化物など) 過飽和が高くなりやすく、細かい結晶や凝集物になる。供給口の位置で粒径が変わる

表は化学工学便覧と『化学工学 解説と演習』などの記述から組み立てました。

化学工学便覧は、通常の晶析装置で扱える液の目安に粘度・溶解度・沈む速さを挙げています。

  • 溶液の粘度が1ポイズ(100 mPa·s)以下
  • 析出する成分の溶解度が数%〜40%
  • 結晶が飽和溶液の中を沈む終末速度が数cm/min〜数cm/s

晶析を選ぶ前に固液平衡から収支を計算し、ラボで目的の結晶が取れるかを確かめます。

例題:終わりの温度と母液の扱いで収量を比べる

例として、70℃で飽和させた水溶液を回分で冷やし、3水和物の結晶を取ります。どれも仮の値で、特定の物質や設備のものではありません。

  • 原液:水2,000 kgに溶質が無水物で1,000 kg
  • 溶解度(水100 kgあたり、無水物で数える):70℃で50 kg、45℃で33 kg、15℃で23 kg
  • モル質量:無水物252 g/mol、3水和物306 g/mol(R=1.214)
  • 冷やせる温度:冷却水で45℃まで、チラーの冷水を使えば15℃まで
  1. 冷却水で45℃まで冷やす場合:C=1.214×2,000×(50−33)÷(100−33×0.214)=444 kg。無水物で366 kgが結晶になり、収率は37%です。634 kgは母液に残ります。
  2. チラーで15℃まで冷やす場合:C=1.214×2,000×(50−23)÷(100−23×0.214)=690 kg。収率は57%に上がります。ただ結晶は質量で約23%になり、後述のスラリー濃度20%の目安を超えます(45℃では約15%)。また、45℃から下で除く熱が約310 MJ増えます(比熱と結晶化熱は下の節の値)。
  3. 45℃止まりで母液の8割を次のバッチに戻し、2割を抜く場合:失う溶質は抜いた液の127 kgだけです。新しく入れる溶質493 kgのうち結晶になるのが366 kg(無水物として)で、回収率は74%(戻さなければ37%)。粗製品に溶質の1%の不純物があり、結晶に入らず母液に残るとします。母液を戻す運転を繰り返して落ち着くと、母液の不純物は捨てる運転の0.4%から1.0%に上がります(初回は約0.48%)。

結晶水を忘れて無水物の式で解くと、1の結晶は340 kgとなり、約4分の1(23%)少なく見積もります。2はチラーの能力と電力に見合うか、3は不純物がどこまで許されるかが判断の分かれ目です。

冷却に要る熱量

冷却晶析で除く熱は、液の顕熱と結晶化熱の和です。溶解度が温度とともに増える物質では、結晶になるときに熱が出ます。結晶化熱の大きさは溶解熱と同じとみなせます。

冷却晶析で除く熱量

$$Q = m\,c_p\,(T_1 - T_2) + C\,\Delta H_c$$

式は横にスクロールできます

Q:除く熱量[kJ]、m:原液の質量[kg]、cp:原液の比熱[kJ/(kg·K)]、T₁・T₂:始めと終わりの温度[℃]、C:析出する結晶の量[kg]、ΔHc:結晶の質量あたりの結晶化熱[kJ/kg]

例として比熱を3.0 kJ/(kg·K)、結晶化熱を150 kJ/kgと置きます。式のmは原液の3,000 kgです。冷却水は比熱4.18 kJ/(kg·K)、1 kg≒1 Lとして計算しました。例題の1では、顕熱225 MJに結晶化熱67 MJが加わります。結晶化熱を落とすと、除熱を23%少なく見積もる計算です。3時間で冷やすなら平均27 kWで、温度差5 Kの冷却水なら4.7 m³/hです。後半を速める冷やし方(後述)では、除く熱が終盤に集まります。冷却能力は、平均より終盤の最大で決まります。冷媒の温度は、終わりの温度より低くしないと冷やしきれません。計算は熱量・熱収支(別サイト)と冷却水・蒸気・熱媒油の必要量(別サイト)のツールでできます。

溶解度曲線と過飽和(準安定域)

結晶は溶解度を超えた過飽和でないと出ず、飽和の線を越えてもすぐには核ができません。さらに冷やして核が出始める点を結んだ線が、過溶解度曲線です。溶解度曲線との間を準安定域と呼びます。準安定域の液に種晶を入れると、結晶は育ちますが数は増えません。

過溶解度曲線は冷却速度・撹拌・液の前処理で動き、同じ条件でもばらつきます。実装置で安定して運転できる過飽和度は、これよりはるかに低い値です。

表し方 式 例:溶解度20に対し濃度24
濃度の差 Δc c − cs 4
過飽和比 S c ÷ cs 1.2
相対過飽和度 σ (c − cs) ÷ cs = S − 1 0.2

「過飽和度」は化学工学便覧では主に濃度の差、『化学工学 解説と演習』では比を指します。数値を比べる前に、どちらの定義かを確かめるのが先です。

工業装置では、すでにある結晶が元になる2次核が主です。撹拌翼などとの衝突でできる2次核が、撹拌槽の粒度を左右します。

結晶の大きさを決めるもの

核ができる速さは過飽和度のb乗、結晶が育つ速さはg乗に比例するとされます。多くの系でbは2〜4、gは1〜2です(解説 化学工学)。過飽和が2倍になると、核のできる速さは4〜16倍になります。育つ速さは2〜4倍にとどまり、急に冷やすと結晶が細かくなります。

冷却の速さ

回分の冷却晶析には、初めは遅く冷やして後半に速める方法があります。初めは結晶が少なく、溶質を受け取る表面が小さいためです。冷媒の温度を一定にすると、温度差の大きい初めほど速く冷えて核が出すぎやすくなります。

種晶の量

準安定域に保って種晶だけを育てれば、粒をそろえられます。核が出なければ、製品の粒径は種晶の量で決まります。

種晶だけが育つときの製品の粒径

$$\frac{L_p}{L_s} = \left( \frac{1 + C_s}{C_s} \right)^{1/3}$$

式は横にスクロールできます

Cs:種晶添加比(理論収量に対する種晶の質量の比)[-]、Lp:製品結晶の体積平均径[μm]、Ls:種晶の体積平均径[μm]

例題の1は理論収量が444 kgです。種晶を3倍の径に育てるならCs=1/26(0.038)で、種晶は約17 kg要ります。ただ、カリミョウバンの例では0.051でも新しい核が育ちました(プロセスケミストのための化学工学)。核を抑えられた0.33では、径は約1.6倍まででした。核を抑えきる種晶の量は、系ごとに実験で確かめます。

撹拌の強さ

撹拌は、結晶を液に浮かせておくためにも欠かせません。弱いと結晶が底にたまって塊になり、強すぎると割れた破片が新しい核になります。翼の回転数が大きいときや、大きい結晶が翼に当たるときも2次核が増えます。翼の選び方は撹拌翼の種類と特徴の記事です。槽を大きくするときの指標は、撹拌槽のスケールアップにまとめています。

晶析装置の種類と選び方

生産量が少ないと連続運転は安定させにくく、回分が選ばれます。化学工学便覧は、その境の目安を1日1 tほどとしています。

装置 形と流れ 向く場面 弱み
撹拌槽型(回分) ジャケット・槽内のコイル・外部の熱交換器で冷やす 少量の生産。医薬品などの回分の晶析。製品の粒径が数百μmまで 冷却面に結晶が付く。撹拌が強いと2次核が増える
カランドリア型(回分) 槽内の加熱管で沸かして濃縮する。構造が単純で、基本形は可動部が無い 手軽な回分の蒸発晶析 初めは結晶が少なく、蒸発が速いと過飽和が上がりすぎる。槽底に結晶がたまりやすい
DTB型(連続) 筒(ドラフトチューブ)の中のプロペラで結晶ごと循環させる 成長の遅い系。懸濁密度を高くとれる。翼を改良したDP型は2次核を抑え、粗い粒にも使う 結晶の角が削れて形がくずれやすい。粒径の分布は広い
クリスタル-オスロ型(連続) 過飽和をつくる部分と結晶を育てる層を分け、上向きの流れで粒を分級する 沈みの速い粗い結晶(数百μmより大きい粒)。光沢のある粒のそろった結晶 DTB型より構造と操作が複雑。有機物の結晶(比重1.5ほど)は母液との差が小さく分級しにくい

表は化学工学便覧の表9·5と『解説 化学工学』5·5·3をもとにまとめました。

連続装置は結晶の終末沈降速度で選びます。1 cm/s以上なら分級層型(クリスタル-オスロ型など)が目安です(化学工学便覧)。遅ければ混合型(DTB型など)を使います。終末速度は球形粒子の終末沈降速度(別サイト)のツールで見積もれます。

回分の終わりに、結晶の体積が装置容積の3割ほど(空間率0.7)までが目安です(化学工学便覧)。これは立方体や球に近い結晶の値です。針状の結晶は絡み合うため、1〜1.5割(空間率0.85〜0.9)に抑えます。装置の大きさを決める値で、付着と2次核を抑えるスラリー濃度20%(後述)とは別の基準です。

つまずきやすい点

溶解度の単位と水和物の種類を取り違える

溶解度の単位は、水100 gあたりのgか質量%かで値が大きく違います。水100 gあたり60 gは、質量%なら37.5%です。水和物で析出する物質でも、溶解度が無水物の量で書かれている表があります。析出する水和物も一定とは限りません。医薬品の再結晶では、撹拌中に無水和物が0.5水和物に変わった例があります。

急冷すると結晶が細かくなりろ過しにくい

細かい結晶はろ過が遅く、表面に付く母液も増えます。母液の付着で純度が落ちやすいのは、小さい結晶・凝集した結晶・薄い板状の結晶です。伝熱面の狭い実機で冷媒の温度を下げて除熱を稼ぐと、伝熱面に結晶が付きます。総括伝熱係数がかえって下がり、狙いと逆の結果になりがちです。細かい結晶が出たら、温度を一時的に上げてそれだけを溶かす手があります。

壁や冷却面に結晶が付く

晶析缶では、1〜2日で接液部に結晶が付いて育つことがあります(化学工学便覧)。ソルティングアップと呼ばれ、止めて洗う手間が生じます。原因は壁の近くの高い過飽和と、壁に付く細かい結晶や増えすぎた2次核です。

  • 壁を保温か加温して、壁の近くの過飽和を下げる
  • 結晶を液に浮かせて、壁の近くの過飽和を下げる。浮かせすぎると2次核が増えるため、スラリー濃度は20%以下が一応の目安(化学工学便覧)
  • 壁の面をバフ研磨(220番以上)して、核ができにくく結晶が付きにくい面にする
  • スケールになる成分を、原液からあらかじめ除く

セッコウのように温度が高いほど溶けにくい物は、加熱する伝熱面にスケールをつくります。

母液に残る分と結晶に付く母液

式の値は、終点で母液が飽和まで下がったときの量です。過飽和が残ったまま取り出せば、収量は式より少なくなります。ろ過のあとの結晶に付いた母液は、乾かすと溶質や不純物ごと残ります。遠心分離で液を切り、洗浄で除くのはこのためです。

参考資料

  1. 化学工学会編『改訂六版 化学工学便覧』丸善、1999年(9章 晶析 p.491〜520)
  2. 化学工学会監修、多田豊編『化学工学 ―解説と演習― 改訂第3版』朝倉書店、2008年(9.3 晶析 p.259〜263)
  3. 竹内雍・松岡正邦・越智健二・茅原一之『解説 化学工学 改訂版』培風館、2001年(5·5 晶析操作 p.171〜174)
  4. 日本プロセス化学会編『プロセスケミストのための化学工学(基礎編)』化学工業日報社、2015年(4章 晶析 p.101〜128)
  5. D. M. ヒンメルブラウ著、大竹伝雄訳『化学工学の基礎と計算(原書第4版)』培風館、1986年(2章 物質収支 例題2·18 p.70、2·6 p.73)

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