撹拌に伴う液面変化量の推算

2023年6月25日 広告

液面変化の影響

特に低粘度領域において、バッフルのない撹拌槽で撹拌した場合、液面に偏りが生じます。

この液面変化には様々な悪影響を生じます。

漏洩

撹拌に伴う慣性力の増加により、タンクの外側ほど液面が高くなります。

漏洩はもちろんのこと、それに派生した火災や怪我に繋がりかねません。

ガス吸込み

回転軸付近の液面が低下することにより、翼が液ではなく周辺のガスを吸い込むようになってしまいます。

吐出力低下はもちろんのこと、泡立ちなども引き起こします。

混合性能の低下

低粘度液をバッフルなしで撹拌した場合、軸に近い領域に固体的回転部と呼ばれる特に流れの悪い領域が発生します。

固体的回転部を含めた槽内全体の混合には、固体的回転部を含めない外周部のみの混合の2~3倍の時間が必要です。

固体的回転半径は以下の式で推算できます。

固体的回転半径の推算式
$$ \frac{2r_{c}}{d}=1.23\left\{0.57+0.35\left(\frac{d}{D}\right)\right\}\left(\frac{b}{D}\right)^{0.036}\left(\frac{{n_{p}}^{0.116}Re}{10^{3}+1.43Re}\right)$$rc:固体的回転半径[m]、d:翼径[m]、D:槽径[m]
b:羽根幅[m]、np:羽根枚数[-]、Re:撹拌レイノルズ数[-]

参考資料:回分撹拌装置の混合性能(化学工学論文集 1967 年 31 巻 4 号 p. 365-372,a1)

速度分布

固体的回転半径rcより内側か外側かで旋回流の速度分布が変化します。

特に内側では翼の回転速度と一致します。

タンク内の旋回流速度
$$ u_{t}=\begin{cases}2\pi nr & \left(0\leq r\leq r_{c}\right)\\\\
2\pi nr_{c}\left(r_{c}/r\right)^{m} & \left(r_{c}\leq r\leq D/2\right)
\end{cases}$$
ut:旋回流速度[m/s]、rc:固体的回転半径[m]
n:回転数[1/s]、r:槽中心からの距離[m]、D:槽径[m]

rcより外側における係数mは、よく0.8を用います。

液面変化量の推算

ここから液面変化量の推算方法を紹介します。

フルード数

フルード数Frは液表面の流れの状態を表す無次元数です。

液面変化量はフルード数に依存します。

フルード数
$$ Fr=\frac{\left(nd\right)^{2}}{dg}=\frac{n^{2}d}{g}$$Fr:フルード数[-]、n:回転数[1/s]、d:翼径[m]、g:重力加速度[m/s2

液面の低下量

タンク中心部、つまり撹拌軸付近の液面低下量は以下の式で推算できます。

中心部の液面低下量
$$ \Delta H_{ 1 } = \pi^2 d \cdot Fr \cdot \left(\frac{ 2 r_{ c }}{ d } \right)^{ 2 } \left[ 1- \left( \frac{ 2 r_{ c }}{ D } \right)^{ 2 } \left\{ \ln \left( \frac{ D }{ 2 r_{ c }} \right) + \frac{ 3 }{ 4 } \right\} \right]$$ΔH1中心部液面低下量[m]、d:翼径[m]、Fr:フルード数[-]
rc:固体的回転半径[m]、D:槽径[m]

液面の上昇量

タンク壁面の液面上昇量は以下の式で推算できます。

槽壁部の液面上昇量
$$ \Delta H_{ 2 } = \pi^2 d \cdot Fr \cdot \left( \frac{ 2 r_{ c }}{ d } \right)^{ 2 } \left( \frac{ d }{ D } \right)^{ 2 } \left\{ \ln \left( \frac{ D }{ 2 r_{ c } } \right) + \frac{ 1 }{ 4 } \right\}$$ΔH2槽壁部液面上昇量[m]、d:翼径[m]、Fr:フルード数[-]
rc:固体的回転半径[m]、D:槽径[m]

参考資料

・最新ミキシング技術の基礎と応用

撹拌に関する詳細な計算方法が解説されています。
撹拌機の機械的強度の計算など、撹拌装置を設計するためのノウハウが詰め込まれておりオススメです。

最新ミキシング技術の基礎と応用(化学工学の進歩42)
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・プロセスケミストのための化学工学

化学プロセスの各要素に対する設計方法や注意点が解説されています。
実用的なプロセス設計を勉強したいときにオススメの書籍です。

プロセスケミストのための化学工学(基礎編)
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・化学工学ー解説と演習ー

化学工学を勉強したい!と思ったら真っ先にオススメしたい書籍です。
他の汎用化学工学書籍には無い「撹拌動力計算」や「撹拌伝熱計算」も記載されています。

化学工学―解説と演習ー
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