令和3年度 問6

炭素Cと水素Hからなる化合物(①~⑤)のうち、次の記述のA~Cのすべてに当てはまるものとして、最も適切なものはどれか。

  1. 芳香族性を持つ。
  2. 紫外可視吸収スペクトルにおいて、可視領域に吸収極大を持ち、炭化水素としては非常に大きな双極子モーメント(µ=1.0D)を持つ。
  3. 重クロロホルム中の1H-NMRスペクトルでは、すべての水素核の化学シフトはδ6.5からδ8.5に存在する。

解答解説

正答は4番です。

まずAについて考えます。

芳香族性を持つための条件は4つあります。

  1. 環状構造である
  2. 完全共役している
  3. 平面構造をとる
  4. 一つの環状に (4n+2)個のπ電子を含む(Hückel則)

Ⅰ~Ⅲを満たしていない化合物は「非芳香族化合物」、Ⅳだけ満たしていない化合物は「反芳香族化合物」と呼ばれます。

1番のシクロデカペンタエン([10]アヌレン)は非芳香族化合物です。環がくびれた箇所の炭素に結合した水素原子が立体的な障害となるため平面構造を取れません。そのためⅡの条件が満たせません。その他の化合物は全て芳香族性を持ちます。

次にBについて考えます。

可視光を吸収するためには、分子内に長い共役系が必要です。参考に代表的な芳香族化合物の吸収極大波長を示します。可視域は400nm~700nmあたりを指します。

  • ベンゼン:255nm
  • ナフタレン:286nm
  • アントラセン:375nm
  • フェナントレン:260nm

吸収極大波長が紫外領域であることは多く、今回の化合物も4番のアズレンのみ可視域で吸収極大があります。

またアズレンは、π電子が5員環と7員環で不均一な分布であるため極性構造を取ります。7員環から5員環方向へ1.08Dの双極子モーメントを持ちます。

最後にCについて考えます。

重クロロホルム中の1H-NMRスペクトルにおいて、水素核の化学シフトがδ6.5からδ8.5に存在するのは芳香族水素が該当します。よって3番のフェナントレンや4番のアズレンです。

A~Cの結果から、答えはアズレンとなります。

参考資料

https://www.chem.s.u-tokyo.ac.jp/users/bioorg/member/Goto_class/ORC_11_handout_2018.pdf
有機反応化学 第10回 芳香族化合物

www.chem.s.u-tokyo.ac.jp

紫外可視吸収と有機化合物の構造との関係 : 分析計測機器(分析装置) 島津製作所
紫外可視吸収と有機化合物の構造との関係

www.an.shimadzu.co.jp

http://chem.okayama-u.ac.jp/~analytical/analytical_3/4.pdf
第 4 回 蛍光光度法(フェナントレン)

chem.okayama-u.ac.jp

https://www.shikizai.org/Journal/backnumber/vol92/04/107_112.pdf
アズレン化合物およびその応用

www.shikizai.org

2024年3月11日 広告

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