実在気体に関する次の記述の下線部のうち、最も不適切なものはどれか。
実在気体のPV線図(横軸:体積V、縦軸:圧力P)において、高温での等温線は理想気体における①ボイルの法則からほんの少しずれるに過ぎない。ある温度以下で温度一定のまま圧縮すると、ある圧力で気体は凝縮して液体を生じ始め、体積が減少していく。すべての気体が液体になるまで圧力は一定のままであり、このときの圧力はこの温度における②平衡蒸気圧である。つまり、液体を生じ始め、気体すべてが液体になるまでの領域は、気液2相が平衡を保っている領域であり、この間圧力が一定であることは、ギブスが導出した③相律から④自由度(可変度)0として説明できる。
気液2相領域の頂点と接する等温線の温度を臨界温度といい、液化させるためには温度を⑤臨界温度以下にする必要がある。
解答解説
正答は4番です。
理想気体とは、分子自体に体積がなく分子間力もはたらかない気体を指します。更に状態変化もありません。つまり現実には存在しません。対して分子の体積や分子間力も考慮した場合を実在気体と呼びます。理想気体の場合、理想気体の状態方程式(PV = nRT)やボイルシャルルの法則(PV/T=一定)が成り立ちます。
分子間力がはたらくとき、理想気体よりも体積の変化が大きくなります。一般に引力がはたらくため実在気体の方が体積は小さくなります。温度が高くなるほど分子間力の影響は相対的に小さくなり、理想気体に近い状態となります(1番)。
平衡蒸気圧は、液体と蒸気が平衡状態(気液平衡)にあるときの蒸気の圧力と定義されます。この圧力において気体と液体の状態変化が起こっています。凝縮が進むにつれて気体の一部が液体に変わるため、全体の体積が減少していきます。つまり圧力と温度が一定で体積が減少していきます(2番)。
3番、4番のギブスの相律(もしくは相律)は F = C - P + 2 で表されます。ここで、Fは自由度、Cは成分数、Pは相数です。気液平衡状態では成分数 C = 1 (純粋な物質の場合)、相数 P = 2 (気相と液相)であるため自由度はF = 1 - 2 + 2 = 1です。0ではありません。少々難しい考えのため相律の例を以下に示します。
- 純粋な水(1成分系)の場合:
- 水蒸気のみ(1相):F = 1 - 1 + 2 = 2
温度と圧力を自由に変えられます。 - 水と水蒸気(2相):F = 1 - 2 + 2 = 1
温度か圧力のどちらか一方しか変えられません。 - 氷、水、水蒸気(3相、三重点):F = 1 - 3 + 2 = 0
温度も圧力も変えられず、一点で固定されます。
- 水蒸気のみ(1相):F = 1 - 1 + 2 = 2
- 塩水(2成分系)の場合:
- 液体の塩水のみ(1相):F = 2 - 1 + 2 = 3
温度、圧力、塩の濃度を自由に変えられます。
- 液体の塩水のみ(1相):F = 2 - 1 + 2 = 3
気体が液化する最高温度を臨界温度と呼びます。この温度を超えた状態は高い圧力をかけても液化しません。液化させるためには臨界温度以下にしなければなりません(5番)。
参考資料
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理想気体と実在気体・状態方程式
rikeilabo.com
-
相律 金属材料基礎講座(その10)
www.monodukuri.com
-
気体の臨界点・臨界温度
klchem.co.jp