窒素置換の回数と窒素量の計算

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窒素は、タンクや配管の中の酸素を減らして火災・爆発や製品の酸化を防ぐガスです。置換の回数と窒素の量は、圧力の比と容積から計算できます。窒素は酸欠事故の原因にもなるため、置換の終わりの確かめ方と入槽前の測定まで載せました。

置換の回数と窒素の量(例:10 m³の容器・20 ℃・酸素21%→1%)

置換の方法(例の圧力) 1回で残る酸素の割合 回数 終えたときの酸素 窒素の量
加圧置換 0.1 MPaG⇄大気圧 0.50 5回 0.68% 46 Nm³
加圧置換 0.3 MPaG⇄大気圧 0.25 3回 0.34% 83 Nm³
加圧置換 0.5 MPaG⇄大気圧 0.17 2回 0.60% 92 Nm³
真空置換 20 kPa(絶対圧)⇄大気圧 0.20 2回 0.82% 15 Nm³
流通置換(中が完全に混ざる場合) - 容積の3.0倍を流す 1% 28 Nm³

表は、1回ごとに中のガスがよく混ざり純粋な窒素を使うとした計算値です。Nm³は0 ℃・1気圧に換算した体積です。

この記事の内容
  1. シール・パージ・置換の使い分け
  2. 置換の回数と窒素量の式
  3. 加圧・真空・流通置換の比べ方
  4. 置換が終わったかは酸素濃度で決める
  5. 窒素の供給方法と純度
  6. 窒素シールで使う窒素の量
  7. 窒素による酸欠を防ぐ
  8. 参考資料

シール・パージ・置換の使い分け

使い方 目的 窒素の入れ方 使う場面の例
シール(ブランケット) 運転中の気相に空気を入れない 液の払い出しや温度の低下で圧力が下がった分を補う 溶剤のタンク、可燃性溶剤を含む湿ったケーキの排出
パージ 流し続けて空気を入れず、蒸気もためない 決めた量を連続で流す パージ式液位計の吹き込み、真空乾燥での通気
置換 中の気体を入れ替える 回数か流す量を決めて入れ、酸素濃度を測って止める 運転を始める前、設備を開ける前

出典:使い方の例=CSB p.1/ケーキ・真空乾燥=日本プロセス化学会 pp.135・166/液位計・置換=今西 pp.209・242

置換もパージと呼ばれます。表の3つは、窒素の入れ方の違いで分けたものです。

窒素で酸素を減らすのは、燃焼の3要素から空気を除く対策です。目標の酸素濃度は、扱う物質の限界酸素濃度に余裕を見て工程ごとに決めます。限界酸素濃度は物質で違います。メタンでは、空気に窒素を加えた場合で12%です(26 ℃・1気圧)。温度や圧力が上がると、この値は下がります(米国鉱山局の資料)。

運転を始めるときは、空気を窒素に置き換えてから原料を入れます。設備を開けるときは逆の順で、可燃物を窒素で追い出してから空気を入れます。可燃物を空気で直接追い出すと、途中で燃える濃度の範囲を通るおそれがあるためです。窒素で追い出した可燃ガスも、出た先の空気と混ざれば燃える濃度になることがあります。

置換の回数と窒素量の式

加圧置換は、窒素で加圧して大気圧まで放出する操作の繰り返しです。真空置換は、真空に引いてから窒素で大気圧に戻します。純粋な窒素なら、どちらも1回ごとに酸素濃度が(低い圧力÷高い圧力)倍になります。

加圧置換・真空置換の酸素濃度[%]

$$y_{n}-y_{s}=\left(y_{0}-y_{s}\right)\left(\frac{P_{L}}{P_{H}}\right)^{n}$$

式は横にスクロールできます

y0・yn:初めとn回後の酸素濃度[%]、ys:供給する窒素の酸素濃度[%]、PL・PH:低い側と高い側の絶対圧[kPa]、n:回数[回]

圧力は、ゲージ圧に大気圧を足した絶対圧で入れます。純粋な窒素なら ys=0 です。1回に入れる窒素の量は、理想気体として圧力の差から出します。

1回に入れる窒素の量[Nm³]

$$V_{N}=V\,\frac{P_{H}-P_{L}}{101.325}\cdot\frac{273.15}{T}$$

式は横にスクロールできます

VN:1回に入れる窒素の量(0 ℃・101.325 kPaに換算)[Nm³]、V:容器と配管の内容積[m³]、T:容器の中のガスの温度[K]

Nm³と実際の体積の換算は、理想気体の状態方程式・標準状態換算のツール(別サイト)でもできます。

流通置換は、一方から窒素を入れて反対側から出し続ける方法です。中が完全に混ざるなら、残る酸素は流した量につれて指数関数で減ります。化学工学便覧の完全混合槽の式(式3·176)と同じ形です。

流通置換で流す窒素の量[m³]

$$Q=V\ln\frac{y_{0}-y_{s}}{y-y_{s}}$$

式は横にスクロールできます

Q:流す窒素の量(容器の圧力と温度での体積)[m³]、y:目標の酸素濃度[%]、V・y0・ys:上の式と同じ

加圧・真空・流通置換の比べ方

方法 窒素の量(同じ目標のとき) 向く設備 注意すること
加圧置換 多い。回数がちょうど足りる上限で比べると、上限が高いほど回数は減り量は増える 耐圧のある容器と配管 上限は設計圧力と安全弁の設定圧より低くする
真空置換 少ない 真空に耐える設計の容器 真空に耐えない容器には使わない。真空ポンプが要る
流通置換 完全に混ざれば加圧置換より少ない。押し出しに近いと減り、よどみで増える 大気圧のタンク、枝のない配管 枝管や盲腸配管の空気が抜けにくい

出典:量=上の式と例題の計算/押し出し・よどみ=参考資料11/タンクの真空=API Standard 2000 の範囲

例題の加圧置換は、上限0.1 MPaGで5回・46 Nm³でした。上限0.5 MPaGでは2回で済み、窒素は92 Nm³に増えます。回数がちょうど足りる上限で比べると、回数を増やすほど窒素は減って弁の操作と時間が増えます。ただし回数は切り上げです。0.4 MPaGの2回・74 Nm³は、0.3 MPaGの3回・83 Nm³より少なくて済みます。真空置換は20 kPaまで引けば2回で15 Nm³と、例の中で一番少ない量です。真空の作り方は真空状態の特徴と使いどころにあります。

流通置換の28 Nm³は、中が完全に混ざるとした値です。産業ガス会社の資料によれば枝のない管は押し出されて早く入れ替わり、枝管や盲腸配管はほとんど入れ替わりません。

置換が終わったかは酸素濃度で決める

式は、1回ごとに中がよく混ざる前提の目安です。置換の終わりは、測った酸素濃度で決めます。測る場所は、ベントの出口と枝の先など流れの届きにくい所です。運転前の置換では、残った酸素が決めた値に入ったことを確かめてから次の操作に移ります。

供給する窒素に残る酸素も効きます。PSAの窒素純度は窒素とアルゴンなどの合計で表し、残る酸素濃度で保証する例があります(神鋼エアーテック)。この場合、純度99.9%なら酸素が0.1%残ります。例題の流通置換をこの窒素ですると29 Nm³、酸素0.5%の窒素なら35 Nm³に増えます。酸素1%の窒素では、何回置換しても1%を下回りません。

窒素の供給方法と純度

供給方法 純度の目安 向く使い方 注意すること
ボンベ・カードル 99〜99.999% 少量や臨時の使用、予備 ボンベ1本で約7 m³。1 MPa(ゲージ圧)以上の圧縮ガスは高圧ガス保安法の高圧ガス
液化窒素(貯槽と蒸発器) 99.999%の例 使う量が多い工場 −196 ℃。液1 Lが20 ℃で約690 Lの気体になる
PSA(吸着式の窒素発生装置) 95〜99.999% 連続して使うシール・パージ 純度を上げると発生量が減る
膜分離(膜式の窒素発生装置) 95〜99.9% 低めの純度でよい用途 起動が速い。99.9%を超える純度には向かない

出典:純度・ボンベ=神鋼エアーテック(2021)/膜分離の注意=アトラスコプコ/液化窒素の温度と膨張=AIGA・NIST/高圧ガス=高圧ガス保安法

同じPSAで純度を99%から99.99%に上げると、発生量が約半分になる例があります(神鋼エアーテック)。液化窒素が蒸発した直後の窒素は冷たく、低い所にたまります。

窒素シールで使う窒素の量

窒素シールでは、液を払い出して広がった気相の分だけ窒素が入ります。例として20 ℃・ほぼ大気圧のタンクから1時間に10 m³払い出す場合、窒素は1時間あたり約9.3 Nm³です。気相が冷えるときも窒素を補います。気相100 m³が20 ℃から10 ℃まで冷えると、約3.3 Nm³を補う計算です。溶剤の蒸気が凝縮すれば、その分も加わります。

急な温度の低下まで含めた量の見込み方は、タンクの通気の規格 API Standard 2000 にあります。液を受け入れるときは逆です。気相の窒素が溶剤の蒸気と一緒に、呼吸弁から出ていきます。

窒素による酸欠を防ぐ

窒素はにおいも色もなく、酸素が減っても息苦しさで気づけません。窒素そのものや酸素がごく少ない気体を1〜2回吸っただけで、意識を失うことがあります(CSB・AIGA)。AIGAの目安では酸素18%未満で危険になり、10%未満では窒息死がほぼ確実です。6%未満では、すぐに意識を失います。CSBが集めた報告では、米国の職場で1992〜2002年に窒素による窒息で80人が亡くなりました。死傷者130人の6割超は、槽やマンホールのような閉ざされた空間の中かすぐそばにいました。亡くなった人の約1割は、助けに入った人でした。

酸素欠乏症等防止規則は、酸素濃度18%未満を酸素欠乏と定めています(第2条)。窒素を入れてあるか入れたことのあるタンクや反応塔の内部は、酸素欠乏危険場所です(労働安全衛生法施行令 別表第6 第11号)。中に入る作業に、この規則が求める主なことを挙げます。

  • 作業を始める前に酸素濃度を測る(第3条)
  • 酸素18%以上を保つように換気し、純酸素は使わない(第5条)
  • 換気できなければ空気呼吸器・酸素呼吸器・送気マスクを使う(第5条の2)
  • 窒素の配管は弁か閉止板で閉じて施錠と表示をする(第22条)
  • 窒素の配管の弁には、中の気体の名称と開閉の向きを表示する(第22条)
  • 安全弁から出る窒素が流れ込む換気の悪い場所では、外へ直接出す設備などでためない(第22条の2)
  • 救助に入る人にも空気呼吸器などを使わせる(第16条)
  • 酸素欠乏危険作業主任者を選び、作業者に特別の教育をする(第11条・第12条)

法令の要求は、所轄の行政と最新の条文で確かめてください。産業ガスの団体AIGAの指針は、さらに次のことを勧めています。

  • 測定器は使う前に外気で21%を示すか確かめる
  • 槽の底や奥を含めて何か所かで測る
  • 冷えた窒素は底にたまるので、底から吸い出す
  • 窒素で満たした容器は空気を容積の3倍以上入れて換気し、測って安全と確かめられるまで続ける
  • 窒素の配管は閉止板か切り離しにして、閉じた弁だけに頼らない
  • 窒素を出すベントは安全で風通しのよい場所へ導く
  • 吸収缶式の防毒マスクは酸欠に効かないので使わない

3倍は、空気とほぼ同じ重さの窒素の場合の値です。アルゴンや二酸化炭素では10倍以上が必要です(AIGA)。完全に混ざるとしても、空気が容積の2倍では酸素は18.2%にしか戻りません。

窒素と空気の取り違えも起きています。CSBが集めた85件のうち12件は、窒素と空気の取り違えや呼吸用空気の供給の不具合による事故でした。計装用空気の予備に、高圧の窒素をつなぐ設備もあります。その場合は、計器から出る窒素が計器盤の裏にたまるおそれがあります。その空気配管は呼吸用に使えません。

参考資料

  1. 化学工学会 編『改訂六版 化学工学便覧』丸善(1999)3·8 流通反応装置の流体混合 pp.210〜211(式3·166・3·176)、25·4·1 安全設計 p.1235
  2. 今西忠『プラント操作の基礎知識 改訂版』化学工業日報社(2005)p.209、p.231、p.242
  3. 日本プロセス化学会 編『プロセスケミストのための化学工学(基礎編)』化学工業日報社(2015)p.135、p.166、p.254、p.283
  4. L&L総合研究所 編著『この1冊で決める!!【甲種】危険物取扱者合格教本 改訂第2版』新星出版社(2015)pp.224〜225
  5. M. G. Zabetakis「Flammability Characteristics of Combustible Gases and Vapors」U.S. Bureau of Mines Bulletin 627(1965)pp.10〜11、p.28、p.30 https://digital.library.unt.edu/ark:/67531/metadc1444558/
  6. 酸素欠乏症等防止規則(昭和47年労働省令第42号)第2条・第3条・第5条・第5条の2・第11条・第12条・第16条・第22条・第22条の2 https://laws.e-gov.go.jp/law/347M50002000042
  7. 労働安全衛生法施行令 別表第6 https://laws.e-gov.go.jp/law/347CO0000000318
  8. 高圧ガス保安法 第2条 https://laws.e-gov.go.jp/law/326AC0000000204
  9. U.S. Chemical Safety and Hazard Investigation Board「Hazards of Nitrogen Asphyxiation」Safety Bulletin No.2003-10-B(2003) https://www.csb.gov/assets/1/20/sb-nitrogen-6-11-03.pdf
  10. Asia Industrial Gases Association「Hazards of Inert Gases」AIGA 008/04(2004) https://asiaiga.org/uploaded_docs/AIGA%20008_04_Hazards%20of%20Inert%20Gases%20.pdf
  11. Matheson Tri-Gas「Purging High Purity Gas Delivery Systems」INT-0258 Rev C(2019)pp.3〜4 https://store.mathesongas.com/content/Instructions-Purging.pdf
  12. 神鋼エアーテック「PSA(吸着)式・膜式 窒素ガス発生装置」(2021) https://shinko-airtech.com/pdf/05-1_N2-PSA_LineUp.pdf
  13. アトラスコプコ「メンブレン技術を使用した窒素の生成」 https://www.atlascopco.com/ja-jp/compressors/wiki/compressed-air-articles/generating-nitrogen-membrane
  14. American Petroleum Institute「API Standard 2000 Venting Atmospheric and Low-pressure Storage Tanks」7th ed.(2014)
  15. NIST Chemistry WebBook「Thermophysical Properties of Fluid Systems」(窒素) https://webbook.nist.gov/chemistry/fluid/

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